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11.火傷の跡を治しにきたと思ってください。

「生活する中で困ったことはありませんか?お力になれることがあればと思っているのです」


私が尋ねた言葉におばさまが口を開いた。


「実は今年の雪掻きが不安なのです。息子がいつもしてくれたのですが、首都に出てしまっています。公道はサイラス国王陛下のお陰で国が除雪してくれるようになったのですが、家の方はどうにもなりません」


ルイ国は豪雪地帯である。

半年は雪の中で過ごすのだから雪掻き要員は必須だ。


「街単位で雪かきの勇姿を募ってみます。雪掻きボランティア集団を作るので安心してください」


「そんなこと可能なのですか? うちは年寄りだけなので助けてもらってばかりになってしまいます」


これから回る家々の若い人に声をかけて有志の集団を作れば可能だろう。


ルイ国の人は自然の脅威にさらされている期間が長いからか、助け合いの精神を持った方が多い。

私はこの国の人々のそのようなマインドが大好きだ。


「今までおじさま、おばさまはこの街を作るのにたくさん力を使ってくれています。私は2年程しかルイ国で生活をしていませんが、自然の脅威の前では人は助けあって暮らさなければ生きていけないと感じております」

私が言った言葉におじさまとおばさまは微笑んでくださった。


♢♢♢


「今日は私のことを助けてくれて、ありがとうございます」


街中の家を回って雪かきボランティア集団を作ることができた。

そんな声かけの中効果的に私をフォローをしてくれたのが、フィリップ王太子殿下だった。


「助けてなどいません。僕は思ったことを言ったまでです」

フィリップ様の微笑みに私は心が温かくなる。


「フィリップ様に提案があるのですが、来月からのアカデミー、3年生の授業を受けませんか? フィリップ様の優秀さなら可能だと思います。それに一定の要件を満たせばルイ国のアカデミーの卒業資格も得られます。3年生の授業はディスカッション形式で面白いですよ。ルイ国の学生にとってもフィリップ様と闊達な議論は良い経験になるかと思います」


私はライアン王子に以前、3年生の授業を受けるようにすすめられたのを思い出した。

3年生の授業を受けられて要件を満たせば卒業資格を持ってサム国に帰れるはずだ。


不安と孤独に打ちひしがれている王妃様の側にフィリップ様にはいて欲しい。


私は自分で彼をルイ国にくるよう薦めながらも、彼がサム国に戻らないと王妃様が苦しいのではないかと心配で堪らなかった。


「サム国王妃である母上の心配をしてくれているのですね。イザベラ様から母上の落ち度は何もないという意見を聞いて、僕も彼女を憎むことをやめました。なんの落ち度がない両親も国民から責められたのに、兄上の不適切な振る舞いによってサム国の王家は今非難の的になっています。アカデミーの卒業資格は魅力的ですね、それくらいを持って帰らなければ自分だけ業火に包まれるサム国の王宮から逃げた言い訳がつきません」


自嘲するように話すフィリップ様に胸がつまる。

11歳なんて周りが見えなくて、自分だけのことに必死でも褒められて当然な年だ。

それなのに彼は常に周りを考えて、自分のことを考えると罪悪感を感じるようにさえなっている。


「逃げただなんて言わないでください。11年間燃やされ続けて焼け落ちそうなところ、ルイ国の雪で火傷の跡を治しにきたと思ってください。私からサイラス様にフィリップ様が1年間で卒業資格を得られる3年生の授業を受ける旨を伝えておきますね。ルイ国の学生の闊達ぶりに驚きますよ。フィリップ様は大丈夫かと思いますが、私は最初その熱気に当てられて外に避難したくらいです」


私は集まる視線に吐き気がしてしまい、エリス様に外に避難させてもらったのを思いだした。


私はルイ国でたくさんの人の温かさに心を助けられたのだ。

フィリップ様の心も少しでも、癒さればと願った。


「それは楽しみですね。イザベラ様、何から何までありがとうございます」


フィリップ王太子殿下の顔は少し緩んだように見えた。

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