突然ですが、荷物検査します!
翌日、今日の撮影をどうするか考える。
家に帰ってから現場に向かっては間に合わない可能性がある。
学校へ自前の機材を持ち込み、直接放課後に行くことにした。
通学用のバッグとは別に、カメラの入ったバッグを持ち準備をする。
「おはよう」
「おはよー。ん? お兄ちゃん、そのバッグは?」
「あぁ、今日学校帰りに仕事。直接行くことになりそうだから」
「そう。持っていくのはいいけど、壊さないようにね」
パンをかじりながら俺に忠告してくる妹。
「はいはい、気を付けますよ」
朝食もそこそこにし、家を後にする。
家から電車で数駅乗り、定禅寺高校の最寄り駅で降りる。
昨日と同じように朝のホームルームが始まる。
隣の席の白石さんは相変わらず笑顔だ。きっと彼女には悩みもなければ、毎日が幸せなんだろうな。
成績も優秀だし、友達もいる。噂では何人にも告白されているらしい。
でも、まだ特に誰かと交際しているとは聞いていない。選ぶ側の人間はいいよな……。
「皆さん、おはようございます。突然ですが、荷物検査します! はーい、鞄出して!」
「「えーー! 聞いてないよー」」
教室内がざわつく。
皆の言う通り、荷物検査なんて聞いてないよ。
どうして今日に限って……。
「七北田君、これは何かな?」
早速何かまずいものが見つかったようだ。
「お、おやつです! 昼飯の後の……」
先生が鞄から出したのはササカマの袋。
「うーん、まぁいいでしょう。ササカマはおかずにもなりますからね」
クスクスと笑い声が聞こえる。ササカマって、なんでそのまま持ってきているんですか……。
次々と先生は生徒の持ち物をチェックし、週刊誌やコミック、ポータブルゲーム機などを一時没収していく。
「スマートフォンは没収しませんが、授業中は電源を切ってくださいね。次は……」
白石さんの番。彼女に限っては何も出てこないだろう……。
「……」
白石さんはこんな時でも笑顔だ。彼女の事だから、なにも不安になることなどないのだろう。
先生の表情が少しだけ変わる。
「……これは、先生が預かりますね」
「はい」
何かの雑誌だった。ちらっと見えたが結構派手な服が書かれた表紙。
おとなしそうな白石さんがあんな本を読むとは、ちょっと意外だった。
先生は他の生徒に見られないように、隠しながら俺の方に歩いてくる。
「最後は広瀬くんね、鞄開けてもらえるかな?」
ここまできたら隠せません。
俺は持ち込んだカメラの入ったバッグのチャックを開ける。
「これは?」
「カメラです。ぶ、部活で使う予定なので! ほら、俺写真部じゃないですか。たまには自分のカメラでって──」
「顧問の先生には?」
自前のカメラを持ち込む時は顧問の許可がいる。何しろ高額なものだ。勝手に持ち込みは校則違反になる。
「ま、まだです」
「わかりました。許可が出るまでは一時的に職員室で預かります。いいですか?」
返事はイエスとしか言いようがない。
先生は俺のバッグに白石さんの本を入れ、そのまま教壇に戻っていった。
「放課後、各自取りに来るように。忘れないでくださいね。あと、生徒手帳にある校則をもう一度目を通すこと」
朝から大変な目にあった。でも返してもらえるなら問題ない。
放課後回収して、現場に行けば問題はない。バイトはもともと許可をもらっているしな。
放課後、俺はホームルームが終わると同時に先生の背後をマークしながら職員室にむかう。
早く鞄を回収しなければ。そして、先生から没収された鞄を回収し昇降口に向かう。
電車に乗り、帰る途中の駅で降りる。今日依頼を受けたのは駅近くの喫茶店。
ホームページを作りたいらしく、その写真を撮ってほしいとのこと。
「こんにちはー。栗駒スタジオの者です」
「お待ちしておりました」
迎えてくれたのは喫茶店のマスターっぽい人。
店内はカウンターとボックス席があり、クラシックの流れる雰囲気の良い店だ。
お客さんもチラホラおり、それぞれの時間を楽しいんでいる。
俺はマスターと打ち合わせを行い、どんな写真をホームページに載せたいのかをヒアリングする。
俺の初仕事。栗駒さんに合格をもらえるような写真を撮ってみせる。
「では、外装と内装、あとメニューも何点か載せましょう」
「わかりました。コーヒーと紅茶、それと軽食にデザートではいかがですか?」
「それでいきましょう」
簡単な打ち合わせを終わらせ、早速機材の準備に入る。
カウンターの一番奥に席を用意してもらい、鞄を置かせてもらう。
チャックを開け、カメラを取り出す。
ん、なんだ? 本が入っている。
俺は入れた覚えはないので鞄から取り出す。
表紙にはきわどい服装の女性が二人。な、なんだこの本は!