沈黙
気づけば俺の誕生日。
とは言っても朝宮は俺の誕生日を知らないだろうし、いつもと変わらない日曜日だ。
「起きてますか? 入りますね? 入りました!」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
俺が起きてすぐ、休日のお決まり、朝宮が部屋に進撃して来た。
朝宮が入って来るだけでも、俺にとってはどう考えても進撃だ。
「今日、夜までどっか行っててください!」
「は? なんでだよ」
「旦那がいない間に男を連れ込んで不倫します!」
「堂々となに言っちゃってんの?」
「とにかく出て行ってください!」
「ここ俺の家だぞ!」
「ならこの家ください!」
「お願いのスケールでかくね!?」
「いいから、どこか遊びに行ってくださいよ」
「別に、たまには陽大と遊びたいからいいけど、誰か連れ込むのは無しな」
「分かりました!」
分かりましたって、男連れ込んで不倫とか言ってただろ。
さすがに冗談なのは分かるけど。
※
結局、急だったが陽大に連絡して、神社に来てくれということで、朝宮を家に残して俺は自転車で神社へ向かった。
天気も良くて風が気持ちがよく、特に疲れも感じないまま神社に着くと、陽大と爽真が賽銭箱の前の階段に座っていた。
「掃除機くん!」
「爽真も来てたのか」
「うん!」
「誕生日おめでとう!」
「おぉ! ありがとう!」
「今日が誕生日なのかい!?」
「そうなんだけどさー、朝からあさっ‥‥‥」
「朝からなんだい?」
あっぶねー!!
朝から朝宮に追い出されたって言っちゃうところだった!!
「あ、朝からアサリの味噌汁溢して最悪だったって話だ」
「それは災難だったね!」
「潔癖症の一輝のことだから、悲鳴上げたに違いないね」
「あぁ、かなり焦った」
なんとか上手い具合に誤魔化せたな。
「一輝は今日暇だったの?」
「うん」
「せっかく三人だし、恋バナでもしようか!」
「いや、爽真の恋バナは朝宮の話しかしないだろ」
「そ、そんなことないさ! 二人には僕と和夏菜さんが結ばれる未来のために、いい案を出してもらいたい!」
「朝宮の話じゃんかよ」
「まだ諦めてなかったの?」
「諦める理由がないじゃないか!」
「理由しかないだろ」
「こ、この神社って、恋愛にご利益とかないの?」
「あるよ? そういう神社だから」
「よし! お祈りしよう!」
爽真は賽銭箱に十円を入れて、必死に祈り始めた。
「一輝はいいの?」
「別に好きな人いないし」
「恋愛運って、恋愛絡みのトラブル回避も含まれるよ」
それを聞いた俺は、静かに爽真の横に立って手を合わせた。
「よし! これで俺の未来は平和だぜ!」
「よかったね! 爽真くんはいつまで祈ってるの?」
陽大がそう聞くと、爽真は振り返って明るい表情で空を指差した。
「さて! 明るい未来に向けて、ゲーセンへ行こう!」
「意味分かんないけど行くか」
「そうだね! ここに居ても暇だし!」
なんだかんだで、たまたまだけど、爽真ともこうやって遊ぶ関係になってしまったな。
そして三人でゲームセンターにやって来ると、たまたま来ていた静鐘高校の女子生徒達に見つかり、爽真が取り囲まれてしまった。
「爽真くんも来てたんだ!」
「一緒にプリクラ撮りたい!」
「撮ろ撮ろ!」
二回振られた男とは思えない人気だな。
イケメンだと、それだけで大抵のことは闇へ葬り去られるんだな。
むしろ振られたからこそフリーだと分かって、女子が集まるのかもしれない。
「俺達は二人で遊ぼうぜ」
「そうだね」
「掃除機くん!? 陽大くん!?」
「爽真くんはこっち!」
モテモテの爽真はほっといて、俺は久しぶりに陽大との休日をゲームセンターで楽しみ始めた。
※
約二時間ほど遊んで、一度外へ出てアイスを食べながら休憩している時、朝宮から電話がかかってきた。
「も、もしもし」
「もももしもししし」
