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騒がしい女湯


奈良公園を後にして、今は有名な寺で説明を受けながら見学を楽しんでいるところだ。


最初よりも、爽真と朝宮の雰囲気も悪くないし、普通に話しながら見学してていい感じだな。


それからバスに戻って、バスガイドさんにいろんな説明を受けながら一度旅館へ行き、部屋に荷物を置くことになった。


「和室いいな」

「いい景色だね!」

「この饅頭食べていいのかな!」


三人とも違うところに食いついて、まったく話が噛み合わない。


「荷物置いたら、すぐ旅館の前集合だぞ」

「そうだね! 急ごう!」

「この饅頭って」

「戻ってきたら食っていいから行くぞ。今から班の自由行動で、いろいろ食べるんだろ?」

「そうだった! 行こう!」

 

荷物を置いて旅館前に戻ると、集まった班から先生に全員揃ったと伝えて行動を開始していた。


「来た来た!」

「それじゃ行きましょうか」

「おう」


俺達もさっそく行動を開始して、みんながお昼ご飯を食べに行く中、俺達は食べ歩きでお腹いっぱいにしようと、商店街のような場所にやってきた。


「やっぱり、和菓子が多いな」

「最初はいちご大福だよね!」

「あの店じゃないかな!」

「本当だ! 行こ行こ!」


あまり話し合いを真剣に聞いてなかった俺が悪いけど、まさか和菓子でお腹いっぱいにするのか?

それはさすがにキツい‥‥‥。


「和夏菜さんは何個?」

「要りません」

「そ、掃除機くんは何個食べるんだい? 全員分一緒に注文しちゃうからさ!」

「一個でいい。あと、朝宮に奢ってやれ」


小声でそう伝えると、爽真は静かに頷いた。


それからしばらくして、全員分のいちご大福が入った袋を持って、爽真が店を出てきた。


「これは絵梨奈さんの!」

「ありがとう!」

「これは陽大くんの分!」

「ありがとう!」

「陽大?」

「なに?」

「三つってマジ?」

「マジ!」


テニス部やめて、新聞部が意外と動き回る活動じゃなかったら、今頃入院してるような食生活だな。


「掃除機くんのは」

「あ、自分で取る」

「どうぞ!」


和菓子なんてとか思ってたけど、もちもちしてて美味そうだな。

絵梨奈と陽大は、既に一口食べて幸せそうだ。


「和夏菜さんには僕からの奢り!」

「要らないと言ったじゃないですか」

「本当に要らないのかい?」

「はい、ごめんなさい」

「いいよいいよ! それじゃ絵梨奈さんが食べるかい?」

「ラッキー!」


朝宮の奴、また強がりやがって。

まぁ、本人が食べないって言うなら仕方ないよな。

んっ、美味いな。


爽真と絵梨奈と陽大が次の店に歩き始め、俺は自然と朝宮と並んで歩き出してしまった。


「まだイチゴ余ってるぞ。急げ」


歩きながら朝宮の口元にいちご大福を持っていくと、朝宮は一瞬ためらいつつ、俺の手に髪が当たらないようにか、左手で耳に髪をかけながら、急いでいちご大福を全部食べてしまった。


