ギャップ!?
『おはよう』
翌朝、起きて歯を磨いていると、新型のロボ犬が足元まで来て挨拶をしてきた。
気味が悪い‥‥‥。
「おはようございますぅ〜」
「起きるの遅いぞ」
「昨日、ずっと犬と居たので」
「このロボ犬、段ボールがなんかに入れて、移動できないようにした方がいいな。気持ち悪いし」
『お前はもっと気持ち悪い』
「なんだと!?」
「犬に言われちゃお終いですね!」
「今この場でスクラップにしてもいいんだぞ!!」
「汚いです! 歯磨き粉飛びました!」
「それは悪かった」
「まったく、気をつけてくださいね。私の綺麗な顔がっ‥‥‥」
「ん? どうした?」
横に並んで歯磨きをしようとした朝宮は、鏡を見て固まってしまった。
「本当に綺麗ですね」
「うざっ」
「鏡を見て自分を綺麗だと言うのは大事なことです! そうすると、本当に綺麗になるんですから! ほら、掃部さんも言ってみてください!」
「んー、今日も俺は綺麗」
「自惚れるのも大概にしてくださいね」
「テメェ!!!!」
「きゃっ! また歯磨き粉飛びました!!」
『人間はすぐ争う』
「犬は黙れ!」
朝から疲れる要因が一つ増えてしまった。
最悪だ‥‥‥。
※
朝からヘトヘトになりながら家を出て学校に着くと、下駄箱の前で絵梨奈が待っていた。
「おっは!」
「おは」
「見てみ見てみ!」
「んー?」
携帯の画面を俺に向け、昨日買ったぬいぐるみを妹が嬉しそうに抱き抱えている写真をスクロールしながら何枚も見せてきた。
「よかったじゃん」
「可愛いっしょ!」
「ぶっ!」
「あ? なに笑ってんの?」
最後の写真は、絵梨奈が魔法少女の白とピンクの衣装を着て、ステッキを持っている自撮りだった。
こんなの笑わない奴いないだろ!
「あっ! ちょっと!! 見るなよ!!」
「絵梨奈が見せてきたんじゃんかよ。やっぱり着るんだな」
絵梨奈は顔を真っ赤にして携帯をポケットにしまい、真っ赤な顔のまま俺を睨みつけてきた。
「大丈夫大丈夫。墓まで持っていくから」
「今すぐ墓に入れ!!」
「うっ!」
絵梨奈は俺の首を絞めようと俺の首に触れ、絞められる前に意識が遠のいていき、俺はその場に倒れてしまった。
「ちょっと!? 死んでないよね!? ぬ、ぬいぐるみ代三千円置いとくから、じゃ、じゃあね!」
その声を最後に、ガッツリ触られたショックで‥‥‥俺は‥‥‥。
※
「なぁ〜!!!!」
「っ!? ビックリした!」
目を覚ますと、俺はまだ下駄箱の前にいて、芽衣子先生が俺を見下ろしていた。
一瞬朝宮かと思ったわ。
なんか俺は三千円握りしめてるし、なんの金だっけ。
「大丈夫かな?」
「‥‥‥は、はい」
「下手に触ったら、起きた時に発狂するかなって心配で放置してたんだけど、どっちみち変わらなかったわね」
「すみません。首洗ってきます」
「誰かに首洗って持ってろって言われたの?」
「違いますから」
「今、丁度四時限目の途中だから静かにしなさいよ」
「そんなに気絶してたんですか!? 普通救急車呼びません!?」
「静かにって言ったのが聞こえませんでしたか?」
「すみません」
変な時間に寝たら寝すぎること、気絶したら長すぎること、俺の人生の改善点が二つもあるなんて、難しかない悲しい人生だ。
とにかく早く首洗おう。
※
下駄箱前で気絶していたことで、一日中みんなに笑われながら迎えた放課後、昨日の三人でおばあさん一人でやっている駄菓子屋にやってきた。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「お願いがあるんですけど、今度子供達が暮らす施設にボランティアをしに行くんです」
「そうかいそうかい、いいねぇー」
「それで、小学生の子供が好きそうなお菓子を一万円分選んでくれませんか?」
「そんなに買ってくれるのかい?」
「はい! お願いします!」
「分かったよ。駄菓子は安いからね、時間かかるけど大丈夫かい?」
「はい!」
「私達はオモチャを選びましょう」
「だな」
「スーパーボールのくじ引きごと買って、くじ引きさせるのも良くない? 絶対嬉しいっしょ!」
「それあり」
「よっしゃ!」
俺達はおばあさんと話しながら、次から次へとお菓子やおもちゃをカゴに入れていく。
その中でも絵梨奈は、俺達の中で一番楽しんでお菓子を選んでいる様子だ。
「なんかさ、自分が食べるわけじゃないのに、小さい頃の夢が叶った気分だね!」
「お金気にしないで駄菓子買うのっていいよな」
「私は駄菓子すら買ってもらったことないです」
「嘘つくな」
「本当ですよ? 全部お小遣いから買わなきゃいけなくて、買うにも許可が必要だったので」
「んじゃ私が買ってあげる! 三百円までだからね!」
「別に要りませんけど」
「んじゃ自分の買お」
絵梨奈はそう言って、煮干しを手に取った。
「待ってください。煮干しは買わないでください」
「えー、なら練りアメにしよ」
まさか練りアメをポケットに入れたりしないよな?