「は? なんで声震えてんの?」
「まままだだだ帰ってこここないでぇ、あぁん♡」
「お、おまっ! まさか本当に」
いや、なんかマッサージ機の音聞こえるな。
こいつ、俺のことからかって楽しんでいやがるな。
「んっ♡」
「じゃあな」
問答無用で電話を切ると、陽大が不思議そうな顔をして俺を見つめてきた。
「誰から?」
「あの、祭りの時の」
「あぁ! あの時の!」
「そうそう。ウザいから切った」
「そっかー。そうだ! この後一輝の家に行って、誕生日パーティーしようよ!」
「俺の家はダメだ!」
その時、爽真が缶ジュースを飲みながら一人でゲームセンターから出てきた。
「二人ともひどいよ」
「爽真くんも行こうよ!」
「どこへだい?」
「お菓子とか買って、一輝の家で誕生日パーティー!」
「僕、十四時からバイトだからごめん」
「静鐘高校のバイト申請厳しいのに、よく通ったな」
「一輝だって神社でバイトしてくれたじゃん!」
「あれは申請出してない」
「まぁ、あれくらいならね! とにかく、バイトなら仕方ないか! 今日は僕だけで行くよ!」
「ダメだって!」
「すまないね」
「いや、だから俺の家は‥‥‥」
「どうせ誰も居ないんだからいいじゃん! レッツゴー!」
これは行くの確定だな‥‥‥。
朝宮に外出させるか。
「ちょ、ちょっとトイレ行って来るから、ここで待っててくれ」
「分かった!」
「僕は先に帰るよ!」
「お、おう!」
爽真はバイトのために先に帰り、俺は一人でゲームセンターのトイレへやってきて、すぐに朝宮に電話をかけた。
「もしもしぃ♡」
「まだマッサージしてんのかよ! 色気づいた声出すな!」
「休憩は大事ですから、マッサージでリラックス中ですー」
「なんの休憩だよ。そんなことより、今から陽大と俺の家に行く。朝宮がいた痕跡を消せ!」
「そ、そんなの無理です! 断ってください!」
「断れる空気じゃないんだよ!」
「ダメです! 私の計画が!」
「不倫ネタはもういいから! 私物を全部部屋に持ってけ! んで、部屋から一歩も出るな! つか外出しろ!」
「無茶です! 私のことも考えてくださいよ!」
「そもそもお前が住んでなかったら、こんなテンパることもなかったんだよ!! 早く出てけよ!!」
「‥‥‥」
今のはキツく言いすぎたか‥‥‥。
「あ、朝宮? これくらいいつも言ってるだろ? 冗談だよ冗談」
「分かってますよ! 動揺してどうしたんですか? 死んでください」
「めっちゃ怒ってるじゃん!」
「急ぎますけど、出来るだけゆっくり来てくださいね」
「分かった。ありがとうな」
「はい。あと、玄関のタオルは絶対に触らないでください」
「タオル?」
「見れば分かるので。あと、ちゃんと外出しておきますから」
「了解。じゃあな」
よし、朝宮が片付けて家を出るまでの時間稼ぎのために、腹が痛かったことにして少し遅く外に戻るか。
※
十分ほど何もせずにトイレで粘り、やっと外へ出ると、陽大の姿が見当たらなかった。
嫌な予感がして慌てて電話をかけると、幸いにもすぐに電話に出てくれた。
「もしもし?」
「どこ行ったんだ?」
「遅いから先にコンビニ寄って、一輝の家向かってるよ!」
「も、戻ってこい!」
「もう家見えてるよ? 玄関前で待ってるね!」
「おい!」
電話を切られてしまい、一気に身体中から嫌な汗が溢れ出してきたが、不安がってるよりも行動だ。
俺は急いで自宅を目指して自転車を無我夢中で漕ぎ続けた。
***
「一輝遅いなー。アイス溶けちゃうよ」
陽大が一輝の家の前で一輝を待っていたその時、誰もいないはずの玄関の扉が開いた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
私服で出てきた和夏菜と陽大は目が合ってしまい、二人は驚きで固まって、ただただ沈黙が続いた。
***




