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朝宮の写真


朝宮が買ってきてくれたコンビニ弁当を食べて、しばらくのんびりした後、時間を見て一度教室へ戻ってきた。


「一輝くん遅いよ!」

「お、おう日向、もう怒ってないのか?」


日向はもう、ペンギンのコスプレをしていた。


「絵梨奈が激おこだけど」

「絵梨奈? っ!?」


廊下の奥から全力疾走してくる大仏が目に入り、俺はすぐに走り出した。


「くっ、来るなー!!」

「コスプレは更衣室にあるからねー!」


大仏から逃げる流れで更衣室に飛び込むと、流石の絵梨奈も男子更衣室には入ってこなかった。


「助かった‥‥‥」


更衣室には【掃部】と書かれた大きなビニール袋が置いてあり、とりあえずビニール袋をアルコール消毒液し、ビニール袋からコスプレを取り出して、俺は初めて自分がするコスプレを知った。


黄色い帽子に水色の幼稚園か保育園の制服‥‥‥。

【一輝】ってネームバッジも付いてるし‥‥‥。

こんなの着たら、朝宮になんて言われるか。

でも着ないで言ったら衣装班に怒られそうだし、みんな色んな格好してる中でなら変とは思われないか。

でもなー‥‥‥。


時間に遅れないように、まずは隅々までアルコールを吹きかけてから着替えた。

そしてゆっくり更衣室の扉を開けて顔だけを出し、周りを見渡した。


めちゃくちゃ人いるな‥‥‥。


結局恥ずかしさは拭えなく、顔を見られないように帽子を深くかぶって更衣室を出て、早歩きで教室に戻ってきた。

そして俺の目に飛び込んできたのは、まさかの長蛇の列だった。

理由なら分かってる‥‥‥どう考えても朝宮効果だ。


静かに教室に入ると、すぐにコスプレした朝宮と目が合い、朝宮は一瞬で目を逸らして肩を震わせた。


そんなに俺の格好が面白いか!!


