人一倍優しくいなきゃ
「一輝くん!」
職員室から教室へ戻る途中、日向に声をかけられた。
「土曜日に絵梨奈とボランティア行ったの?」
「うん、めちゃくちゃ大変だったわ」
「でさ、絵梨奈が抱きついたって本当?」
「ほ、本当だけど」
「すごいね!」
「怒らないのか?」
「どうして? 私はもう諦めてるから、一輝くんが他の女の子となにをしようと嫌な気持ちにはならないよ!」
「それは良かった」
「あ、そうだ、今日は席替えがあるらしいよ!」
「おっ、マジで?」
「うん!」
やっとだ!やっと朝宮の隣から離れられる!!
「でも、後は席替えしないみたいだよ」
「一年に一回だけなのか」
「みんなちゃんと授業受けるし、する必要もないんでしょ!」
「なるほどな」
そんな会話をしながら教室に戻ってきて、朝のホームルームを終えて一限目が始まると、日向が言っていたように、席替えが始まった。
「席替えはくじ引きにするけど、一輝くんは毎日教室の掃除をしてくれているので、特別に席を選ぶ権利を与えます!」
「それじゃ、俺はこのままで」
「分かりました」
この特等席を譲れるわけがない。
「それじゃ、出席番号順にくじを引きにきてください!」
次から次へと芽衣子先生の元へクジを引きに行くみんなを見ていると、あっという間にみんなくじを引き終わり、席の移動が始まった。
「一輝! 同じ班だよ!」
「おぉ! マジか!」
陽大が俺の右斜め前の席に机を運んできた。
それは嬉しいのだが、朝宮はなんで動かないんだ?
「ちょっと陽大! 邪魔邪魔!」
「あ、危ないよ!」
絵梨奈が机を頭の上に持ち上げて俺の前の席に移動してきた。
「絵梨奈も同じ班か」
「そうみたい! よろしく!」
「うぃ」
「はーい! みんな移動できましたか? できたら授業初めますよ?」
「朝宮、早く移動したらどうだ?」
「はい?」
「はい?」
「和夏菜さんも同じ班?」
「みたいですね」
「マジ!? 和夏菜と同じ班とか、小二以来じゃね?」
「覚えてません」
また隣かよ!!なんでだよ!!
俺もくじ引き引けば良かった!!
「一輝、男子生徒にめっちゃ睨まれてるね」
「そりゃそうだよ! みんな朝宮の隣が良かったんだろうよ! また俺は男の敵だ!」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。みんな睨むだけでなにかしてきたことないでしょ?」
「そうだけどよ‥‥‥」
「あれじゃん? 一輝と和夏菜、赤い糸かなんかで繋がってんじゃない?」
「おい絵梨奈、火に油注ぐようなこと言うなよ」
「ごめんごめん、それよりお昼暇?」
「暇だけど」
「屋上で一緒に食べよ!」
「嫌だけど」
「は?」
「食べます」
「この前、話したいって言ったこと話すだけだから」
「あれか、分かった」
絵梨奈はニコッと笑って席に着いて機嫌が良そうだけど、俺は二年生まで朝宮の隣とかいう絶望で胸がいっぱいだよ。
でも、二年生になればクラス替えがある!
そこで朝宮と離れれば、それから二年間は、学校で朝宮と話すこともなくなる!
