友情
「これより! 静鐘高校文化祭! スタートでーす!」
「いぇーい!!!!」
ついに爽真のスタート宣言で文化祭が始まり、次から次へとお客さんが流れ込んでくるが、大半が桜城里高校の生徒だ。
「朝宮」
「はい?」
「十三時に見回りだからな」
「分かってますよ」
クールぶっちゃって、イベント事でワクワクしてるくせにな。
俺と朝宮は最初の二時間は自由行動で、それから十三時まで働いて、そのあと三十分の見回りの予定だ。
「掃部くん」
「おぉ、黒川」
「無事にスタートできてよかったわね」
「そうだな」
「一輝くーん! あっ、二美ちゃんも!」
「こんにちは。私はこれから掃部くんと文化祭デートをする予定よ」
「え‥‥‥二美ちゃんを選んだってこと?」
これは黒川が言ってた、日向を選べってやつだよな。
そういう流れだよな?
「い、いや、日向と周るよ」
「いいの!?」
「私は振られたみたいね」
「‥‥‥」
今日って本当に文化祭なんだよな?
なんでこんなに気まずい思いしなきゃいけないの!?
「それじゃ最後に言いたいことがあるわ」
「なんだ?」
「私のやり方は間違ってたのかもしれない。でも、これで正しかったとも思うわ」
「う、うん、え?」
「貴方は私の初恋の相手なのだから、胸張って生きなさい。過去に囚われるのはもうやめて、人を信じて、貴方の優しさを貴方自身が嫌わない日々を送れるように、ずっと願っているわ」
「‥‥‥頑張る。と思う」
「まだまだ時間はかかりそうね」
「二美ちゃん」
「なにかしら?」
「私頑張るから!」
「嫌味?」
「違う違う! なんていうか、自分の気持ちを大切にして行くから!」
「それでいいのよ。それじゃ私は帰るわね」
「もう帰るのか?」
「私が居たら、桜城里のみんなが緊張して楽しめないと思うから」
その時俺の視界に入ってきたのは、他のクラスの出し物が気になる様子で教室の前を行ったり来たりしながら中をチラ見する朝宮だった。
クールモードだから、思うように楽しめないのか。
「帰る前に、朝宮と仲直りしとけ」
「朝宮さん?」
「ほら、あそこに居るから、一時間だけでも一緒に遊んでやれよ」
「朝宮さん一人ね」
「行ってこい」
「分かったわ。それじゃ二人は楽しんで」
「おう」
「ありがとう!」
こんな時でも朝宮が楽しめるようにとか考えちゃう俺は、朝宮のお父さんかなんかなのか。
「なにか食べる? なんでも奢るよ!」
「俺、こういう時に食べ物で楽しめないんだよな」
「なら、何か遊べるとこ行こうか! 私がリードするよ!」
「助かる」
まさか本当に、大嫌いだった元カノと文化祭デートすることになるとはな。
通りすがりに島村は写真撮って行くし‥‥‥。
※
最初に俺達がやって来たのは、二年B組の占いだ。
「二人で来てるし、やっぱり相性占いだよね!」
「マジ?」
「気になるし!」
「別にいいけど」
二人で入り口の紫のカーテンをくぐり、二人一緒に段ボールで作られたであろう個室へ通された。
するとそこには、魔女のような衣装を着た女子生徒が座っていた。
「いらっしゃい」
「私達の相性って占えますか?」
「もちろん。どうぞ座ってください」
すると日向は、すかさず俺が座る椅子をアルコールティッシュで拭いてくれた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして!」
「まず二人は、どんな関係かな?」
「元恋人です!」
「おい、ハッキリ言うなよ」
「まさかの元カレ元カノですか」
「はい!」
「二人の誕生日は?」
「私が六月五日で、一輝くんが十月十日です!」
俺の誕生日、覚えててくれたのか。
「ふむふむ‥‥‥ふむふむふむ。ふーむふむ」
露骨な時間稼ぎに付き合っていると、占い師は急に目を見開いた。
「見えた! 相性最悪!!」
「バッカじゃねーの!?」
「えっと、私先輩なんだけど‥‥‥」
「す、すみません」
「なんで最悪なんですか!」
空気が悪くなることだけは避けたい今、俺はこの占い師を許さない!!
