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掃き溜めに壺  作者: 猫憑ケイジ
本編
7/8

第7話 ドSとドMの混沌たる世界へようこそ



 作家とは、なんなのだろうか?

 どうすれば、作家になれるのだろうか?

 何を持ってして、良い作家というのだろうか?


 きっと誰も知らないであろう、その答え。

 作家であろうと、編集であろうと、読者であろうと、きっとその答えを知っている者なのなど、どこにもいないのだ。


 それを知っているという人は、きっと、何も知らないことと同じだからだ。


 もちろんそれは、僕にだって当てはまることで。

 知りたいその答えは、それは知り得ることのない先の領域で待っている。


 だけど僕も半人前のくせに、一丁前に、小説なるものを書いている。

──ま、出版はしていないから、ただ『書いている』だけなのだけれども……。


 おい、そこの君、ほくそ笑むのはやめたまえ。


 ごほん(と一つ、咳払い)では、話を続けさせてもらうよ。


 では、作家とは何をする人のことを指すのか?

 それは小説を創り出す人間のことだ。


 小説と書くいうのは、簡単なようで簡単なことではない。文字を書くだけであれば、その言語を話す者にとっては容易いことだろう。


 しかしだ。小説を書くというのは、物語を紡ぐということだ。


 それは……、

 何もない真っ白な世界に、

 木々を生やし、

 草花を咲かせ、

 人を生み出し、

 そして育て、

 世界を創り上げていくということだ。

 そして、その産み落とされた世界の中で、

 ドラマを開花させて、それを狂わしく散らすこと……。

 それまるで、仮想空間の神になるかの如く。

 それは危うく美しい所業なのだ。


 それが少なくとも僕にとっての、小説の書き方というものだ。


 しかし──だ。


 物事は易々とはいかないもので、そうは問屋が卸さない。


 それもただ書いているのではなく、それは小説賞の公募へ向けたりだとか、

 売れようとして書いているのなら、特に──である。


 それはなぜか?


 それは、

 生み出される新たな世界を自身の中で自己完結するだけで、終わせてはいけないから──である。


 自分一人が神として栄える、自分のための物語。それならば、好き勝手描くだけでいい。


 しかし、

 民主主義のための(公募という名の壁が立ちはだかり)、

 民主主義による(編集という名の声が入り)、

 民主主義へ向けた(何千もの公募作品から一握りの賞を勝ち取り)、

 民主主義の本(そして売れるという大前提を基にしての出版)。

 それは、まさに蜘蛛の糸を掴むかのような所業なのだ。


 少なくとも、僕にとっては……ね。


 自分自身を窮地にまで追い込み、傷みつけ、悩み、苦しみ、足掻き続ける毎日。

 そんな終わりなき道を進んでいる、僕はたまに思うんだ。

「僕はどうしてこんなに苦しいのに、毎日原稿へ向かうのだろうか」と。

 だけど、好きなのだから仕方がない。渇いた心に水をやるかのように、僕はせっせと小説を書いているのだから。


 きっと僕はドMなのかもしれない。

 いや、これだけ自分を虐げるのが好きならば、それはドSなのだろうか。

 どっちだろうか。


 答えは一つ。きっと、それは二つに重なる混沌の狭間だ。


 そこで溺れないようにもがき続けることが、何もない白い世界に世界を創る──僕たち作家の業なのだ。


 君は、その混沌の中にいるのかな?

 それとも、その混沌たる劇を鑑賞する客人なのだろうか。

 君がそのどちらであっても、僕は君を歓迎するよ。


 美しくも苦しい、狂った世界へ、ようこそ──と。


 今日は、こんなことをこの壺の中へ掃き溜めていくさ。

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