それは、さすがの朝宮でもブチギレそうだけど。
「あっ、これとこれとこれも買おう!」
「子供達の分選べよ」
「そうですよ。目的を忘れないでください」
「分かってるって!」
「こんなものでいいかい?」
おばあさんは選んでくれたお菓子をレジへ持っていき、俺達は軽くカゴの中を確認した。
「はい! ありがとうございます!」
「それも買うのかい?」
「はい!」
「それじゃサービスしなきゃね。この一万円分のお菓子は七千円でいいよ」
「それは悪いですよ」
「いいの!?」
「おい絵梨奈、少しは遠慮しろ」
「いいんだよ。最近は子供達がお菓子を買いに来ることも無くなってね。このお菓子は子供達へ配るためのものなんだろ?」
「はい」
「ならサービスさせておくれ」
「それじゃ‥‥‥ありがとうございます!」
おばあさんは優しい笑みを浮かべて、お菓子を袋に入れ始めた。
小さい頃から駄菓子屋のおばあさんは優しいイメージがあったけど、本当に優しいな。
俺達が選んだものを含めて、会計は一万三十円だったが、その三十円もサービスしてくれて、俺達はおばあさんに深く頭を下げて店を出た。
「いい人だったな」
「ですね。素敵です」
「さて、三十一万六千円をどうするか」
「後は無理に使わないで、ご両親に返してもいいと思いますけど」
「そうしなよ」
「いやー‥‥‥俺の親、ちょっとめんどくさいところあってさ」
「どんな感じで?」
「試しに今、スピーカーで電話してみるから聞いててくれ」
「分かりました」
「了解だぜ!」
出るか分からなかったが、電話をかけると、母親はすぐに電話に出てくれた。
「ハロー! 可愛いベイビー!」
「もう赤ちゃんじゃねぇよ」
「私の中ではいつまで経っても赤ん坊よ!」
「まぁいいや、ボランティアで使うお金なんだけど、三十万ぐらい余ったんだ。口座に振り込めばいいか?」
「なに言ってんの! 三十万もあれば子供達をもっと笑顔にできる方法があるでしょ! 頭使えバカ坊主はジョリジョリ気持ち良くて触ると癖になる!!」
馬鹿なことを言い出したタイミングで電話を切り、静かに携帯をポケットにしまい、俺は二人を見つめる。
「な?」
「すごいお母さんだね」
「ビックリしました」
二人も唖然とした様子だ。
無理にお金を使うのは良くないはずなのに、俺の親の場合は使い切らないと、後がうるさそうなんだよな。
「ちまちま買っていてもあれですし、使わなければいけないお金なら一気に使ってしまいましょう」
「もう、なに買えばいいか分かんなくない?」
「庭があるなら遊具とかどうですか?」
「それめっちゃいい!」
「和夏菜天才じゃん!?」
「当然です」
「天才な和夏菜にはこれあげる!」
「次は何入れたんですか」
絵梨奈は朝宮のポケットに手を突っ込み、朝宮はすかさずポケットに入れられたものを取り出した。
「お菓子のラムネですか?」
「おぉー、直じゃなくて新品だ」
「駄菓子食べたことないって言ってたから、私お気に入りのラムネ!」
「ラムネ自体は食べたことありますけど」
「はぁ? んじゃ返せ」
「いいですけど、なんで毎回ポケットになにか入れてきたり、小さないたずらしてくるんですか? 迷惑です」
「だって和夏菜、昔は元気いっぱいの女の子だったのに、中学入ってからは」
「待て待て待て! お前ら、中学一緒!?」
「そうだけど?」
「へっ、へー」
「知らなかったんですか? 私達幼馴染ですけど」
「はぁ!?!?!?!?」
「保育園のころから一緒。休日とかは遊んだことないけど、学校とかではずっと一緒だったよ?」
「二人は仲良しなのか!?」
「んー、微妙だよね」
「どう考えても仲良くないですよね。なにが微妙ですか」
「幼馴染なのに!?」
「私は仲良くしたいんだけどねー」
「いやいや! 絵梨奈は朝宮が嫌いだろ!? 消しゴム取った時、ニヤニヤしてたじゃんかよ!」
「私って人相悪いから、クスクス笑うとニヤニヤしてるように見えるんだよね‥‥‥」
「あぁ、なるほど‥‥‥」
シンプルに強気で怖いところもあるけど、誤解を生みやすいタイプってことね‥‥‥。
「それより、遊具でいいなら私調べるけど」
「それは当日に施設の人と話し合って決めようと思うから、とりあえず買い物は今日で終わりだ。お疲れさん」
「了解! そんじゃ当日の予定とかは、あとで和夏菜に連絡して聞くわ!」
「連絡先も知ってる系!?」
「うん! 私今から塾だから、また後で連絡する」
「塾!?」
「なに? バカにしてんの?」
「いや?」
「ならよかった。じゃあね!」
「おう」
絵梨奈って、朝宮ぐらいギャップヤベーじゃん!!
