孤立した女の子
ついに迎えた土曜日。
俺は朝一で陽大の神社へ行き、倉庫にある台車を二台借りて家に戻ってきた。
「絵梨奈とは学校の前で集合になってるから、台車に荷物乗せて行くぞ」
「これを持っていってください!」
「なにこれ」
何故か朝宮は、新品のパンダの着ぐるみを渡してきた。
「子供達はなにも気にせずに触ってくると思うので、一枚でもフィルターを身につけた方がいいかと思いまして!」
「それもそうだな。施設に着いて、時間あったら着るわ」
「はい!」
「いつもありがとうな」
「そういうのは素直に言えるのに、どうして私のことが好きだって言えないんですか?」
「別に好きじゃねーからだよ! 遅れないようにもう行くぞ」
「はーい!」
大荷物で家を出たが、今日は絵梨奈も一緒ということで、朝宮も特に変装などはしていない。
※
「おーい!」
「待たせた」
校門前では絵梨奈が俺達を待っていて、台車に乗った荷物を見て、朝宮の台車の持ち手を掴んだ。
「私が押すよ!」
「自分でできます」
「いいからいいから!」
「んじゃ行くぞ」
「施設ってどこの?」
「三百メートルぐらい先だ。そんなに遠くない」
「オッケー! 楽しみすぎるね!」
「そうか? 俺はめんどくさいけど」
「は?」
「すっげー楽しみ」
「それでいい」
「はい」
今からボランティアに行く奴とは思えない圧力だ‥‥‥。
※
あれからたわいもない会話をしているうちに施設の前に着き、俺達を見たポニーテールの女性が駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました! わぁ! こんなにたくさん!」
「初めまして、掃部の息子の一輝です」
「友達の朝宮和夏菜です」
「七海絵梨奈です!」
絵梨奈って七海って言うのか、綺麗な苗字だな。
「私はここで働いている片桐千秋と申します! どうぞ中へ!」
「ありがとうございます」
施設の中へ入る時、運動をするためか、広い庭があるのを確認できた。
これなら遊具を置けるな。
そう考えながら施設の中に入ってスリッパに履き替えていると、優しそうな四十代ぐらいのおじさんがやってきた。
「よく来てくれました! 君が一輝くんだね?」
「は、はい」
「いつもご両親にはお世話になっています! って! まさか絵梨奈ちゃんかい!?」
「おひさー!」
え?知り合い?
「すっかり綺麗になって一瞬分からなかったけど、面影はあるね。高校生になったのかい? 大きくなったね!」
「あんがと!」
「社長、お知り合いですか?」
「うん! 四年前ぐらいかな、少しの間だけこの施設にいたんだよ!」
「え!? ここに居たことがあるのか?」
「そう! 私は和夏菜と同じ小学校の卒業生でもあり、ここの卒業生でもあるんだよ! 一輝より人生経験豊富ってわけ。これからは敬語使いな」
「塾行ってて赤点の奴に敬語とか嫌だわ。朝宮は知ってたのか?」
「はい」
なんで朝宮はなんにも教えてくれなかったんだよ。
また教える必要がなかったとか言うんだろうけど、これは教えて欲しかったな。
「あの頃も勉強しなかったからねー、一輝くんとー」
「朝宮です」
「朝宮さんが勉強教えてあげてよ」
「はい、分かりました。掃部さんも赤点しか取らないので、私が教えます」
「言うなよ」
「和夏菜が教えてくれるの!?」
「この場の社交辞令です。本当に教えるわけないじゃないですか」
「この場で言ったら意味ないでしょ」
「あはは! 仲のいい三人だ! ここで話すのもなんですから、どうぞ奥へ!」
「あ、はい」
俺達は個室へ案内され、寄付するプレゼントに問題がないか確認してもらっているところだ。
「こんなに沢山ありがとうございます!」
「問題ないですか?」
「はい!」
「よかったです」
「なんせ私が選んだからね!」
「私も選びました」
「朝宮、絵梨奈はいい顔したいんだ。大人気ないこと言うな」
「なんか子供扱いされてるみたいでムカつくんだけど」
「本当に仲がいいね! お菓子は一度に見せてしまうと、みんなその日のうちに全部食べたくなってしまうから、こちらで少しずつ渡す感じにしてもいいですか?」
「いいよ! スーパーボールのくじ引きとかもあるから、ゲーム感覚でやらせてあげてよ!」
「本当にありがとう!」
なんか、絵梨奈がいい人に見えてくる‥‥‥。