「早く飲み込めよー」


それから、ふわふわのかき氷も半分こで、朝宮は急いで食べるせいで頭を痛めたり、焼きたてのドーナッツや団子、どら焼きも全部みんなには内緒で朝宮と半分こを続けた。


「食べるのもこの辺にして、寧々にお土産買いたいんだけど」

「そうだね! どこか店に入ってみようか!」

「私も寧々にお土産買わなきゃ!」

「絵梨奈から貰ったらきっと喜ぶ。ありがとうな」

「任せな!」


居た場所が奈良町周辺だったこともあり、奈良町にある、とんぼ玉という、色んなカラーや柄が描かれた綺麗なガラス玉の店へやって来た。


「好きなとんぼ玉を選んで、アクセサリーなどを作ってくれる店ですね」

「寧々は何色が好きなの?」

「薄紫の花が好きだから、これ使えば喜ぶと思う」


ちょうど、薄紫の花が描かれたとんぼ玉があり、寧々が喜ぶ姿が頭に浮かんだ。


「なら、私はこれをベースにストラップ作ってもらうから、一輝はネックレス作ってもらいなよ!」

「お前、値段で決めただろ」

「そ、そんなことないしー?」

「僕の家族は食べ物の方が喜びそう」

「僕の家もかな」

「なら、二人は近場で違うお土産買ってこいよ。明日の自由行動の時でもいいけど」

「一応いろいろ見てくるよ!」

「オッケー」


爽真と陽大は二人で違う店に行き、その後すぐ、絵梨奈は一人で店内を見て回る朝宮に声をかけた。


「和夏菜も寧々にお土産買ったら? 最初から出来上がってる安めのもあるし!」

「何故私が寧々さんに?」

「だって友達なんでしょ? 一輝と一緒に暮らしてて、それが見つかったのがきっかけで仲良く‥‥‥ヤバっ」


絵梨奈の口から出たまさかの言葉に、俺と朝宮は唖然として見つめ合う。


「え、絵梨奈、なんで‥‥‥」

「いや‥‥‥」

「寧々さんが言ったんですか?」

「お、お昼休みにね、和夏菜の話になって、寧々が口を滑らせたの。正直、一輝と和夏菜はそれくらいの関係性あってもおかしくないよねって話を桜としてたから、あっさり信じちゃったけど、ちゃんと寧々には誰にも言わないように念は押しておいたよ?」