クラス替えが最後の望みだ。
※
あっという間に昼休み。
朝宮は相変わらずトイレへ行き、俺は絵梨奈と二人で屋上へやって来た。
「よーし! 食べるぞ!」
「んで、話って?」
俺達は食事をしながら話を始めた。
まさか絵梨奈と二人でお昼する時がくるなんて、一ミリも想像してなかった。
「あぁ、うん! 私があの施設に居た時期があったの、びっくりしたでしょ」
「うん」
「私の親ね、四年ぐらい、いや、五年ぐらい前だっけ? まぁそれくらいに離婚したんだよね」
「そうだったのか」
「んで、普通ならどっちが子供を引き取るかって話になるはずなのに、私の親は二人とも、私と妹を捨てたの。それでしばらく施設で生活してたんだけど、母親のお母さんとお父さん、私のおじいちゃんとおばあちゃんだね! その二人が私達を引き取ってくれて、今はおじいちゃんとおばあちゃんに面倒見てもらってる」
「大変だな」
「大変だなんて思ってないっての。私は親が嫌いだし、別に辛くはなかった。でもさ、なんか急に寂しくなることがあるんだよね」
「そもそも、なんでそんな話を俺にするんだ?」
「アンタ、和夏菜と付き合ってるでしょ」
「はぁ!?」
「バレバレだっての」
「いや、付き合ってないけど!?」
「え? 本当?」
「本当だ!」
「でも、あのあまり人と喋らない和夏菜が、一輝とは喋るよね」
「実行委員も一緒にやったから、少しは喋るようになるだろ。って、それと絵梨奈の話になんの関係があるんだ?」
「和夏菜の父親は、母親の再婚相手で、姉がいるみたいだけど、なんて言えばいいのかな、姉と和夏菜は父親が違うんだよね」
「‥‥‥そ、そうなのか。朝宮だけ父親が違うってことは、姉のお父さんに当たる人と、母親は一度離婚して、違う人と結婚してる時に朝宮が生まれて、そのあとまた最初の男と結婚したってことになるよな」
「そう! それが言いたかった!」
朝宮のお母さん、なにやっちゃってるんだ。
そりゃお父さんは朝宮を良くは思ってないだろうな。複雑すぎるだろ。
「私は親が居ない。和夏菜は親がいるけど、なにかそれが原因で抱えてんじゃないかと思うわけ。だから、一輝の優しさで救ってやってほしくてこんな話をしたの」
「俺には無理だと思うけどな」
「大丈夫だよ! 一輝は優しから!」
「あまり俺が優しいとか言わないでくれ」
「嫌ならもう言わない。でも和夏菜ね、小学生の頃は元気っ子だったんだよ? 多分中学生になって、反抗期かなんかで関係が悪化して、今みたいになったんだと思う」
「もしかしてだけど絵梨奈さ」
「ん? なに?」
「朝宮にちょっかいかけてたのって‥‥‥」
「うん! 友達になりたかったんだ! なんか、一人にしておいちゃダメな気がしてさ! でも、周りと同じように普通に話しかけても冷たくあしらわれるでしょ? だから私なりの近づき方をしてみた! 私と似て、家庭環境に問題があるのは知ってたから、なんかほっとけないんだよね」
「お前も優しいじゃん。なんかズレてるけど」
「こんな見た目だからね、人には優しくしなきゃ! 金髪に染めといて、別に私にとっては普通のことだからとか子供みたいなことは言わない。人より目立つ見た目してるし、私口悪いからさ、人一倍優しくいなきゃね」
「んじゃ、大仏で追いかけてくるなよ」
「あれは桜に向けた優しさの表れだからね!」
「そっか、でもなんか見直した」
「でしょ? 私って意外と良い女でしょ?」
「それは知らん」
「おい潰すぞ」
「なにを!?」
鋭い目つきと、ドスの聞いた声にビビリ、思わず立ち上がって自分の急所を手で隠してしまった。
「その隠してるやつ」
「そんなことする奴は優しくねぇ!」
すると絵梨奈は、ニヤニヤしながら俺の急所を見つめ、四つん這いで俺に近づいて来た。
「なら、空にしてやろうか。屋上には私達意外誰もいないし」
「お前誰とでもそういうことすんの!?」
「はぁ!? 一回もしたことないんだけど!! って、なに言わせてんだよ!!」
「お前が言ったんだろ!? そんな顔真っ赤にすることか!?」
「うるせぇ!」
