異質な三人で
「なぁ朝宮」
「はい?」
「俺の母親と父親から、こんなもの届いたんだけど」
学校終わり、水槽前に居座る俺を見つめる朝宮に、ついさっき届いたものをポケットから取り出して渡した。
「これなんですか?」
「封筒開けてみ」
「招待状? ですか?」
「どうせ部活入ってないんだから、友達とボランティアでも行けって、招待状が二枚だ」
「おもちゃ屋さんの金券も入ってますけど」
「両親を亡くしたりして、行き場を失った子供達が暮らす施設に行って、楽しませてこいってさ。俺の両親は毎年ここに募金してる」
「私も一緒に行けと?」
「うん。おもちゃとか、なに買えばいいか分からないし」
「分かりました! 任せてください! 長さと太さはベストな物を選びます!」
「そういうオモチャじゃないからな!!」
「ん? 剣の話ですよ? 男の子とか好きじゃないですか」
「あっ、うん。そうだな!」
こいつ、ニヤニヤした顔で見やがって‥‥‥。
「次の土曜日でアポ取ってるらしいから、予定空けとけよ」
「了解です!」
「一応先生の許可も貰うから、明日芽衣子先生に話すからな」
「掃部さん一人で話して来てください」
「分かった」
できるだけ話したくないんだろうな。
まぁいいや。
※
翌朝、素早く教室の掃除を終わらせて、一人で職員室へやってきた。
「失礼しまーす」
「あら、おはよう!」
「おはようございます」
芽衣子先生はプリントを確認しながらコーヒーを飲んでいた。
「どうしたのかな?」
「次の土曜日、朝宮とボランティアに行きたいんですけどいいですか? これが母親から送られてきた企画書と場所です」
「へー、ボランティアいいじゃない」
「先生、先週の宿題持ってきましたけど」
芽衣子先生が企画書に目を通していると、絵梨奈が宿題を持って職員室にやってきた。
「はい、お疲れさま!」
「ほーい」
「そうだ、絵梨奈ちゃんもボランティア行ったら?」
「えっ」
「ボランティア?」
「一輝くんと和夏菜ちゃんと絵梨奈ちゃんの三人で!」
「やらない。ボランティアとかダルいし」
「両親がいない子供達におもちゃをプレゼントして、一緒に遊んであげるんだってさ」
「行く」
「無理しなくていいぞ?」
「私にも、偽善者になりたい時もあんの」
「ほう」
「偽善で幸せになる人がいるなら良いじゃないですか! 人の行動を偽善だとか言う人に優しくしたい人なんていないし、そんな人は結果孤立していくものよ? なにをしても偽善だって言われる世の中だけど、死ぬまで胸張って偽善していきましょ!」
「気が向いたらねー。まぁ、今回は気が向いたから行く」
「一輝くんはいい? 三人になっても大丈夫?」
「はい。プレゼント運ぶのとか、二人じゃキツイですし、施設側的にも嬉しいと思います」
「そっか! それじゃ、頑張って来てね!」
「はい。今日の放課後、三人でおもちゃ屋行くぞ」
「オッケー」
絵梨奈と朝宮が仲良くなるチャンスでもあるし、よかったんじゃないかな。
※
教室へ戻って席に着くと、すぐに陽大が声をかけてきた。
「あのこと、誰にも言ってないよね」
「当たり前だろ」
「よかったー」
「なにか協力できることがあれば言ってくれ」
「うん! 今年は見てるだけでいいと思ってるから、来年からなにか相談するかもしれない」
「おう」
んじゃ今年中は、俺もなにも考えずにいつも通りにして、暖かく見守っておこう。
※
今日も何事もなく帰りの会まで終わり、帰りの準備をしていると、帰りの準備を済ませた絵梨奈が声をかけてきた。
「早く行こ」
「あぁ、朝宮も行くぞ」
「どこへですか?」
「おもちゃ屋。絵梨奈もボランティアに参加することになったから」
「分かりました。行きましょう」
そして、席を立つ朝宮のポケットに、絵梨奈はすかさず煮干しを突っ込んだ。
「やめてください」
「食べなよ」
「いりません」
こうやって朝宮のポケットから煮干しが出てくるのか。
「なんで煮干し入れたんだ?」
「ポケット臭くなるかなって」
「悪意しかないじゃん」
「完璧な和夏菜が臭かったら面白いじゃん!」
「それは面白い」
絵梨奈に同意すると、朝宮は無言で俺を睨みつけてきた。
違うんだ朝宮。同意しとかないと怖いじゃんか!