「日向も知ってるってことか?」

「桜は‥‥‥去年一輝に振られた頃ぐらいから知ってて、ずっと隠してたみたい」


なんでバレたんだよ‥‥‥。


「や、やっぱりさ、付き合ってるんでしょ?」

「本当に付き合ってません」

「本当だ」

「まぁ、どっちでもいいんだけどね。誰にも言わないから安心しな」

「お、おう」


朝宮と一緒に暮らしてることを知る人が多くて焦るけど、なんだかんだ、毎回周りに恵まれてるな。

帰ったら寧々は説教だけどな。


朝宮は絵梨奈が誰にも言わないと知って、安堵の深いため息を吐き、とんぼ玉を選び始めた。


「ねぇ一輝」

「ん?」


絵梨奈は朝宮に聞こえないように小さな声で言った。


「本当に付き合ってないわけ?」

「うん」

「好きな人とかいるの?」

「いない」

「じゃあさ、どんな子がタイプなの?」

「そんなこと聞いて、興味ないだろ」

「ま、まぁね」

「日向は、なにか言ってたか?」

「桜? えっと『別に誰にも言わないし、早く言ってくれたら諦めるのも早かったはずなのにな』とは言ってたけど」

「そりゃそうだよな。まぁ、振った理由とは関係ないけど」

「んじゃ、一輝にとって、付き合う条件ってなんなの?」

「んー、可愛いのは絶対条件だな」

「見た目かよ」

「入りは誰だってそんなもんだろ。絵梨奈は好きな人とか居ないのか? そういう噂全然聞かないけど」

「わ、私? えっとー、今はいないかな」

「絵梨奈は優しんだから、それをもっと表に出せよ。そしたら好きになってくれる人も、ギリギリ一人はいるだろ」

「ギリギリってなんだし」

「そもそも怖いから近寄りがたいんだよ」

「一輝は? 慣れた?」

「今は割と平気かな。咲野の方がよっぽど怖い。アイツは何が地雷か分からないからな」

「あー、アイツはいつか痛い目に遭わす」

「やめとけ」

「なんで?」

「咲野は朝宮の友達、絵梨奈も朝宮の友達だ。それに、絵梨奈みたいに意外と優しいやつが怪我するのは嫌だしな」

「‥‥‥と、とんぼ玉選ばなきゃ!」

「俺はもう決まったから、レジでアクセサリー注文してくる」

「分かった!」


朝宮も違う店員さんに対応してもらって、何か作ってもらってるみたいだな。

寧々は先輩に友達が多いから、沢山お土産もらえていいな。





班での自由行動の時間も終わり、旅館に戻って温泉タイムとなったが、俺がみんなと一緒に露天風呂なんて入れるわけがない。


「本当に行かないのかい?」

「俺は部屋に備え付けられてる風呂に入るから、気にしないで行ってこい」

「分かった! それじゃまた後で!」

「おう」

「勝手に饅頭食べないでね!」

「分かった分かった」


しばらく一人だし、まったり過ごすか。



***



「和夏菜の体エッロッ!!」

「きゃー♡」

「あまり騒がないでください」


和夏菜達も温泉に入りに来ていて、普段見れない和夏菜の裸体に、同性の女子生徒が大盛り上がりしている。


そして、和夏菜が湯船に浸かって体を隠した時、同じくすっぽんぽんの咲野が体を隠すわけもなく、ヨダレを垂らしながら和夏菜に近づいて行った。


「あへっ♡ あっ♡ わ、和夏菜ちゃん♡」

「こ、来ないでください」

「可愛い♡ 裸の和夏菜ちゃん可愛いよぉ♡」

「ひゃ!」

「おっぱい大きいねぇー♡」


咲野は和夏菜の胸を鷲掴みにし、その光景を見た他の女子生徒も顔を赤らめて和夏菜を見つめている。


「や、やめなさい!」

「触っちゃったぁ♡ 和夏菜ちゃんに触っちゃったぁ♡」


咲野の手が下半身に移動し始めたその時、絵梨奈は背後から咲野の首に腕をかけて、温泉に潜り込んだ。


「あぶぶぶぶぶぶっ」

「助かりました」

「またお前かよ!」

「うるせぇ! 貧乳!」

「黙れ貧っ‥‥‥」

「あれれー? どうした? 言ってみなよ」


絵梨奈の胸が自分よりあることに気づいた咲野は、静かに温泉を後にした。


「勝った」

「胸の大きさで張り合うなんて、恥ずかしいことしないでください」

「和夏菜はいいじゃん。胸もお尻も大きくてさ」

「お、お尻のことはどうでもいいんです」

「コンプレックスだった? ごめんね」

「別に平気です。それより、咲野さんが私の下着を咥えて遊んでます。行ってきてください」

「あいつ! こら、唯!! てか、しーちゃんはなんでカメラ持ち込んでるの!?」

「仕事です」

「許されるか!!!!」


そんなこんなで騒がしい女湯とは対照的に、男湯は女湯から離れた場所にあって、覗きを企んでいた男子生徒はテンションただ下りで静かな男湯であった。





