唾液垂らしたら面白そう
「おはようございます♡」
「‥‥‥」
朝宮が裸で俺の布団に入り、更には俺に抱きついている。
すぐに夢だと理解した。
そして俺は気を失ったが、気を失ったのに物事は考えられるという、夢特有の状況だ。
なんでこんな夢見てるんだ?とか考えちゃうぐらいに夢だと理解してしまっているが、こんな夢を見てしまったのは、昨日、朝宮の半裸を見てしまったからだろう。
「やったー!!!!」
「っ!?」
現実の朝宮の声で目を覚まし、ベッドの方を見ると、朝宮はまだ寝ていた。
とんでもない声量の寝言だったな。
「朝宮、起きないと遅刻するぞ」
「掃部さーん♡ えへへ♡」
は?なにこいつ。
なんの夢見てんの?こわっ。
「ダメですよー♡ ちゃんとスキンヘッドにしなきゃー♡」
マジで恐ろしい夢見てるじゃんかよ。
そう思った時、朝宮はゆっくり目を開け、眠そうな顔で俺を見つめた。
「どうして髪があるんですか?」
「現実だから」
「私、裸の掃部の頭をツルツルにしてました」
「なんで裸なんだよ」
人のこと言えないけどね。
「しかも掃部さん、日向さんと絵梨奈さんに踏まれて喜んでました」
最初の『やったー!!!!』はなんなんだよ。
「嫌な夢見るな。遅れるから準備するぞ」
「同じ部屋で着替えるのって、小学校低学年のプールの授業みたいですね」
「いや、俺は脱衣所で着替えるから、朝宮はここで着替えていいぞ」
「まさか! この部屋に隠しカメラが!!」
「ねーよ!!」
俺は制服を持って一階に降りてきたが、リビングに親二人がいるのが新鮮で、なんだか変な感じだ。
「おはよう! よく寝れたか?」
「まぁ」
「朝ごはんは魚を焼いたからね」
母親と顔を合わせるのが気まずい‥‥‥。
とにかく着替えてこよ。
さっそく風呂の脱衣所で制服に着替えて、歯を磨いていると、そこに母親がやってきた。
「朝宮ちゃんはまだ二階ね」
「うん。どうした?」
「これから私とパパは日本の病院へ仕事に行かなきゃいけなくて、帰りは夜遅くなるから」
「そうなのか」
「それまでに朝宮ちゃんを追い出しなさいね」
「‥‥‥」
「ここに住まわせていても、なんの解決にもならないよ。一輝はあの子が大切?」
「そりゃ、一年も一緒に暮らしてきたから、なんとも思ってないことはない‥‥‥」
「なら、分かったわね?」
「‥‥‥」
どうして急にそうなる。
俺の口から帰れなんて言ったら、朝宮は‥‥‥。
それからすぐに二人は家を出ていき、その後すぐに朝宮がリビングへやってきた。
「ご両親は居ないんですか?」
「仕事に行った」
「そうなんですか。え!? 掃部さんが魚を焼いたんですか!? お味噌汁も! 海藻サラダもあります!」
「母親だよ」
「こんな朝食久しぶりで嬉しいです! 帰ってきたらお礼言わないとですね!」
「そうだな‥‥‥」
「なんか元気無くないですか?」
「別に?」
「絶対元気ないです! 久しぶりにママと会ったのに、仕事に行っちゃって寂しんでちゅか?」
「んなわけねぇだろ!」
「大丈夫ぅ? 飲む?」
朝宮は自分の胸をくいっと持ち上げて見せてきたが、真顔で見つめると、恥ずかしかったのか、静かに味噌汁を飲み始めた。
「なぁ」
「い、今更飲みたいとか言ったら殴りますからね!」
「違うわ。今日、学校休もう」
「一緒にですか?」
「テストの日でもないし、ダメか?」
「そんなこと言うの初めてですよね。一日中飲みたいってことですか!? ごめんなさい嫌です!!」
「違う!! そもそも出ないだろ!!」
「出る体にしてやる!? プロポーズにしてはキモすぎます!!」
「言ってねぇ!」
「そもそも、一緒に休んだらみんなに怪しまれますよ? 二人でズル休みして、飲んでるんじゃないかとか思われますよ?」
「母乳から頭離そうな。最近は学校でも一緒にいることが多いし、どっちかの風邪が移ったとかあり得る話だろ」
「そもそも、休んでなにするんですか?」
「‥‥‥さっき、朝宮を家に返せって言われた」
「‥‥‥」
朝宮は露骨に悲しそうな顔をしてしまい、食べる手が止まってしまった。
「でも安心しろ。部屋に匿ってやるから、夜ご飯とか、今のうちにいろいろ買いに行こう」
「バレたら怒られてしまいますよ?」
「なら帰るか? 朝宮が辛くない方を選んでいい。もう、一年以上一緒にいるんだ。これからも朝宮の面倒見ることぐらい俺にはできる」
「‥‥‥面倒見られてあげます」
「よし。まず、夕方には風呂を済ませろ」
「そして、トイレはペットボトルですね!」
「同じ部屋で用を足すのだけは勘弁してくれ! 俺が親の目を盗んでトイレに誘導する」
「夜ご飯はどうします?」
「カップ麺が大量にあるから、しばらくはそれだ。部屋で使うポットをこれから買いに行く」
「分かりました!」
俺達は怪しまれないように、一定の時間を空けて学校に休むと連絡し、登校している生徒が居ない時間になったのを確認して家を出た。
「ズル休みしてお出かけだなんて、なんだかワクワクしますね!」
「あまりないよな」
「はい! このままお洋服とか見に行きません?」
「ダメだ。帰っていろいろ対策も練らなきゃいけないし」