「性格の相性が悪いです。女性の方は言ってしまえば太陽。男性の方は深海」
「どういうことですか? どちらも優しい心を持っていますが、貴方の光は深海までは届かないのです」
「インチキ!!」
「えぇ‥‥‥」
「行くよ一輝くん!」
「本当すみません‥‥‥」
やっぱり怒ってしまった日向と教室を出ると、日向は今にも泣きそうな顔をしていた。
「あ、あんなので泣くなよ」
「ごめん」
「あれだ、グラウンドでクイズ大会してるから見に行こうぜ」
「うん」
泣きそうな顔を見て、俺に対して本気なのは分かったけど、どうやって機嫌とったらいいんだ‥‥‥。
とにかく外へ出て、途中からだったがクイズ大会を見学しようとグラウンドへやってくると、ステージに立っていたのは朝宮と黒川だった。
「おっ! 朝宮も楽しんでるみたいだな!」
「一輝くん本当はさ」
「どうした?」
「ううん! なんでもない!」
「そうか」
日向がなにを言おうとしたのか分からないが、とにかく今はしつこくしないで、日向の元気を取り戻さなきゃな。
「ファイナルバトル!! 静鐘高校一の優等生! 圧倒的美少女の朝宮和夏菜! そして、最近よく校内で見かける謎の美少女! 実は桜城里高校の生徒会長だ! 黒川二美! さぁ、勝つのはどっちだ! 早押し三本勝負! 美少女クイズ対決ぅ〜、スタート!」
「すごい盛り上がりだな! なんかテンション上がるわ!」
「そ、そうだね!」
そして、最初の問題が読み上げられた。
「織田信長との戦いの末に天下を勝ち取った、早い!! 黒川さん! 答えをどうぞ!」
「明智光秀」
「ですがー?」
「‥‥‥」
「おっと答えられない! 一回休み!」
朝宮のチャンスだな。
「織田信長との戦いの末に天下を勝ち取った明智光秀は、最終的に豊臣秀吉に敗れてしまいます。その間、明智光秀は何日間天下を取っていたでしょう!」
朝宮はすぐにボタンを押して、肩にかかる長い髪を片手でバサっとなびかせた。
「答えをどうぞ!」
「十一日間」
「大正解! 朝宮さん一歩リード! すぐに次の問題にいっちゃいます! 第二問! クマノミという魚は群れで生活をしていますが、その中でも一番大きなクマノミはどうなるでしょう!」
二人ともボタンを押さないが、黒川は必死に思い出そうとしている様子だ。
そう思った時、朝宮がボタンを押した。
「答えをどうぞ!」
「メスになります」
「正解! ここで早くもリーチ! 黒川さんピンチか!?」
黒川も頭が良くて物知りだけど、このまま朝宮の勝ちかな。
「次は勇気一つで答えられる、スペシャル問題! 答えは本人のみぞ知る! さぁいきます! 第三問! 貴方の好きな人は?」
「おー!?!?!?!?」
「きゃー!♡ 会長ー! 教えてくださーい!」
なんだよこの問題‥‥‥。
「ひ、日向、中に戻ろう」
「ダメ」
「どうしてだよ」
「二美ちゃんの本心を知りたいの。私さ、過去に一輝くんに嘘ついてるから、なんとなく分かっちゃったんだよね‥‥‥」
「‥‥‥」
黒川は顔を真っ赤にしてボタンを押した。
「さぁ答えは!」
「‥‥‥この学校に居るわ‥‥‥」
「誰ですか!?」
「私は‥‥‥」
黒川と目が合い、日向は一歩前に出た。
「私は一輝くんが好き!!」
「日向!?」
「二美ちゃんもでしょ!? 一輝くんに私を選ぶように言って諦めたふりして、そんなことで罪悪感を消そうとしないで! そもそも罪悪感なんて感じる必要ないから!」
「どうしてそれを‥‥‥」
「二美ちゃんの考えることはなんとなく分かるよ! それにこの高校には凄い情報屋がいるんだから! 本当の気持ちを教えて!」
「‥‥‥私は‥‥‥掃部くんが好き!」
「おっとおっと!? 凄い展開になって来たぞ!?」
まさかの状況、集まる視線に脚が震える。
日向のやつ、今日一日かけて頑張るんじゃなかったのかよ。
まだ始まったばっかりだぞ‥‥‥。
最終的に決めるのは俺だけど、これでいいのか‥‥‥。
「私はこの約一ヶ月、私も静鐘高校の生徒だったらよかったのにって何度も思ったわ。それと同時に、桜さんのために、そして自分のためにも諦めなきゃって思ったけれど、やっぱり好きなのよ!!」
「会長ー! 頑張ってくださーい!」
「会長ー!」
「桜ー!! なに早まってんの!!」
黒川が応援される中、大仏の頭を脱いだ絵梨奈がA組の窓から身を乗り出して日向に呼びかけた。
「早すぎるっての!! この流れ分かってる!? 今答えを聞くことになったら、アンタが今日まで考えて来た一輝を楽しませる方法とか、全部無駄になるかもしれないんだよ!!」
「‥‥‥」
