声かけてもいいのかな?
「んー、あの子は一人で来たのかな。ちょっと待ってね」
白石さんが自分のスマホを操作し、何か調べ始めた。
「多分この子じゃないかな?」
SNSで何かメッセージを出しているのは、多分あの子だろう。
自分の写真を撮り、アップしている。
しかし、一人だとちょっと寂しいとか、友達がこれなくなったなど何回か投稿している。
「一人で来る人もいるんだな」
「そうだね、私も広瀬君がいなかったら、里緒菜がいなかったら一人だったから……」
一人で参加して、一人で撮って満足なのだろうか?
やっぱり同じ趣味の人と話をしたり、写真を撮ってもらったりしたいのだろうか。
「おなかすいた」
槻木さんのライフがそろそろなくなりそうだ。
というか、俺は休んでないんですが?
「お昼にしようか。このままでもお店に入れるからどこでもいいけど」
「ランチのチケットあるからそこにしよう! あおばはどこかほかにお勧めとかあったりする?」
「特にないかな……。広瀬君は?」
「んー、俺はどこでもいいよ」
ふと、さっきの子と視線が合う。
何の衣装だろう。俺には全く分からないけど、何かのアニメかゲームなのだろうか。
「気になるの?」
「なんか、ちょっとね」
なんで気になる? 会ったこともない他人。俺と何のかかわりあいもない子。
「広瀬っち、きっと写真を撮りたいんじゃない?」
「俺が?」
「あの子の恰好、何かのゲームのお姫様だった気がする」
「お姫様ね……」
ゴシック調の白いレースが奇麗なドレスを着ており、髪も真っ黒で腰まで長い。
確かにお姫様と言われればそんな気もするけど、なんのキャラだろう。
「……広瀬君。あの子の事、撮ってもらえないかな?」
「俺が? なんで?」
「多分なんだけど、一人で来ていてほかの人に声かけずらいんじゃないかな?」
「そうなのか?」
「私たちみたいにカメラマンがいれば撮ってもらえるけど、ほらあそこ見て」
白石さんの指さす方を見るとほとんどのコスプレイヤーの人には専属のカメラマンが付いており、一緒に行動している。
他にもグループで参加している人たちは、仲間内でカメラを使いまわしていた。
一人で参加って、結構孤独になるのか?
「俺が声かけてもいいのかな? 怪しくない?」
「大丈夫。撮影いいですかって聞けば、大体オッケーだから。お願いできるかな」
「わかった。だったら、その間に二人ともご飯食べてきてよ。その間にあの子を撮ってみるから」
「広瀬っち、変な写真とか撮らないようにね」
「撮らないわっ! 普通に撮るだけ!」
ジト目で槻木さんにいじられ、白石さんは笑っていた。
「じゃ、ちょっと声かけてみるね」
「うん。ごはん終わったら連絡するね」
二人は仲良く俺の前から去っていき、俺だけその場に取り残された。
さて、どうやって声をかければいいのか……。
会ったことも話したこともない、まったくの初対面。
心なしか心拍数が高まる。
男は度胸! 当たって砕けろだ!
「あの、すいません……」
無言で俺の方に視線を向けた女性。
俺と同じくらいの年か? すらっとしたスタイルに、ゴシック調のドレス。
何ともその雰囲気が彼女にあっていた。
「な、何か?」
彼女は少しおどおどして、俺の方を見ている。
「えっと、少し写真を撮らせてもらってもいいですか?」
「わ、私の写真ですか?」
「はい、無理にとは──」
「お願いします。ぜひ、撮ってください」
彼女が俺の手を取り、少しだけまぶたに涙を浮かべている。
白い手袋をつけている彼女の手は、その感触から結構細いと思われる。
近づかれてわかったことがある。
上から少し見下ろすと、何とも強調しているではありませんか。
そして、すごくきれいなメイクをしている。
大きく開いた瞳はブルーに輝いており、異国の少女みたいに見えてしまった。
俺よりも背は低く、幼さの残る面影はまさにお姫様っぽく見える。
「あ、あの……」
「何か?」
違います。なんでずっと手を握っているんですか?
「えっと、ここで撮りますか?」
「場所ですね。できればあの喫茶店の中でお願いしたいんですが、いいでしょうか?」
「もちろんいいですよ。荷物、持ちますか? 手伝いますよ」
「大丈夫ですよ。自分の分は自分で持ちますから」
床に置いてあった荷物を彼女は持ち、先に歩いていく。
床につくかつかないか、ぎりぎりのラインでスカートの裾が揺れる。
きっと、サイズをぴったりに合わせて作ったんだろうな。
メイクもすごくきれいだし、みんなこんなに頑張っているんだ。
俺もがんばって撮らないと。
自然と手に力が入った。




