他でも撮りませんか?
「ここでお願いします。何か飲みますか?」
「じゃ、アイスティーで」
「私はホットの紅茶をお願いします」
しばらくするとテーブルに紅茶が運ばれてきた。
「あのテーブルと椅子のセットで撮ってもらえますか?」
視線を向けると、貴族が使っていたようなテーブルと椅子のセットがある。
確かに彼女の服装なら雰囲気は合いそうな感じがする。
「いいですよ」
彼女は紅茶を持ち、優雅に椅子に座って紅茶を手に持っている。
「お願いします」
「何枚か撮りますね」
引いた写真、アップの写真、アングルを変えて何枚も撮ってみた。
彼女の横顔、吸い込まれそうな瞳と心を奪われそうな表情をカメラに収めていく。
時折カメラに向かって微笑む彼女は、本当のお姫様に見える。
仕草や視線、表情、どれをとっても形になっていた。
気が付くと何十枚とカメラに収めていた。
もっと、たくさん撮りたい。俺の本能が言っている気がする。
「終わりです。ありがとうございました」
「こちらこそ、何枚も撮っていただき本当にありがとうございます」
撮影した写真をモニタを見ながら確認してもらう。
「きれいに撮れてますね……。スマホだとこんな奇麗には撮れないので、嬉しいです」
「そうですか。……あの、良かったら他でも撮りませんか?」
「ほかでも?」
「はい。まだ時間はあるので、外でもどこでも、何枚か撮れますよ」
「では、お願いします。お連れの方は大丈夫ですか? さっき一緒にいた方は……」
「今お昼なので大丈夫です。食べ終わったら連絡をもらうことになっているので」
「では、その時間までお言葉に甘えさせてください」
初めて会った彼女の写真を何枚も撮った。
風に揺れる髪を抑えながら遠くを見る彼女、咲いている華を手に持ち、微笑む彼女を。
俺は初めて時間を忘れて撮影し続けた。
「広瀬君、そろそろ終わった?」
撮影中に後ろから声を掛けられる。
「ん? あれ? 連絡もらったっけ?」
「してないよ。もしかしたらその辺で撮影しているかもって見てみたら、いたから声かけたの」
「広瀬っち、夢中で撮っていたね。楽しい?」
「なんかいつもと違うような感じで、撮りたい衝動が収まらなくて……」
こころなしか白石さんの表情が怖くなった気がした。
「確かにあの子は可愛いし、細いし、お姫様だし、守ってあげたいタイプかもしれないけど……」
「ご、ごめん……」
「でも、初めにお願いしたのは私だし、気にしてないよ」
少し離れた所でスタンバイしていた彼女が小走りでこっちに向かって走ってきた。
「ご、ごめんなさい。私がお願いしてしまったから」
「お願いしたのは俺の方からなんだ。彼女は悪くない」
「そんな事……」
白石さんがお姫様の子に声をかける。
「大丈夫ですよ、気にしていないので。それよりも、今日はお一人ですか?」
「はい、友達が急にこれなくなってしまって。でも、せっかく準備したので、一人でも来てみようって」
「そうなんですね。よかったら、連絡先交換しませんか?」
「お願いします」
「私もお願いできますか?」
槻木さんもスマホを取り出し、。連絡先の交換会が行われた。
なるほど。こんな風に友達が増えていくんだな。
「ほら、広瀬っちもスマホ出して」
「俺も?」
「あとで写真送るんでしょ? 連絡先交換しないでどうやって送るの?」
確かに。
「い、いいですか? 交換してもらって」
「もちろんいいですよ。私の方からも、ぜひお願いします」
交換してしまった。初めて会った女の子と連絡先を交換してしまった。
「あとでデーター送りますね」
「はい。よろしくお願いします。あの、レタッチってできますか?」
「俺ですか? 多少ならできますけど」
「できれば、その……」
「いいですよ。生データーと、レタッチとどっちも送りますね」
「ありがとうございます」
こうして、俺は彼女と連絡先を交換し後で写真を送ることになった。