「なに他の女に同情してんだ!! 過去がなんだ!! ライバルなんて、ぶん殴ってでも潰せー!!」
「‥‥‥いい友達を持ったのね」
黒川は、友達の日向のことを怒っている絵梨奈を、いい友達だと言った。
でも不思議と、怒っている絵梨奈を見たら脚の震えが止まった。
俺もずっと曖昧に、前向きな日向に合わせてチャンスを与える形になっていた。
それは残酷ってやつだ‥‥‥。
そんなことを考えていると、マイクを持った男子生徒が俺の元へやって来た。
「えっとー、現在二人に告白されていますが、貴方の答えは」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ごめん」
「は、はーい! 黒川さん一ポイント獲得! 次の問題、タラバガニは実はカニではなく」
朝宮が素早くボタンを押した。
「ヤドカリ」
「ゆ、優勝は朝宮和夏菜さんでーす!」
容赦ないな‥‥‥。
てか、なんか朝宮の機嫌が悪そうなんだが‥‥‥。
日向は横で泣いてるし、黒川は俯いて顔を上げないし、俺はなんかみんなに睨まれてるし‥‥‥。
でも、これで過去のことは全部終わり。
そうだよな‥‥‥。
朝宮が金メダルを貰ってクイズ大会が終わると、黒川が俺達の元へ歩いて来た。
そして黒川と日向は見つめ合ったと思えば、急に泣きながら抱きしめ合った。
「ごめんね‥‥‥」
「ごめんなさい‥‥‥私が弱かったから‥‥‥」
「違うの。振られたのは二美ちゃんのせいじゃない‥‥‥」
「でも‥‥‥」
「一輝くん‥‥‥」
「は、はい」
「ごめんね」
「な、なにがだよ」
「迷惑かけちゃった」
「気にするな」
「でも、なんかこれでスッキリ」
「私もよ」
二人は涙を拭いて落ち着きを取り戻したみたいだ。
「えっと、これで全部、本当に過去のことは無かったことにしよう。俺達三人のためにも」
「なら、三人で握手しよ!」
「そうね。恋人が無理なら、友情の証で」
「あー‥‥‥本物の友情に握手なんか必要ないぜ!」
「なんかさ、スッキリしたら、こういうのムカつくようになってきたんだけど」
「私も同じことを感じたわ」
「えっ、待って?」
「一回ぐらい痛めつけておく?」
「こういう場合、振られてもまだ好きだからみたいな、いい流れの展開じゃないのか!?」
「掃部くんが一番知っているのではなくて?」
「へ?」
「女の子は怖いのよ」
「‥‥‥」
「絵梨奈! 助けてくれ!」
まだ絵梨奈が見ていることに賭けて、意外と情深い絵梨奈に助けを求めると、絵梨奈は大仏姿でこっちを見つめていた。
「わーお! 大仏が中指立ててるぅー!」
「逃がさないわよ」
「絶対触ってやる!」
「勘弁してくれー!!」
全力で口内へ逃げ込んで廊下を走っていると朝宮を見つけ、俺に気づいた朝宮はすれ違いざまに呟いた。
「屋上に来なさい」
言われた通り屋上へ行くと、しばらくして朝宮がやって来た。
「なんだよ、屋上に来なさいって」
「逃げていたんでしょ? ここなら誰も来ません」
「そういうことか。助かった」
「文化祭スタートから大変ですね。文化祭はまだまだこれからなのに」
「あぁ、でもなんか、俺もスッキリしたわ」
「そうですか。でもこれで、今日も掃部さんの家に帰れます」
「それはそれで問題だな」
「今、ホッとしませんでした?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。ホッとしたのは朝宮だろ」
「金魚と離れ離れにならなくて済んでホッとしました」
「そうかよ。俺はコスプレ喫茶の仕事の時間までここに居るから、朝宮は遊んでこいよ」
「分かりました」
朝宮は素直にどこかへ行き、俺は屋上から空を見て時間を潰した。
※
しばらくして、何故か朝宮が屋上に戻って来た。
「なんだ? ボッチじゃ遊べないか」
「失礼ですね。こっそり抜け出してコンビニへ行って来ました。どうせ帰るまで何も食べないつもりなのでしょ? お弁当食べてください」
「いいのか?」
「はい。本当、私がいないとダメなんですから」
クールモードなのに、朝宮はそう言いながら微かに笑みを浮かべた。
「どっちがだよ。でもありがとう」
「はい」
「クールモードの朝宮に優しくされると思ってなかったわ」
「帰ったら弁当代を請求します」
「全然優しくなかったわ」
「冗談ですよ。それじゃ、私は謎解きゲームをして来ます」
「いってら」
なんでか、朝宮の優しさは素直に受け入れられる。
我ながら変な感じだ。
やっぱり一緒に暮らしてるから、家族みたいな感覚になって、自然と信頼とかしちゃてるのかな。
んー、信頼‥‥‥俺に限って、そんなことないか。