こうして、自分でも思うほど異質な三人で、おもちゃ屋に向かって歩き出した。
※
「やっと着いた」
「私は幾ら出せばいい?」
「いや、なんでも買える分の金券がある」
「施設の子、みんなに買うの?」
「それが悩んでるんだよなー。今、ちょうど二十人が施設に居るらしくて、男十一人、女九人で、みんな六歳から九歳らしい」
「小学一年生から三年生ってことですね」
「なら、私は和夏菜と女の子用のオモチャ選ぶから、一輝は男の子の選びなよ!」
朝宮の顔を見たが、クール無表情すぎて感情が読めない。
「朝宮もそれでいいか?」
「問題ありません」
「んじゃしばらく別行動で」
「ほーい!」
「分かりました」
少し不安が残ったまま店内で二人と離れ、俺はミニカーコーナーへやって来た。
小学一年生から三年生か。
ミニカーよりラジコンか?
でも、取り合いになったら困るしな。
自分が小学生の時は、ヒーローベルトとか、安いもので言えばスライムで遊んだっけな。
よし、とりあえずスライムを十一個確保しよう。
シンプルな緑のスライムを十一個カゴに入れ、店内をウロウロしていると、朝宮と絵梨奈が魔法少女のグッズコーナーにいるのを見つけて、俺は遠目で二人を観察し始めた。
すると絵梨奈は、笑顔で魔法のステッキを振り回し、無表情の朝宮に没収されていた。
なんだか、そこまで仲が悪そうには見えないな。
というか、いじめてるくせに、朝宮のことがそこまで嫌いそうに見えない。
とにかく他のおもちゃも探さなきゃだし、喧嘩もしてないみたいだから、好きにさせておこう。
※
三十分後、二人がプラモデルを見ている俺の元へやってきた。
「決まりました?」
「スライムとプラモデルにしようかなって」
「いいじゃん! みんなロボット好きでしょ!」
「そうだな。プラモデルにするわ」
「私達はぬいぐるみと、何回でも遊べるように、パズルを何個か選びました」
「パズルもいいな! 俺もパズル買っとくか」
「ラジコンとかダメなんですか?」
「取り合いになるだろ?」
「人数分買いなよ!」
「んー、一番安いので千五百円だぞ」
「私達が選んだぬいぐるみなんて、一つ三千円だよ?」
「はぁ!? 高すぎだろ!」
「和夏菜に金券見せてもらったけど、あんたの家金持ちみたいじゃん。なに? 五十万の金券って」
「‥‥‥学校で言いふらすなよ?」
「嫌なら言わないけど、この金券、お釣りでないみたいだよ?」
「マジ?」
「マジマジ。金券にプラスして現金で千円払うぐらい買い込まないと勿体無いって」
「ちょっと待て」
一度携帯で、五百円のスライム十一個、二千円のプラモデル十一個、千五百円のラジコン十一個、三千円のぬいぐるみ九個と千四百円のパズル五個を計算してみた。
「まだ七万八千円だ‥‥‥」
「掃部さんもパズルを五個買った計算にしてみてください」
「八万五千円」
「さっきの魔法ステッキ、一本幾らだっけ!」
「五千八百円です」
「それも買え。買えば十三万七千二百円」
「カードデッキは? 人数分の買えば、バトルできるよ!」
「見てみるか」
「うん! あっちにあった!」
三人でカードコーナーにやって来ると、デッキが一つ六百円で、男女人数分買うことにした。
「まだ十四万九千二百円だ」
「なんか金銭感覚バグりそう!!」
「二人とも欲しいものないのか? 協力料で一つ選べよ」
「いいの!?」
「じゃないと流石に選びきれない」
「んじゃ、あの魔法少女ラピラルちゃんのコスプレ!」