「お待たせしました! 開店でーす!」


十分休憩が終わり、次から次へとお客さんが流れ込んでくる。

島村に関しては朝宮の写真を撮るだけ撮って出て行ったけど、相変わらず忙しい奴だな。


「一輝! なにボケッとしてるのさ!」

「あれ? 陽大も俺と同じ時間だっけ?」

「そうだよ! 一輝はなにも練習してないから、コップにドリンク注ぐだけでいいからね!」

「分かった」

「早速注文入ってるから、アイスココア二人分作って」

「どうやって作るんだ?」

「えぇ!? こんな忙しい時に!」

「悪い」

「それじゃ僕がやるから、一輝もメニュー運んで」

「分かった」

「きゃー!♡ 和夏菜ちゃーん!」


朝宮は出来上がった料理を運ぶ役割だが、やっぱり愛想が悪く、何も言わずに料理やドリンクを運んで、無言で戻ってくるを繰り返している。

それでもお客さん達は朝宮を目の保養とし、とても満足そうだ。

咲野に関しては注文もせずに朝宮をガン見している。


「これ運んで!」

「どの席!?」

「四番テーブル」

「四番ってどこだ!?」


その時、朝宮が俺からクマ形のパンケーキを取り、お客さんの元へ運んで行った。


「なぁ陽大」

「なに?」

「俺必要か?」

「もう立ってればいいよ!」

「お、おう」


あたふたして何もできない俺は、陽大にも見放されて、ただみんなが働くのを眺めていることになってしまった。

楽でいいんだけど、文化祭実行委員がこれでいいのだろうか。





「んじゃ、俺はお先に」

「お疲れ様!」


結局なにもしないまま見回りの時間が来てしまい、一度制服に着替えて、更衣室の前で朝宮と合流した。


「それじゃ、適当に行くか」

「はい」


二人で歩き出し、見回りと言ってもなにかあれば俺達が見つける前に騒ぎになるだろうし、気楽に会話をしながら歩くことにした。


「相変わらずの人気だったな。客の大半が朝宮目当てだったろ」

「迷惑なだけです。外のイチゴ飴の店を見に行きましょう」

「食べたいだけだろ」

「見回りです」

「へー、まぁいいけど」


さっそく外へ出て見回りをしていると、朝宮はいちご飴の店の前で立ち止まった。


「毒が入っていたらどうします?」

「入ってるわけねーだろ」

「私達実行委員には、確かめる義務があると思います。でも私は、あんな可愛い物を買えません。諦めましょう」

「はいはい。イチゴ飴一つください」

「三百円になります!」

「はい」

「ありがとうございました!」


イチゴ飴を受け取って、俺は無言で校舎裏へ向かって歩き出した。


「どこに行くんですか、イチゴ飴なんかもって。イチゴ飴なんか持って」

「二回言うほど羨ましいか。俺のだからお前にはやらん」

「別に要りませんけど。私が食べるわけないじゃないですか」

「そうかそうか」


校舎裏に着くと、やっぱり誰もいなかったが、念のため窓から見られないように、鶏小屋の裏までやって来た。


「こんなところでなにするんですか?」

「ほら、早く食え」

「しょ、しょうがないですね。食べてあげますよ」

「ありがとさん」


朝宮は俺からイチゴ飴を受け取る時でさえ、俺に指一本触れないように気をつけてくれる。

店の生徒から受け取る時は不安で冷や汗をかくのに、朝宮相手だとなにも気にしなくていいから安心だな。


「んで、毒は入ってそうか?」

「食べ切るまで分かりません」

「三つも付いてるんだから、そんなゆっくり舐めてる暇無いぞ? 仮にも見回り中なんだからな」

「分かってますよ」

「誰からも見られない場所選んだんだから、清楚ぶらないで噛んで食え」


俺がそう言うと、朝宮は周りをキョロキョロした後、幸せそうにイチゴ飴を齧り始めた。


「弁当のお返しだ」

「お弁当より二百円安いイチゴ飴、ありがとうございます」

「おい、普通に感謝しろよ」

「ありがとうございます」

「よろしい」


俺は話しながら、いつも持ち歩いているアルコール消毒液で手を綺麗にした。


「何故今アルコール消毒を?」

「イチゴ飴受け取る時に棒に触れたから。それに、手が近くてゾッとした」

「なるほどです。それじゃ次は、どら焼きアイスの見回りに」

「いい加減にしろ」


ちょっと頬を膨らませた朝宮を連れて校内に戻って見回りをしていると、新聞部の部室の前に【営業中】の看板が立っているのを見つけて立ち止まった。


「新聞部って、なにしてるんだっけ」 

「新聞を売っていると思います」

「入ってみるか」

「はい」


部室に入ると、島村が椅子に座り、テーブルには束になった新聞と、朝宮の写真が大量に置かれていた。


「なにしてんだ?」

「新聞を売ってます」

「この写真は?」

「新聞を買ってくれた人に、一枚プレゼントしています」

「その申請は出てないですよ。それに、勝手に私の写真を使わないでください」

「でもこの写真なんて、コスプレしている時前屈みになったのを撮ったんですが、お尻が可愛いですよ。掃部かもんさん買います?」

「買わねぇよ」

「誰か買って行った人はいますか?」

「爽真さんが二十枚の新聞を買いました」

「写真は貰っていきましたか?」

「はい」


文化祭実行委員長がなにしてんだか‥‥‥。


「文化祭が終わったら全部買ってくれるそうです」

掃部かもんさん」

「ん?」

「咲野さんに伝えてください。高野さんから写真を没収して、それなりの制裁をと。私は島村さんを取り締まります」

「そんなこと言ったら爽真が死ぬぞ」

「半殺し一歩手前ぐらいまでは許可すると付け加えてください」

「わ、分かった」

「売り上げは没収されちゃいますか?」

「場合によってはそうなります」  

「私にはお金が必要なんです」

「なんのためにですか?」

「言いたくありません」

「そうですか。掃部かもんさん、聞いてないで早くしてください」

「お、おう!」


って言っても、咲野がB組にいるとは限らないしな。

でも、とにかくB組に行ってみるか。

そこに爽真がいれば、俺から言えばいいし。


「一輝くん! 和夏菜ちゃん見なかった?」


B組に向かって歩いている時、運良く後ろから咲野に声をかけられた。


「ナイスタイミング」

「え?」

「朝宮から伝言だ」

「なになに!?」

「まず事情から説明すると、爽真が闇ルートから朝宮の写真を二十枚も手に入れた」

「は?」


一瞬で目つき変わったな。

言って大丈夫か?