ヤンキーが猫拾ってたら的な、ヤンキー現象ってやつか。
「それじゃさっそく、おもちゃを持って子供達に会いに行きましょう! みんなも今日を楽しみにしていたので!」
「俺はこれを着てから行きます」
「パンダかい?」
「一輝気合い入ってんじゃん!」
「ま、まぁな」
「潔癖症なので、フィルター用ですよね」
「おい、余計なこと言うな。とりあえず、服の上から着れるやつなので、さっさと着ちゃいますね」
「それじゃ、それを着たら行きましょう!」
「はい」
急いでパンダの着ぐるみを身にまとい、みんなでおもちゃを持って施設内にある教室へ向かった。
そして教室に入ると、想像していた悲しそうな雰囲気とは真逆に、みんな明るい表情で、キラキラした目をしていた。
「パンダ?」
ひまわりの付いたヘアゴムで髪を結んだ一人の女の子が、俺を見てそう言い、俺は無言で小さく手を振ったが、すぐに顔をそらされてしまった。
「今日はみんなと遊んでくれるお姉ちゃんとパンダさんが来てくれました! みんな言うことを聞いて、仲良く遊びましょう!」
「はーい!」
みんな元気いいけど、やっぱりあの女の子だけ少し馴染めてないような気がするな。
「朝宮、プレゼントの進行」
「は、はい。今日はみんなにプレゼントがあります。人数分あるので、喧嘩しないようにお願いします」
堅い、そして笑顔ゼロ。
まぁ、おもちゃを目の前にした子供達にはそんなこと関係ないか。
ワクワクしたいい表情だ。
並べた大量のおもちゃに子供達が群がる中、朝宮と絵梨奈は一緒におもちゃを選んであげたり、さっそく一緒に遊び始めたが、さっきの女の子だけがおもちゃを見にも来ない。
「朝宮」
「はい」
「あの一人でいる女の子に、なにか持っていってくれ」
「分かりました」
「パンダさん! これ見て!」
「ん? すごいね!」
スライムを伸ばして遊ぶ子供達に付き合いながら、朝宮を見ていると、朝宮は魔法ステッキを持ったまま、すぐに戻って来てしまった。
「いらないそうです」
「そうか」
俺のお人好しスイッチが押されてしまい、後ろの方でみんなを見守っている、最初に会った、ポニーテールの女性、片桐さんに話を聞いてみることにした。
「すみません」
「どうしました?」
「あの子はみんなと遊ばないんですか?」
「佳奈子ちゃんですね、あの子は二週間前にご両親を事故で亡くしていまして、ここに来てからまだ一週間ちょっとなんです。まだ私達にも心を開いてくれなくて」
そう教えてもらっている間、絵梨奈も佳奈子ちゃんに声をかけたが、佳奈子ちゃんは何も喋らない。
「友達もできていない状況ってことですか?」
「周りの子は友達だと思っていると思います。ただ、一緒に遊んだりはしませんね」
「そうですか、分かりました」
どうしたものかな。
とりあえず話しかけてみるか。
スタスタと目の前まで歩いて行き、目線が合うようにしっかりしゃがんで声をかけみた。
「佳奈子ちゃん!」
「‥‥‥パンダ」
「う、うん! パンダだよ! 一緒に遊ぶ?」
佳奈子ちゃんは静かに首を横に振り、教室の隅へ行って窓から外を眺め始めてしまった。
「掃部さん」
「どうした?」
「背中にスライム付いてますよ」
「いつのまに!? あっ、そうだ、佳奈子ちゃん! 背中のスライム取ってくれないかな」
「‥‥‥」
「嫌われてますね」
「朝宮もおもちゃ受け取って貰えなかったじゃんか」
「魔法のステッキが気に入らなかっただけですよ。それより絵梨奈さん、子供達より楽しんでる気がするんですけど」
「まぁ、そのテンションに釣られてみんなもはしゃいでるし、あれはあれでいいだろ」
「魔法ステッキ使いこなしてますね」
「あいつ、実は魔法少女だから」
俺がそう言った瞬間、絵梨奈はギロッとした目で振り返り、とんでもない無言の圧力をかけてきた。
えっ、なに?聞こえてたの!?
「あ、朝宮、ちょっと廊下に来い」
「なんでですか?」
「子供達は絵梨奈に任せて、作戦会議だ」
「分かりました」
俺と朝宮は廊下へ出て、佳奈子ちゃんが心を開くにはどうしたらいいかを話し合うことにした。
正直、絵梨奈の方がこういうの分かりそうだけど、俺には思うところがあった。
自惚れかもしれないけど、俺以外に心を開いていない朝宮なら、なにか、佳奈子ちゃんの気持ちが分かるんじゃないかと。