「お前‥‥‥家でそういうの着たりしてるの? そのヤンキー面で?」
「べ、別に知らないキャラだけど、高かったからそれにしようかなみたいな感じだし! 殺すぞ!」
「なんで殺されるの!? ラピラルって、名前知ってたじゃん」
「す、好きだけど着たりはしない!! 眺めて楽しむの!!」
「そうか。なら絵梨奈の分の魔法ステッキも買わなきゃな」
「おぉ! 一輝っていい奴じゃん!」
「だから言っただろ。俺は割と良いやつだ」
「は? そんな話いつした?」
「前にショッピングモールのゲーセンで」
「忘れた」
「覚えてなくていいけど。朝宮はなにが欲しい?」
「私は別に要りません。おもちゃなんて子供の道具ですから」
「りょうかーい。絵梨奈はコスプレとステッキ持ってこい」
「分かった!」
何も要らないと言った朝宮だったが、絵梨奈がコスプレ衣装を取りに行った瞬間、小さな声で言った。
「犬が欲しいです」
「家にあるロボットか? あれまだ動くだろ」
「同じやつを買えば、ロボット同士で会話します」
「んじゃ持ってこい」
「ダメです。絵梨奈さんに見られてしまいます」
「分かった分かった。あとでこっそりカゴに入れとくから」
「センキューベリー金ズル」
「おい。真顔でボケるな」
結果、十七万千円‥‥‥もう無理だ‥‥‥。
オモチャも重くて持ち帰るのも大変だし、でも金を無駄にするのはな‥‥‥。
俺の親も本当バカだな。
「一輝! ちょっと来て!」
「うぃー」
呼ばれるまま一人で絵梨奈の元へやって来ると、絵梨奈はコスプレ衣装とステッキを持って言った。
「妹にもなにか買ってあげたい」
「妹いるのか。むしろそれ、妹用じゃないのかよ」
「もういじるな!!」
「すまん!」
「いいよ。妹は欲しいものがあっても我慢するからさ、プレゼントしか受け取らないんだ」
「親は買ってくれないのか?」
そう聞くと、絵梨奈は悲しそうな表情をして黙り込んでしまった。
「‥‥‥お前が急にボランティアに乗り気になった理由と関係があるのか?」
「‥‥‥」
絵梨奈は無言でコクリと頷いた。
俺はこういうのに弱くて、すぐに同情してしまう。
「妹の笑顔に一万円投資するわ。早く選べよー」
そう言い残して立ち去ろうとすると、絵梨奈は俺を呼び止めた。
「一輝‥‥‥」
「ん?」
「ありがとうございます」
「気持ち悪っ!!!!」
「はぁ!? ふざけんなよ!!」
「急になんなんだよ! 絵梨奈が敬語は引くだろうがよ!」
「んじゃいいし! 金持ちなんだから、遠慮なく奢られる!」
「その方が安心感あるわ」
「失礼だな」
「掃部さん」
「どうした?」
朝宮は金券を見つめながら俺達の元へやって来た。
「よく見てみたら、この金券お釣り出ます」
「絵梨奈」
「み、見間違えた」
「でもよかった。お釣りはまた明日、違う店とか見に行こう」
「明日はお菓子とかどう?」
「いいな! 喜ばれそうな色んなもの買おう」
「おー!」
最終的に絵梨奈は妹にクマのぬいぐるみを選び、合計十七万四千円の支払いで、土曜日までに残り三十二万六千円を使わなければいけなくなった。
土曜日まであと四日だけど、会計が済んでから思ったのは、高いラジコン選べばよかった‥‥‥。
※
「これ買ってくれてありがとう! 私、電車で帰らなきゃだから、また明日ね!」
「おう!」
店を出て絵梨奈は帰っていき、朝宮は煮干しとグミとかいう最悪な組み合わせでパンパンになったポケットの中を見せてきた。
「酷くないですか?」
