表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/29

声かけてもいいのかな?


「んー、あの子は一人で来たのかな。ちょっと待ってね」


 白石さんが自分のスマホを操作し、何か調べ始めた。


「多分この子じゃないかな?」


 SNSで何かメッセージを出しているのは、多分あの子だろう。

自分の写真を撮り、アップしている。


 しかし、一人だとちょっと寂しいとか、友達がこれなくなったなど何回か投稿している。


「一人で来る人もいるんだな」

「そうだね、私も広瀬君がいなかったら、里緒菜がいなかったら一人だったから……」


 一人で参加して、一人で撮って満足なのだろうか?

やっぱり同じ趣味の人と話をしたり、写真を撮ってもらったりしたいのだろうか。


「おなかすいた」


 槻木さんのライフがそろそろなくなりそうだ。

というか、俺は休んでないんですが?


「お昼にしようか。このままでもお店に入れるからどこでもいいけど」

「ランチのチケットあるからそこにしよう! あおばはどこかほかにお勧めとかあったりする?」

「特にないかな……。広瀬君は?」

「んー、俺はどこでもいいよ」


 ふと、さっきの子と視線が合う。

何の衣装だろう。俺には全く分からないけど、何かのアニメかゲームなのだろうか。


「気になるの?」

「なんか、ちょっとね」


 なんで気になる? 会ったこともない他人。俺と何のかかわりあいもない子。


「広瀬っち、きっと写真を撮りたいんじゃない?」

「俺が?」

「あの子の恰好、何かのゲームのお姫様だった気がする」

「お姫様ね……」


 ゴシック調の白いレースが奇麗なドレスを着ており、髪も真っ黒で腰まで長い。

確かにお姫様と言われればそんな気もするけど、なんのキャラだろう。


「……広瀬君。あの子の事、撮ってもらえないかな?」

「俺が? なんで?」

「多分なんだけど、一人で来ていてほかの人に声かけずらいんじゃないかな?」

「そうなのか?」

「私たちみたいにカメラマンがいれば撮ってもらえるけど、ほらあそこ見て」


 白石さんの指さす方を見るとほとんどのコスプレイヤーの人には専属のカメラマンが付いており、一緒に行動している。

他にもグループで参加している人たちは、仲間内でカメラを使いまわしていた。

一人で参加って、結構孤独になるのか?


「俺が声かけてもいいのかな? 怪しくない?」

「大丈夫。撮影いいですかって聞けば、大体オッケーだから。お願いできるかな」

「わかった。だったら、その間に二人ともご飯食べてきてよ。その間にあの子を撮ってみるから」

「広瀬っち、変な写真とか撮らないようにね」

「撮らないわっ! 普通に撮るだけ!」


 ジト目で槻木さんにいじられ、白石さんは笑っていた。


「じゃ、ちょっと声かけてみるね」

「うん。ごはん終わったら連絡するね」


 二人は仲良く俺の前から去っていき、俺だけその場に取り残された。

さて、どうやって声をかければいいのか……。


 会ったことも話したこともない、まったくの初対面。

心なしか心拍数が高まる。

男は度胸! 当たって砕けろだ!


「あの、すいません……」


 無言で俺の方に視線を向けた女性。

俺と同じくらいの年か? すらっとしたスタイルに、ゴシック調のドレス。

何ともその雰囲気が彼女にあっていた。


「な、何か?」


 彼女は少しおどおどして、俺の方を見ている。


「えっと、少し写真を撮らせてもらってもいいですか?」

「わ、私の写真ですか?」

「はい、無理にとは──」

「お願いします。ぜひ、撮ってください」


 彼女が俺の手を取り、少しだけまぶたに涙を浮かべている。

白い手袋をつけている彼女の手は、その感触から結構細いと思われる。

近づかれてわかったことがある。

上から少し見下ろすと、何とも強調しているではありませんか。

そして、すごくきれいなメイクをしている。


 大きく開いた瞳はブルーに輝いており、異国の少女みたいに見えてしまった。

俺よりも背は低く、幼さの残る面影はまさにお姫様っぽく見える。


「あ、あの……」

「何か?」


 違います。なんでずっと手を握っているんですか?


「えっと、ここで撮りますか?」

「場所ですね。できればあの喫茶店の中でお願いしたいんですが、いいでしょうか?」

「もちろんいいですよ。荷物、持ちますか? 手伝いますよ」

「大丈夫ですよ。自分の分は自分で持ちますから」


 床に置いてあった荷物を彼女は持ち、先に歩いていく。

床につくかつかないか、ぎりぎりのラインでスカートの裾が揺れる。

きっと、サイズをぴったりに合わせて作ったんだろうな。

メイクもすごくきれいだし、みんなこんなに頑張っているんだ。


 俺もがんばって撮らないと。

自然と手に力が入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