「んで、こっからが伝言『写真を没収して、それなりの制裁を』だ」

「あははっ、うん、分かった。爽真くんの生首を差し出せばいいんだね?」

「ち、違うよ? 落ち着こうね?」

「あぁ、晒し首にしろってこと?」

「も、もい一つ伝言だ『半殺し一歩手前ぐらいまでは許可する』って、だからそれ以上はするな」

「はぁ♡ 和夏菜ちゃんが私を頼ってくれるなんて嬉しいなぁ♡ 期待に応えなきゃ♡ ご褒美あるかなぁ♡ 和夏菜ちゃんの体液とかぁ♡ 髪の毛もいいなぁ♡ あはっ♡ えへへへへっ♡」

「ヨダレヨダレ!! きったねぇな!」

「危ない危ない♡ それじゃ行ってくる!」

「よろしくー」


咲野は意気揚々と爽真を探しにいき、俺は一人で見回りを続けた。





見回りの時間が終わって、一人で大食い対決を見学していると、そこに黒川がやってきた。


「よっ」

「結局長居してしまったわ」

「楽しめたか?」

「とてもね。今日はありがとう」

「こちらこそ」

「私はこれで帰るけれど、文化祭を通じてまた貴方と会って、いろいろ手伝うことができてよかったわ」

「黒川がいなかったら実行委員も、頭抱えそうな場面がいっぱいあったからな。さすが生徒会長だ。そういえば、本間は来てないのか?」

「瓦割り体験だけして帰って行ったわ」

「変な奴だな」

「少し変わってる子なのよ。とにかくありがとう。恥ずかしかったけれど、言いたいことも言えてよかったわ。また会いましょう」

「おう。じゃあな」


黒川も楽しめたならよかったな。

てか、朝宮の写真の件は無事解決したんだろうか。

爽真が遺体で発見されなければいいけどな。

とりあえず朝宮探して聞くか。





文化祭も終盤に差し掛かった頃、体育館でダンスを見ている朝宮を見つけて声をかけた。


「写真の件はどうなった?」

「解決しました。島村さんは新聞だけを売るという条件で続けていますが、あまりに売れなくて、普通に壁に張り出していましたよ」 

「それが妥当だな」

「高野さんはプロレスショーで咲野さんと戦ったそうです」

「それは流石に男が勝つだろ」

「パイプ椅子で頭を六回殴られて、高野さんは今保健室だそうですよ」 

「デスプロレス‥‥‥」


しかもわざわざプロレスショーに出たってことは、咲野も問題にならないようにって、少しは頭使った感じか。





「えー、皆さん楽しんでいただけたでしょうか‥‥‥」


文化祭も終わり、爽真が閉会式をしているが、頭に包帯を巻いていて、完全にみんな引き気味だ。


「一輝」

「おぉ、陽大」


頭に変な魚の被り物をして、すっかり楽しんだ様子の陽大が声をかけてきた。


「楽しめた?」

「いや、なんかなにもせずに終わった気がする」

「一緒に遊べばよかったね」

「いいよ。多分今日は俺と一緒だと大変だっただろうからな」

「そうなの? それより来年からは文化祭が二日とかになるようにしてよ」

「来年は実行委員やらん! でも一日って短すぎるよな。なんか理由でもあるのかな」

「肝試しとか、普通やらないイベントがあったからだと思うよ?」

「んじゃ、来年からは肝試し廃止だな。あの伝統は人を不幸にする」

「まぁまぁ! この後、A組のみんなで打ち上げあるけど、一輝も行くよね」

「俺はパス」

「どうして!?」

「疲れた」

「少しはA組に友達作った方がいいよ?」

「別に困ってないからいいよ」

「ならいいんだけどねー」


陽大と話しているうちに閉会式も終わってしまった。

後片付けは明日やるという話になり、みんなまだ商売を続けたり、帰って行く人もいた。

そんな中俺は、A組でたった一人、堂々と帰ろうと廊下を歩いている時、中野先輩に呼び止められた。