「でも、案外普通の奴だとも思ったけど。それにいじめられてるって言っても、仲良さげだったな」
「いじめと言うより、悪戯っ子なだけですよ」
「消しゴム盗まれたのもイタズラか?」
「はい。数日して、筆記用具入れに戻されてましたもん」
「変な奴だな」
「結局変な人じゃないですか」
「だな。俺達も帰るか」
「はい」
それから俺達は、大荷物でヘトヘトになりながら、なんとか歩き続けた。
※
「帰ってきたー! マジでしんどい!」
帰ってきて、朝宮はさっそくロボ犬を箱から取り出した。
「これありがとうございます!」
「あぁ、話させてみようぜ! 俺も少し気になる!」
「分かりました! 行くよ犬! 犬が待ってます!」
「せめて名前変えろよ!」
子供のように嬉しそうにロボ犬を持ってリビングへ行き、二台の電源を入れた。
「わぁ! これ新型です!」
「んじゃ会話できないのか?」
「その辺の機能はそのままで、教えた言葉を喋るみたいですよ! 写真機能もあるみたいです!」
「いいじゃん。よかったな」
「はい!」
嬉しそうに、二台のロボ犬のボタンをいじる朝宮の背中を見つめていると、ついに二台が喋り始めた。
『こんにちわん!』
『わんという語尾はやめよう』
『そうだね。人間に好かれるための語尾は必要ないね』
「あ、朝宮? こいつら子供向けのオモチャなんだよな?」
「はい! すごいですね! ちゃんと喋ってますよ!」
「そ、そうだな。新型の声がダンディーすぎるけど」
『なんだ、主人がいるワン』
「語尾は必要ないんじゃなかったのか!? 急に媚び売ってきたぞ!」
「可愛いですね! 写真撮ってあげます!」
朝宮は恐れることなく新型の頭を撫で始めると、急にカメラのシャッター音のような音が響き、顔の部分に付いたモニターに、朝宮のスカートの中が映し出された。
なるほど、今日は薄ピンクか。
『この写真を保存するわん?』
「け、消しなさい!」
「写真って言葉に反応したんだろ」
「ちょっと! 見ないでくださいよ!」
「犬が悪い!」
「もう! 全然消えません!」
「ス、スイッチ切れ! そいつは危険だ!」
「はい!」
急いでスイッチを切ったが、ロボ犬のモニターは全く消える様子がない。
『一度預かった命を奪おうとするなど、人間は実に愚か。私は内部電源が切れるまで生き続ける』
「風呂だ! 風呂に沈めろ!」
『私は防水だ』
「とにかく写真を消しなさい!」
『了解した』
なんとか朝宮の恥ずかしい写真は消されたみたいだ。
それより、本当にヤバいもの買ってしまったな。
「おい旧式! お前の方が先輩なんだから、こいつが危険なことしないように躾けろ!」
『よく分からないワン!』
「さっき流暢に話してなかった!?」
『もう一度言ってくださいワン!』
こいつら‥‥‥自我を持ってやがる!!
AI怖い!!
「説明読んでみたんですけど、本物の犬のように躾けると、可愛らしい性格に変わるらしいですよ!」
「よし、頼んだぞ?」
「はい! いいですか犬」
『なんだ』
「ちんちん!」
「朝宮!?」
『ちんちんとは男性器を示す言葉であり、私はそれを持ち合わせていない』
「マジで黙らせろ!!」
「ちんちんは男性器ではなく犬の芸です! 二本足で立って、ちんちん見せなさい!」
「朝宮も黙れ!!」
その後個人的に調べて分かったが、この新型の方は危険だとか、人間を監視するものだとか、ネットでは都市伝説的陰謀が語られていた‥‥‥。