「ぶーぶー」
「早く行くぞ、子豚ちゃん」
「おいこら」
「汚いお言葉遣いですこと」
「掃部さんと一緒にいるからですよ」
「あっ、ホームセンターまだ開いてないわ」
「無視しないでください!!」
まだ十時前ということもあり、ホームセンターが開いていなく、コンビニに寄り、朝宮が食べたいカップ麺を何個か選ばせて時間を潰すことにした。
※
そんなこんなでホームセンターも開店し、朝宮は、ホームセンターのペットコーナーから動かなくなった俺に付き合ってくれつつ、ポットを買って家に戻ってきた。
「帰ってきましたけど、ゲームでもしますか!」
「朝宮はまた課金したくなるからダメだ。それより、母親の部屋から朝宮の私物が少しでも無くなってないと変だろ。服だけでも俺の部屋に移動させろ」
「分かりました! 下着は見えない場所に仕舞いたいんですが、段ボールとかあります?」
「朝宮の方が持ってるだろ。よく通販使うし」
「昨日全部捨てられました」
「あぁー、ホームセンターから貰ってくればよかったな」
「なら、ベッドの下に仕舞います! 見ないでくださいね?」
「はいはい」
昨日、髪で隠れた上半身裸を見ちゃったし、今更下着ぐらいじゃ、俺は動揺しない。
下着姿となれば別だけど。
※
そして夜になり、朝宮はお風呂もご飯も済ませて、俺の部屋で息を潜めている。
そんな中俺は、リビングで二人と食事中だ。
「急に朝宮ちゃん帰せなんてごめんね?」
「いや、いいよ。残った私物は、またそのうち取りに来るってさ」
「それは全然いいよ」
「一輝」
「ん?」
「朝宮ちゃんと付き合ったりしないのか? 見てたら好きなのバレバレだぞ」
「バ、バカなこと言うなよ! 朝宮のことが好きな人は沢山いるし、俺の友達も朝宮のことが好きだ。そいつはイケメンで、ちょっと性格を直せば朝宮と付き合えるはずなんだ。だから俺はそいつを応援する」
「焦るとよく喋るよなー」
「朝宮ちゃんもアンタのこと好きでしょ、絶対」
「それは絶対ない」
「んー? 一年も一緒に生活して、少しぐらい心当たりあるんじゃないの?」
「‥‥‥」
両親との恋バナとか拷問だろ‥‥‥。
「どうなのよ」
「どうなんだ一輝」
「あ、あるかもな。でも、俺じゃ釣り合わないし、潔癖症のせいで朝宮を傷つけるかもしれない。だからこのままの関係がベストだ。本当に付き合う気はないんだ」
「分かる! 分かるぞ一輝! 実はパパは人間不信だった頃があってな」
「え? そうなの?」
「本当よ。私とパパはが出会った頃の話ね」
「俺はママに惚れてた! でも、信用はしてなかった。だから、好きって気持ちだけで近づけば、俺が傷つくかもしれないし、不安を口にして、ママを傷つけるかもしれないって思ってな」
「だけど私は寛大だから、受け止めてあげたんだよ」
「そうそう! だからパパはな、今でも女性はママのことしか信用してないってわけだ! 最初の一歩が大切だ。 踏み出して転んだら、またゆっくり違う道を探せばいい。転びそうな自分を受け止めてくる相手なら、きっとそれは運命ってやつだろうな!」
「ふぅー! パパかっこいぃー!」
「がはははははは!」
「朝宮が俺を受け止めてくれるわけないだろ。あいつはドアホだからな。ごちそうさま、歯磨きして寝るわ」
朝宮が物音立てる前に部屋に戻らないといけないと思い、二人と恋バナをするのも嫌だったこともあり、急いで歯を磨いて自分の部屋へ戻ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
朝宮はちゃんと囁き声で話してくれるし、状況はしっかり理解してるみたいだな。
そして、朝宮と暗い部屋で謎の見つめ合いが始まり、気まずくて俺が先に目を逸らしてしまった。
「な、なんだよ」
「掃部さんって、自分の優しいところが嫌いなんですよね」
「まぁな」
「私は‥‥‥」
「‥‥‥」
「もっと他にも嫌うべきところがあると思いますけど」
「シンプルにムカつくんだが」
特にすることもなくて、大人しく布団に入ると、朝宮は髪の毛が俺に当たらないように手で束ねながら、前屈みになって俺を見下ろした。
「今、唾液垂らしたら面白そうじゃないですか?」
「殺す気? つか、あまり喋るな」
その時、家のインターホンが鳴り、一階から寧々の声が聞こえてきた。
「お邪魔します」
「久しぶりじゃん!」
「はい! 一輝お兄ちゃんいます?」
「部屋にいるよ」
「それじゃ、ちょっと会ってきますね」
「どうぞー!」
その会話を聞いた俺と朝宮は目を見開き、朝宮は慌ててベッドに潜り込んだ。
「一輝お兄ちゃん」
「き、来たのか」
「うん。久しぶりにこの家来たよ」
「なんの用だ?」
「なんの用って、暇だったから遊ぼうかなって」
「もう夜だぞ。帰って寝ろよ」
「泊まるから大丈夫」
全然大丈夫じゃない。
大問題だよ!!!!
寧々には正直に話して味方につけるか?
いや、変に真面目なところがあるから、逆に危険か?
電気をつけられたらベッドの膨らみでバレそうだし、マジでどうする!?
そうだ!バレたら朝宮に女王様モードなってもらって、寧々を脅そう。そうしよう!!