絵梨奈と和夏菜は夕食も済ませて、二人の部屋に戻り、ベッドに座り込んだ。


「ご飯も美味しかったね!」

「ですね」

「でも、なんで一輝来なかったんだろ」

「さぁ? どうでもいいですよ」

「てかさ、本当に二人って付き合ってないわけ?」

「しつこいですよ?」

「ごめんごめん。実はここだけの話し、ちょっと一輝って良いなーとか思っちゃってるんだよね」

「‥‥‥やめておいた方がいいですよ」

「どうして?」

「実は掃除もしないでガサツで、わがままでめんどくさい人です」

「それも私が補えばいいってことでしょ? そういうのもいいよね!」

「やっぱり掃除もしますし、几帳面で優しいです」

「どっち!?」

「知りません。もう寝ます」


和夏菜は自分のベッドに潜り込み、顔を隠してしまった。


「えぇ! 恋話しようよ! 和夏菜は好きな人とかいないの?」

「‥‥‥」

「正直、付き合ってないだけで、一輝のこと好きとか?」

「‥‥‥」

「別にそうだとしても、なにも文句言わないよ! 応援してやる!」

「絵梨奈さんは、その程度なんですか?」

「和夏菜がライバルだったら勝てるわけないじゃん。桜と一緒にサポートする!」

「だ、だったら、お願いがあります」

「ん? 言ってみ?」

「実は、明日は掃部かもんさんの誕生日で、とんぼ玉のお店で誕生日プレゼントを作りました」

「それでそれで?」

「あ、明日の自由行動の夜に渡したいんですけど‥‥‥」

「オッケー! 任せな! いやー、和夏菜が恋かー! いや待って!? 可愛すぎない!?」

「こ、恋とかそういうのじゃ!」


勢いよくベッドから出た和夏菜は顔が真っ赤になっていて、絵梨奈は全部理解し、自分の気持ちをグッと心の奥底に仕舞い込んで、ニコッと優しい笑みを浮かべた。



***



爽真と陽大が戻ってきたが、俺は腹が減って死にそうになっていた。


「夜飯っていつなんだ?」

「え? 温泉入った後に、一階の会場で食べるんだよ?」

「へ?」

「知ってて来なかったんじゃないのかい?」

「知らなかったよ!!」

「もう食べれないよ?」

「嘘だろ?」

「本当」

「もう寝る!!」


話を聞いていなかった俺が悪いけど、一言言ってくれてもよかっただろ。

みんな酷いよ‥‥‥。


それから結局お腹が空いて寝れず、三人で、明日の爽真告白大作戦の話し合いをし、今日は早めに寝ることになった。


「おやすみ」

「おやすみ!」

「おやすみなさい!」





腹減りすぎて寝れねぇ‥‥‥。

旅館を抜け出して、なにか食べに行くか。

そう思って、すぐに行動に移した。


「案外簡単に出れたな」


誰にも見つからずに旅館を抜け出すことができ、近くにコンビニが無いか調べたが‥‥‥。


「飲み屋街しか無い‥‥‥」


ラーメンだけ食べて帰ればいいか。

酒飲まなければ、居酒屋入っても大丈夫だよな。


なんとなく、未成年の俺が一人で居酒屋に入るのはハードルが高かったが勇気を出して入ってみた。


「いらっしゃい」


よかった、普通の反応だ。


「あぁ! 一輝く〜ん!」

「芽衣子先生!?」

「旅館抜け出して、悪いんだぁ〜」


まさかの酔っ払った状態の芽衣子先生と会ってしまったが、今の芽衣子先生ならそんなに怒ってこなそうだし、先生と一緒なら他の先生にも怒られなくてラッキーか?


「大将! 一輝くんに焼き鳥!」

「あいよ」

「ラーメンがいいです」

「やっぱりラーメン!」

「あいよ」


これは先生の奢り?

更にラッキー。


「一輝くんはさー、ほんっとに偉いよねぇー。あははははは!」

「酔っ払うとウザいっすね」

「ウザいとか言ったら先生泣いちゃうぞぉー?」

「えっ‥‥‥」


芽衣子先生は本当に泣き出してしまい、テーブルに顔を伏せてしまった。


「どうして‥‥‥こんなことになっちゃったのかな‥‥‥」

「あ、朝宮のことですか?」

「私も朝宮」

「わ‥‥‥和夏菜のことです?」

「‥‥‥一緒に暮らしたいよ‥‥‥寂しいよ‥‥‥」

「‥‥‥」

「寂しい寂しい寂しい! 一輝くん、私と結婚して!」

「はい!?」

「結婚してくれないとヤダ!」


朝宮と顔が似てる分、変にドギマギしてしまう。


「とにかく水飲んでください」

「ヤダ!」

「はぁ‥‥‥」


なんか、やっぱり芽衣子先生って、性格も朝宮似なんだな。

変にわがままだし。


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