でも、塾行ってるのに成績悪いのはなんなの?
シンプルおバカさんなの?
そう考えているうちに絵梨奈が曲がり角を曲がっていき、俺達も家に向かって歩き出した。
※
「ただいまです!」
「はい、おかえり」
家に帰ってきて、すぐに金魚に餌やりを始める朝宮の横で、俺はネオンテトラに餌をやる。
「よし、癒された」
「私も癒してあげましょうか!」
「いらん」
「マーメイドになってあげますよ!」
「いらん」
「貝殻ビキニとか通販に売ってますし!」
「い、いらん」
「一瞬迷いましたね?」
「そ、そんなことより、絵梨奈と幼馴染とかなんで黙ってたんだ」
「言う必要もなかったじゃないですか」
「まぁ、確かに」
「そんな話より、私は今、なにを考えているでしょうか!」
またなにか面倒臭いのが始まったなと思いつつ、朝宮の顔を見て考えてみる。
「そうだな、プリン食べたいとか?」
「私のことなにも分かってないじゃないですか!」
「正解は?」
「正解は! 昨日の夜、私が歯を磨いている時、掃部さんの歯ブラシに蜘蛛付いてたなー。朝その歯ブラシ使ってたなー。いつ言おうかなーです!」
「夜の段階で言って!!」
「いきなり部屋に行って、変なことしてたら困るじゃないですか! 『顔面ケーキのお返しだ』とか言って私の顔に」
「いい子だから黙ろうね。歯ブラシ買ってくるわ」
「いい子の私が買ってきてあげますよ!」
「おっ、いいのか?」
「土下座でお願いしてごらんなさい」
「いい子を貫き通せよ!」
すると、新型ロボ犬が歩いてきて、朝宮の目の前で伏せをした。
『お願いします』
「犬がお願いしてるぞ。買ってこい」
「犬のくせに生意気ですね。なに人間語喋ってるんですか? 掃部さん」
「俺かよ!! たまに出る女王様キャラはなんなんだよ」
「掃部さんが読んでる漫画のキャラクターを真似てます。好きなのかと思いまして!」
「はいはい、歯ブラシ買いに行かないなら俺が行ってくるから、夜何食べたい?」
「ピザとかどうですか?」
「なら、携帯で適当に注文しといてくれ」
「分かりました! 今日は私がお金出しますね!」
「ありがとう」
面倒くささが圧倒的に勝る中、わざわざ歯ブラシ一本のためだけに薬局までやってきた。
※
いつも使っている歯ブラシと、ついでに朝宮の歯ブラシを買って、のんびり帰っている途中、知らない番号から電話がかかってきた。
「はい、もしもし」
「今朝見た写真のこと、誰かに言ってみろ。玉が一つ無くなるぞ」
「絵梨奈!?」
ドスの効いた声でそれだけ言われて電話を切られてしまった。
ギャップはあるけど、イメージ通りな所はイメージ通りで怖すぎる‥‥‥。
にしても、朝宮に番号聞いたのか?
勝手に教えるなよな。
※
「ただいまー。ピザ頼んだか?」
「なんか言いましたー?」
なんだ、二階にいるのか。
「ピザ頼んだかー?」
「はい! バッチリです!」
※
約一時間後、心配だったが、ちゃんとピザが届いた。
「いい匂いしますね!」
「ちょっと早いけど食べるか!」
「そうしましょ! マルゲリータとシーフードの二つにしたので、私の指が触れたら嫌でしょうから、半分ずつ違うお皿に取り分けてください!」
「そうさせてもらう」
ストレスの無い食事は実にいいものだ。
二種のピザを半分ずつ分けて、俺達はさっそくピザを頬張った。
「んー!」
「チーズ伸ばすな」
「掃部さんもほら!」
朝宮は俺が咥えたピザを引っ張り、チーズを伸ばして遊びはじめた。
もうこなピザ食えないじゃん。
「あっ! チーズが垂れちゃいます!」
「ん!?」
伸びたチーズがテーブルにつきそうになった時、朝宮はチーズを咥えて、パクパクと俺に近づいてきた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
目が合って数秒固まった後、俺は口元からチーズを指で千切った。
すると、朝宮はそのチーズを全部食べた後、苦笑いを浮かべた。
「む、無意識でした」
「しょ、しょうがないな」
間接キスは平気ないの!?
あえて言わないでおこう。朝宮も意識して気まずくなったら嫌だしな。
なんか、変にドキドキしてしまった‥‥‥。
同時に鳥肌も立ちまくりだけど。