「一輝くん!」

「はい」

「お疲れお疲れ!」

「お疲れ様です」

「実行委員のみんなでバイキングで打ち上げするけど、君も来てくれ」

「バイキング‥‥‥ちょっと無理です」

「お金のことなら心配しなくても」

「みんな喋ったり笑ったりしながら食べ物を取るじゃないですか。あんなの他人の唾食べるのと同じですよ」

「き、君、なにか悩んでるなら話してくれ」

「そんなに病んでるように見えます?」

「かなり。ま、まぁ、とにかく朝宮さんはもう会議室にいるから、集合写真だけは参加しな!」

「分かりました」


俺も実行委員頑張ったし、記念の写真ぐらいなら撮りたい気もしなくもない。


そして、中野先輩と会議室へやって来ると、爽真は朝宮に土下座しながら咲野に背中を踏まれていた‥‥‥。

本当、残念なイケメンだな。


「みんな写真撮るよ! 委員長はそのままでいいのか?」

「はい。僕みたいな最低委員長、顔なんて写さないでください」

「そ、そうか‥‥‥」


こうして、土下座した委員長を囲む形で記念撮影をし、俺達の文化祭は終わった。

そして俺は帰り際、三年生が外でやっているどら焼きアイスの店へやってきた。


「まだありますか?」

「残り十個!」

「あんことイチゴの二つください」

「五百五十円になります!」

「はい、ビニール広げとくんで、ここに入れてください」


俺は手渡しが嫌で、自らビニール袋を広げて、そこにどら焼きアイスを入れてもらい、走って家へ向かった。





「ただいまでーす! 楽しかったですね!」

「微妙。てか、打ち上げは?」

「参加したくないので帰ってきました! そんなことよりー」


なんだ、なんでニヤニヤしてんだ。


「な、なんだよ」

「二人同時に振っちゃうなんて、私が帰っちゃうのが嫌だったんですか? そうですよね! 掃部かもんさんは幼稚園児ですから、一人は寂しいですもんね!」

「コスプレはいじるな!!」

「可愛くて笑いそうになっちゃいましたよ! 危なかったです!」

「うるせーな」

「今日からまたこの家で快適に暮らしまーす!」

「今日からって、一回も帰ったことないだろ」

「だって、掃部かもんさんと離れたくないんですもん‥‥‥」

「えっ‥‥‥」

「私見ました! 帰り際、私のためにどら焼きアイスを買っているのを!」


朝宮は嬉しそうに冷凍庫を開けた。


「やっぱりありました! 金ズルと離れるなんて嫌に決まってます!」

「言葉選べよ!!」

「JKにお金使ってくれる男とは離れられません!」

「うん、金ズルでいいや」

「ところで金ズルは、どっち食べます?」

「デフォでその呼び方やめて!? 両方お前が食え」

「いいんですか!?」

「うん。俺は風呂に入るから、絶対来るなよ」

「はーい! 大人しく押し入れでどら焼き食べてまーす!」

「そうかそうか、愉快な頭がまともになる道具とかあるなら、是非自分に使ってくれ」

「私のポケットからは、煮干ししか出てきません!」

「まだ入れてんのかよ!」

「絵梨奈さんが入れて来るんですもん」

「特殊ないじめ受けてて笑うわ」

「なら笑ってくださいよ」

「わはは」

「感情の無いロボットですか? 笑い方気持ち悪いです」


イライラするし、無視して風呂行こ。

なんでこんな奴にどら焼きアイス買っちゃったかな。


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[一言] 絵梨奈さんやること面白いなぁ笑 ポケットに煮干しを入れるって独特で笑
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