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青天の霹靂


 パパは喫茶店で働く普通のパパ。ママもパパと一緒にお仕事をしたり、パートに出たりしている普通のママ。

家では特におおきな喧嘩もなく、普通の家庭だったと思う。


 中学生の時、高校受験の為毎日が勉強だった。パパもママも私進学先については何も言わなかった。

私の好きなところにすればいいと。特に今の生活について不満だと思ったことはなかった。

第一志望には恐らく受かるだろう。先生も大丈夫と言ってくれた。

でも、不安で不安でしょうがなかった。


 とある日に息抜きでスマホをいじっていた。

ふと表示された広告に目がいく。『天魔学園』というタイトル。


 アニメなんて見ることないし、そんなところにさく時間はない。

でも、表示されていた女の子が可愛く、私の目を引きよせ、なんとなくタップしてみた。


 無料で公開されていたアニメ。そこは人間社会に住むことになった天使や悪魔が通う学校が舞台だった。

その中で私は『真凛まりん』に出会った。


 彼女はいつでも笑顔でがんばり屋さん。そして、決してあきらめることなく、自分の夢を追いかける。

慣れない人間界の生活に四苦八苦しながら、仲間とともに毎日を過ごしていく。

そんな姿にすごく心打たれ、私も真凛まりんみたいになりたいと思ってしまった。


 調べてみるとアニメは少し前の作品で、すでに原作の小説が完結していた。

コミックも出ているし、グッズも販売されている。スマホのゲームにもなっており、結構人気の作品だと知った。


 受験もそう遠くない日、私は親友に『真凛まりん』の事を話した。

彼女のように頑張ろうねって、親友に共感を求めたのだ。

アニメやコミック、ストーリーの事。親友にだったら私は自分の事を隠すことなく何でも話していた。

でも、返ってきた一言は私の心をえぐった。


『いい年してアニメなんて見てるの? いま受験控えているんだよ? あー、あおばは頭いいからね。私と違って。いいね、余裕があって』


 思ってもいなかった。しかも彼女はよく知りもしない真凛まりんをズタボロに言った。

話さなければよかった。言わなければよかった。そうすれば真凛まりんも私もこんな思いはしなかったのに。


 見せなかったけど、私は心の中で思いっきり泣いた。

もう、誰にも話さない。私の事はともかく、真凛まりんの事を悪く言われたくない。

その日から親友は私から離れていった。あんなに仲が良かったのに。

なんでも、話せると思っていたのに。信じていたのに……。


 だったら誰でも受け入れてくれる、当たり障りのない学校生活をしよう。

毎日笑顔でいれば、みんなが受け入れてくれる。

誰にでも優しくしていれば、みんな私を受け入れてくれる。

本当の心は、もう出さない。真凛まりんを傷つけられたくない……。


 そう思って高校生になってからは、笑顔を絶やすことなく生活をした。本当の心を隠して。

特に不満はなかったと思う。でも、心から信頼できる友達も仲間も作ることができなかった。

きっと、本当の私を知ったら離れていってしまう。また、真凛まりんが傷つく。

そう思うと、本当の私を出すことができなくなってしまった。


『微笑みの天使』そんなあだ名が私にはつけられているらしい。

でも、本当は『微笑みの仮面をつけた堕天使』なのかもしれない。

私はみんなを、この微笑みでだましているのだから……。


 高校一年の春休み。雑誌で宅レイヤーの投稿イベントがあった。

スマホで撮影し、写真を編集部に送るだけの簡単な内容だった。


 私は初めて、自宅でこっそりと真凛まりんになってみた。

誰にも見せたことのない本当の自分、好きなことをする自分。憧れだった真凛まりんに少しだけ近づいた気がした。

スマホで写真を撮って、編集部に送ったら雑誌に載ることが決まったらしく返事が来た。


 私のコスが認められた瞬間だった。泣くくらい嬉しかったのを今でも覚えている。

春休みが終わり、二年生になった。雑誌は今月発売する。


 発売当日、帰りに買えばいいのにも関わらず、登校中に雑誌を買ってしまった。

早く見たい。どんなふうに映っているんだろうか。どうしても気になってしまった。

朝は時間が取れないし、教室で見るわけにはいかない。昼休みに読もう。そう思っていた。


『皆さん、おはようございます。突然ですが、荷物検査します!』


 そんなときに限ってまずいことが起きる。

荷物検査。みんなの前でこんな雑誌を見られたら……。

でも先生はみんなに見せることなく、そっと隠してくれた。先生には感謝しなければならない。

放課後、雑誌を取りに行ったら返してもらうことができなかった。


 広瀬君のバックに入れたまま、彼にバッグを返してしまったらしい。

何度も謝られた。でも、もう遅い。彼に私の買った雑誌は見られてしまうだろう。

彼の連絡先は知らない、たとえ知っていても連絡することができない。


 彼にはどう伝えたらいいだろうか。

明日、学校でどんな顔をして会えばいいのだろうか。

何度考えてもまとまらない。


 でも、今日は早く帰らないといけない。

来客があるからだ。パパにも予定通り帰ると伝えていた。

帰宅するのが少しだけ遅くなってしまった。


 家に着いた後、部屋にバッグを置きエプロンを付けすぐに厨房へ入る。


『オーダーお願いします。サンドイッチとナポリタンをカウンターに』


 注文が入った。今から作るものが撮影され、お店のホームページに載る。

少し頑張って作らないと。自分の頬をかるくたたき、気合を入れる。


 その後、撮影は順調に進んだようで紅茶とケーキをカウンターに持っていく。

今回のケーキには少し自信があった。紅茶もうまく入ったと思う。

カメラマンの方も気に入ってくれるといいのだけど……。

そんなことを考えながら、頭の隅には広瀬君の持ち帰った雑誌の事を思い浮かべていた。


「おまたせ──」


 しかし、カウンターに行くとまさに青天の霹靂。

広瀬君に似た人が、いや広瀬君がそこに座っていた。


「広瀬、君? ここで何を?」


 彼の置いたバッグに視線を向ける。

あのバッグ、先生が雑誌を入れたバッグ。

奇跡が起きた。彼が帰宅する前に今、私の目の前にいる。


 話さないと。雑誌の事を話さないと。

そう心に決めたのだった……。


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