激おこ朝宮ちゃん!
「朝宮! 今日から冬服だからな!」
「今着替えてるので開けないでくださいね!」
「はーい」
久しぶりに朝宮の黒タイツ姿を見ることになるな。
「大変です!」
「どうした!?」
慌てた様子で部屋から飛び出して来た朝宮は、冬服の制服なのに、生脚姿だった。
「タイツがありません!」
「捨てたのか?」
「無くなったんです! 掃部さん、シングルプレイで使いました?」
「使ってねぇよ!!」
「困りました。私だけ生脚は恥ずかしいです!」
「どっかで買って、店のトイレで履いてから来ればいいだろ」
「女の子は大変なんですよ? あのタイツはなんかズレてくるしとか、あれは履いてみたら色が薄いしとか、お決まりのタイツじゃないと気分が下がります!」
「今日ぐらいしょうがないだろ」
「ちょっと、掃部さんの部屋のゴミ箱を確認させてください」
「別にいいけど」
まだ俺を疑っている朝宮は、俺の部屋に入って豪快にゴミ箱をひっくり返した。
「バカ!! 掃除大変だろ!!」
「この丸められたティッシュは何ですか!!」
「鼻かんだんだよ!!」
「んー、タイツは入ってないですね」
「だから言っただろ、そんなことしないって。朝宮専用の洗濯カゴに入れっぱなしとかじゃないのか?」
「あぁ! そうでした! 掃部さんがいつでも使えるように、掃部さんのベッドの下に入れておいたんでした!」
「はぁ!?」
朝宮はベッドの下に手を伸ばし、【汚したら洗ってください♡】と書かれた紙が貼られた黒タイツを取り出した。
「ほら!」
「ほらじゃねぇ! 勝手なことするな!」
「それより、漫画増えましたね」
「‥‥‥毎日俺をおちょくって楽しいか」
「さて! 学校学校!」
「逃げんな!!」
絵梨奈から話を聞いてから、追い出すにも追い出せないし、さらに厄介になったな。
とにかく学校行かなきゃ。
※
「今から、ハロウィンイベントについての説明をします」
昨日朝宮が言っていた通り、本当にハロウィンイベントがあるみたいだ。
昼休み後の授業で、芽衣子先生が黒板にデカデカと【ハロウィンイベント!!】と書いて説明を始めた。
「十一日後の日曜日、午後一時から体育館でハロウィンイベントがあります! その名も、仮装パフォーマンス大会です!」
またコスプレか。
俺は不参加だな。
「準備期間は十一日しかありませんが、参加は自由です! 好きな仮装をして、それに合ったパフォーマンスをします。仮装とパフォーマンスのクオリティーで総合得点を競う感じです! 誰かとペアになってやるのもあり! そして、見事一位に輝くと、生徒会から五万円以内の欲しい商品が贈呈されます!」
五万円以内と聞いて、一瞬で教室内が賑やかになった。
生徒会が五万円出して、なにかいいことあるのかな。
文化祭を一日にした分の余り予算ってところか?
「今日から生徒会室の前に、大きなボックスが設置されているので、参加する人は学年とクラスとフルネーム、そして欲しい商品名と値段を書いた紙を二十九日までに入れておくように! ペアを組んだ場合、二人で五万円以内になるように、一枚の紙に、人数分の情報を書いて入れてください! これで説明は以上です」
「ねぇ一輝! ペア組も!」
絵梨奈がニコニコしながら振り向き、まさかの俺を誘ってきた。
「俺は出ない。朝宮と組めよ」
「えー、んじゃ和夏菜組もう!」
「なぜ私が貴方と?」
「友達じゃん!」
「いつからです?」
「昔から」
「勘違いが酷いですね。日向さんと参加すればいいじゃないですか」
「桜はハロウィンイベントのこと前から知ってたけど、用事あるから参加しないんだって」
「陽大は参加するのか?」
「せっかくだからしようかな! 豚のコスプレあるし!」
「パフォーマンスは?」
「四つん這いで早く走る!」
絶対一位は無理だろうな‥‥‥。
説明の後は普通授業に戻り、ボケッとしているうちに放課後になり、帰りの準備をしている時、A組に爽真がやって来た。
「掃除機くん!」
「んぁ?」
「ハロウィンイベント、一緒に出ないかい?」
「無理、さいなら」
「ちょっとちょっと!」
「なんだよ、しつこい」
「優勝したら景品は君が受け取っていいからさ!」
「いらん」
「頼むよ!」
教室を出て早歩きで歩いてるというのに、本当しつこいな。
「どうして俺なんだ? イケメンを選んだ方が、評価も上がると思うぞ?」
「僕が王子様役で、君が馬役! 君なら雑に扱っても誰も怒らないと思ってね!」
「二度と話しかけんな」
「お願いだよ!」
「景品は俺にくれるのに、何で参加したいんだよ」
「それはもちろん! 和夏菜さんにいいところを見せつけるためさ!」
「つくづく残念なイケメンだな」
「でも、ここだけの話」
爽真は急に声のボリュームを落とし始めた。
「人気投票も点数に加点されるんだよ。自分で言っちゃうけど、僕は女子生徒に人気がある。そして、男子生徒に嫌われている君を雑に扱うことによって、男女みんなに投票をもらえるかもしれない」
「だからってな」
「新型の吸引力最強の掃除機、来月の中旬まで四万九千八百円のセールをしてるよ。欲しくないのかい?」
「あの、六万ぐらいするやつ?」
「そう」
「‥‥‥お主も悪よのぉ」
「衣装も僕が用意するから、よろしくね」
「おう」
「生徒会室前の箱にも、僕が紙を入れておくから」
「分かった。詳しいことはまた後日聞く」
「うん! じゃあね!」
掃除機!俺が屈辱を我慢するだけで、いつもチラシで見ていた最強の掃除が手に入るかもしれない!
