めくれた壁紙
数日前に引っ越してきた、この部屋は古く、ワンルームで部屋は広くないがそれについては不満はない。ただ1つ、壁紙が剥がれかけている。大家にも言ったが何のかんのと理由をつけて直してくれず、代わりに家賃を安くするという話で片がついた。どうせ仕事の都合による引っ越し。それほど長く住むわけでもないし、安くなるならと我慢していた。だが……ふとした時に視線を感じるのだ。
「ん……?」
まただ。食事の途中、視線を感じ、振り返る。だが、当然一人暮らしなので誰もいない。あるのは、壁と一部めくれた壁紙のみ。
「やっぱり気になるな」
剥がれて土壁のような部分が露出している。大きさは人の顔くらいの大きさだ。応急処置だが、剥がれた部分をテープで留めようと立ち上がる。
「これも家賃のためか」
テープで留める直前。
「ん?」
何かが動いたように見え、思考が停止する。今、動いたよな? いや、光の加減でそう見えただけだろう。そう自分に言い聞かせ、テープでめくれた壁紙を固定する。
「これでよし」
その後も。
「あれ」
寝る前、電気を消す直前に、目に入る。さっき貼ったテープが剥がれている。まぁ土に貼り付けてるようなもんだし、仕方ないか。明日カーテンか何か買って張ればいい。そう思い、テープを貼り直して電気を消し、眠りにつく。
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深夜、再び視線を感じて目を覚ます。今までこんなことなかった。これは、異常だ。自分の部屋が自分の部屋じゃない感覚になり、冷たい汗が背筋を伝わる。
「はぁ、はぁ……!」
呼吸が荒い。心臓がバクバクと音をたてる。視線は、ある一点に。それは……あのめくれた壁紙だ。テープは既に剥がれており、土壁が露出している。だが、土壁の部分はどこか黒くくすんでいる。暗闇の中、目を凝らすと……目が、ギョロリと土壁の中から開かれた。
「!!」
驚きと恐怖から、叫びだしそうになるが、体が金縛りにあったかのように動かない。目は2つに増え、部屋の中を見渡し、私と目が合うと。
「………」
笑うように目を細める。そして、めくれた壁紙の部分にも、黒い何かがあった。次第にそれは形を成し……人の手が現れた。手は壁の中から露出し、壁紙を少しずつ開いていく。あれが完全に開かれたらどうなるんだ。逃げ出そうにも、体が動かない。やがて壁紙は頭2つ分ほど開いたところで、手がもう一本壁から生えてきて。
「ひっ……!?」
壁の中から両手を生やし、壁に手をつくと這い出るように人の上半身が一気に出てくる。出てきたそれはボトリと床に落ちる。下半身はない。それは手だけで這いながらこちらへ近づいてきて。
「あと少し」
そこで、私は意識を失った。
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翌朝。目覚めるとそこは私の部屋だった。壁を見ると、壁紙は昨夜同様頭2つ分にまで剥がれている。夢じゃなかったんだ。私はすぐに部屋を出て、大家の元へ駆け込んだ。事情を話すと、大家は苦々しい表情で答える。
「……あそこは、かつて殺人事件があったんだ。死体は、壁に埋めて……白骨化した状態で見つかった。それ以降、壁紙を直しても、すぐ同じように剝がれるんだ……やっぱりもうあの部屋はダメかもしれんな」
大家はそのことを隠していたことを謝罪し、他の部屋を紹介してもらい、引っ越し費用などすべて持ってくれた。おかげで今は別の部屋で暮らしている。あの部屋がどうなったのかは、もう知る由はない。
完