「なんかごめん!」
「分かればいい。座れ」
「は、はい」
それから俺は絵梨奈に怯えながら昼飯を続けた‥‥‥。
※
下校時刻になると、俺は真っ直ぐ家には帰らず、ケーキ屋さんに足を運んだ。
「シュークリームとショートケーキを一つずつお願いします」
「かしこまりました!」
「あっ、あとこの焼きプリンもお願いします」
「はい!」
全部じゃないのかもしれないし、朝宮の二面性の原因が絵梨奈が言っていたことにあるのかも分からない。
でも、朝宮が自分の家に帰りたくない理由はきっとあの話の内容そのものだ。
ちょっとぐらい、俺の家に居て良かったと思わせてやりたいとか思ってしまった。
まぁ、帰るなら帰ってもらってかまわないんだけど。
※
ケーキ屋さんの袋を持って家に帰ってくると、朝宮は珍しい時間に入浴中だった。
ケーキを冷蔵庫に入れて、しばらくリビングで朝宮を待っていると、鼻歌を歌いながら、パジャマ姿でリビングへやってきた。
「帰ってたんですね!」
「なんでもうパジャマなんだ?」
「昨日の夜、怖い動画を見てなかなか寝れなくて、明るいうちに寝ようかと思いまして!」
「へー」
「さて、お風呂上がりのアイスアイス〜!」
「冷蔵庫に入ってるの、食べていいからな」
「冷蔵庫ですか?」
朝宮は冷蔵庫を開けてケーキ屋さんの袋から箱を取り出した。
「ケーキですか!? これどうしたんです!?」
「なんでもない日のプレゼント」
そう言い残してリビングを出ようとしたが、やっぱり呼び止められてしまった。
「待ってください!」
「ん?」
「まったく素直じゃありませんね! 席替えしたのに、また私の隣が嬉しかったからって、ケーキでアピールですか? かーわーいいー♡」
「妙なキャラやめろ。そんなんじゃねぇ」
「それじゃどうしてです? はっ! 食べ物で釣って、私になにかさせようとしてますね!! 掃除ですか!? こんなの絶対食べません!!」
「掃除はしろよ!! 別に、本当になんでもないから。ただ、どうせ俺の家に住んでるんだし、なんかたまには喜ばせてやろうかな的なやつだ」
「まさか‥‥‥なにか聞きました?」
「‥‥‥」
嘘ついてもしょうがないか。
「あぁ、聞いた」
「やっぱり!! 掃部さんが寝静まったあとに毎日言っちゃうんです! まさか聞かれていたなんて恥ずかしいですよ‥‥‥」
「え、ん?」
「え? だから『掃部さんの料理飽きたー! ケーキ食べたーい!』ってよく叫んでます」
「あ、あぁ! あれな! ちなみに今日は麻婆豆腐だぞ」
「えぇ!? 作れるんですか!?」
「動画で作り方見たからな。でも今から寝るんだろ? 俺だけ食べるわ」
「起きてます!! ケーキも食後のデザートに取っておきます!」
「ならいいけど、食べたいもの言ってくれたら、できる範囲で勉強するからさ、夜中に叫ぶぐらいなら、たまにはリクエストしてくれよ」
「フカヒレ! キャビア! ステーキ! うなぎ!」
「帰れ!!」
「ただいま!!」
「この家にじゃねぇ!!」
「分かりました‥‥‥さよなら‥‥‥」
「ま、待てよ」
俯いてリビングを出ようとした朝宮を呼び止めると、小馬鹿にしたような顔で振り向いて、俺の顔を指差した。
「ププッー! 引き止めましたね! そうするって分かってましたー!」
「今日はなにパスタにする?」
「すみませんでした」
「よろしい」
「あっ、そうですそうです! 思い出したことがあります!」
「本当に反省してんのか?」
「もちろんじゃないですか! 私、反省の専門学校に通っていたので!」
「反省してないのはよく分かったわ。で? なにを思い出したんだ?」
「三年生が廊下で話していたんですが、ハロウィンも学校でイベントがあるらしいですよ!」
「またかよ‥‥‥」
「肝試しではないみたいですけど、楽しみですね!」
「内容聞かないと不安でしかない」
「参加自由って噂もありますよ」
「楽しみだな!」
「参加してくださいね」
「えぇ‥‥‥」
場合によっては参加しなくていいなら気楽だな。
イベントが大好きな朝宮に強制参加させられそうだけど。