いや、爽真の作戦なら手に入る!
そのためなら、プライドなんか捨ててやるよ!!
※
ルンルン気分で家に帰ってくると、朝宮は金魚に餌をあげていた。
「掃部さん!!」
「な、なんだ!?」
朝宮は頬を膨らませて、なにやら怒っているようだ。
「ハロウィンイベントに参加しないとは、どういうことですか! 同じ思い出作りましょうよ!」
「あ、えっと、参加することになった」
「そうなんですか!? なんの仮装ですか? ウジムシ? イモムシ? 違いますね! 掃部さんのことですから、フンコロガシですね!」
「あ?」
「だって、フンはゴミに等しい! でもフンコロガシは綺麗に丸めて運んで行くじゃないですか! 掃除をする掃部さんみたいです!」
「そうだな! 朝宮のデカイのも丸めてやろうか!」
開き直って笑顔で気持ち悪いことを言い放つと、朝宮は静かにリビングへ消えていった。
そして、俺が靴を脱いで顔をあげると、そこには突っ張り棒を持って不気味な笑みを浮かべた朝宮が立っていた。
「えっ、え? あぶっ!! うぁ!! やめっ!!」
無言で何度も突っ張り棒で殴られ、俺は必死に階段を駆け上がった。
「逃げなくても大丈夫ですよー? 怒ってませんから。ふふふっ」
「怖い!! 来るな!! ぐぁっ!!!!」
焦って階段を踏み外し、膝を打ってもがき苦しんでいると、朝宮は突っ張り棒を短くし、ニコッと笑みを浮かべてフルスイングで男の急所を狙い撃ちしてきた。
「ぐっ‥‥‥はぁはぁあっ‥‥‥」
激痛で呼吸が乱れる‥‥‥。
「どうしました? 最低なセクハラしておいて、もうギブアップですかー?」
冷や汗が止まらねぇ‥‥‥返事ができねぇ‥‥‥。
朝宮もボロクソに言ってきたくせに、なんで俺だけ‥‥‥。
てか、本気で怒った朝宮って‥‥‥めちゃくちゃ怖いじゃん!!
今まで、怒っても機嫌が悪かったり、口が悪いだけだったのに!!
「まだまだ私の怒りはおさまりませんよー?」
咲野レベル‥‥‥。
いや、実害がある時点で咲野以上か?
「わ‥‥‥」
「はい? なんですか?」
「分かった‥‥‥プリン買ってきてやる」
「プリンで何でも許されると思ってますよね。反省してます?」
「し、してる‥‥‥」
「私は大なんてしません!!」
「それは嘘じゃね!?」
「ふっ!!」
「あがっ!!!!」
トドメの一撃で、俺は自分の死を悟った。
それと同時に、女の子にこういうことを言っちゃいけないことも学んだ。
「反省しました?」
「‥‥‥はぃ‥‥‥」
「よかったです! 次変なこと言ったら、咲野さんに突き出しますからね!」
「‥‥‥」
「分かりました?」
「はい‥‥‥」
「あっ、ごめんなさい! 私はなんてことを! こんなにするつもりは無かったんです!」
「気は確かか‥‥‥」
「こっちのセリフです! そんなに汗かいて、気は確かです?」
「ギリギリ」
「大丈夫です。心配しないでください! 掃部さんの子孫が死んでも、私が掃部さんの赤ちゃんになってあげますから!」
「意味分からん‥‥‥」
「養われてあげるって意味です! ちなみに話を戻すと、怒ったフリです!」
「え‥‥‥」
「掃部さんって、咲野さんにビクビクするじゃないですか。私にも怯えたりするのか気になっていたので、いいタイミングだなーと思いまして!」
言い返したいけど、もうそんな力も残ってない‥‥‥。
いつもより怖いんじゃなくて、いつもに増してウザいだけだったし。
※
急所を痛めつけられた翌朝、嫌な痛みを感じて目を覚ました。
「まだ痛い‥‥‥うわっ!」
目を覚ますと、朝宮がベッドの横に座っていて、素直にビックリしてしまった。
「おはようございます! 昨日のはさすがにやり過ぎてしまいました! 湿布貼るので脱いでください!」
「脱げるか! そもそも朝宮は、見て気絶した前科持ちだろうが!」
「いや‥‥‥いきなりあんなグロテスクなもの見せられたら、そりゃ誰だって‥‥‥」
「グロいとか言うなよ。生まれた時から付いてんだぞ」
「初期装備ごときでムキにならないでください」
「男の誇りを初期装備呼ばわりかよ‥‥‥」
「木の棒の方が立派ですしね」
「もう一輝くんは悲しいので学校をサボります」
頭まで掛け布団をかぶって目を閉じる。
うん、まだ寝れるな。
「サボりはダメですよ一輝くん!」
「急に下の名前で呼ぶな。ビックリするだろ」
「一輝きゅん♡」
「キモい、黙れ」
「お口が悪いですよ? 唇に接着剤塗っちゃうぞ♡」
「怖い、やめて」




