恋のライバルと女をダメにするバイブ
土日は朝宮とレンタルしてきたDVDで映画を見て過ごし、あっという間に月曜日になり、前半は普通授業で、後半から文化祭の準備が始まった。
「実行委員!」
「ん? なんだ?」
陽大とメニューのチェックをしていると、衣装班の女子が話しかけてきた。
「裁縫道具の追加ってできる?」
「あぁ、うん。買ったらレシートを朝宮に渡してくれ。委員長に金もらって返すから」
「金額の上限ってあるの?」
「えっとー、朝宮」
「はい?」
「文化祭で使っていい金額って決まってたか?」
「必ず必要なものなら、五千円を超えない限りは申請は必要ありません」
「さすが和夏菜ちゃん! ありがとう!」
俺にもありがとうを言え!!
「一輝」
「どうした」
「メニューもさ、実際に作ってみないと分からなくない?」
「んじゃ、放課後に調理室を使っていいか、クッキング部に聞いてみる。朝宮が」
「材料とかは? 先生に外出許可貰って、メニュー班で買いに行ってくれ」
「分かった!」
何でもかんでも聞かれるけど、案外やれてるな。
偉いぞ俺。
※
そんなこんなで文化祭の準備も順調に進み、あっという間に九月一日、放課後の会議へ向かう途中、朝宮が後ろから話しかけてきた。
「今日、桜城里高校へ行きますよ」
「俺も行かなきゃダメか? やっぱり嫌なんだけど」
「そんなに私と会うのが嫌かしら」
黒川の声が聞こえて廊下を見渡すと、本間と一緒に静鐘高校の廊下を歩いていた。
「黒川!? なんで!?」
「私の方から来てあげたのよ。桜さんとも話さなきゃいけないですしね」
「日向と?」
「日向さんならもう帰りましたけど」
「なら、文化祭実行委員長と会わせてください」
「あぁ、んじゃついて来い」
「はい」
黒川達を連れて会議室にやってくると、みんな見ない顔に唖然としてしまった。
「爽真」
「どうしたんだい? こちらの方達は?」
「桜城里高校の会長と副会長だ」
「それはどうも! 文化祭実行委員長の高野爽真です!」
「お前高野っていうの!?」
「知らなかったの!?」
「それで、高野さんに何の用ですか?」
「和夏菜さん、前まで下の名前で呼んでくれてたよね‥‥‥」
「ところで貴方誰ですか?」
「二回も告白したのに忘れたのかい!? それに数秒前、高野さんって言ってたよね!?」
哀れな爽真はほっといて、黒川は本当になんで委員長に会いに来たんだ?
「貴方が委員長なんですね」
「はい!」
「私達二人が文化祭を全力でサポートします」
「いいんですか!?」
「この前、二人には情けない姿を見せてしまいましたし、掃部くんにいろいろ言われてしまいましたので」
「掃除機くん、失礼なこと言ってないだろうね」
「久しぶりにその名前で呼ばれたな。さすがに名前知ってるだろうに」
「なんか慣れちゃったからさ!」
「あっそ。んで、サポートってなにしてくれるんだ?」
「コピーしたポスターを持ち帰って、学校に貼るわ。それと、宣伝用のチラシとかがあるなら街で配ってくるわよ?」
「無条件でか?」
「桜さんと貴方とで、三人で話す機会を設けてちょうだい」
「無理」
「私がセッティングしましょう」
「朝宮! お前なんなんだよ!」
「助かります」
「おい」
朝宮が事の解決を望んでるのは分かるけど、さすがに余計なお世話すぎる。
「中野先輩!」
「どうした?」
「桜城里高校の会長さんと副会長さんです! ポスターを貼ってくれるらしいので、コピーの用意してもらってもいいですか?」
「了解だ! わざわざありがとうございます」
「どういたしまして」
「一年生は金曜日にコピーしたチラシを袋にまとめてくれるかな!」
「はーい!」
その時、会議室の扉がノックされ、爽真が扉を開けた。
「はい」
「あっ! 爽真くん! 一輝くんいる?」
その声は日向そのものだった。
帰ったんじゃなかったのかよ!
俺はすかさず黒川を隠す様に扉の前に立った。
「ど、どうした?」
「しーちゃんが一輝くんが呼んでるって」
「島村が?」
嫌な予感がして周りを見渡すと、島村はいつの間にか会議室の中にいて、黒川達の写真を撮っていた。
これは、どこからか俺達の情報を手に入れて知ってた感じだな。
「それで、どうしたの?」
「い、いや! なんでもない! てか、帰ったんじゃなかったのか?」
「B組の手伝いしてたよ?」
朝宮を睨むと、朝宮はすごい速さで目を逸らしやがった。
「と、とにかくなんでもない。ごめんな」
「お久しぶりです桜さん」
「空気読めよ!」
「二美ちゃん!? どうしてここに!?」
「貴方に会いにきました。中学の頃のことを終わらせに」
「‥‥‥え?」
もうしょうがないか。話すしかない。
「日向」
「な、なに?」
「俺は黒川に、どうして日向が俺を振ったのかとか、いろいろ聞いた」
「‥‥‥そっか。いつか教えなきゃって思ってたからよかった!」
「場所を変えましょうか」
「そ、そうだな」
気を利かせた黒川に言われるがまま屋上にやって来たが、何故か島村と朝宮同伴なのが意味分からん。
しばらく沈黙が続き、文化祭の準備で賑やかな声と、部活の掛け声だけが聞こえてくる。
「それで、二美ちゃんはどうして一輝くんに話したの?」
最初に切り出したのは日向だった。
「私なりの罪悪感よ。貴方が掃部くんと付き合っていたことを知らずに、貴方に私の好きな人は掃部くんだと話したこと。それで桜さんは別れを選んだのよね?」
「気づかれてたんだね」
「もちろんよ。私が怖かったの?」
「うん‥‥‥二美ちゃんは、私の憧れでもあったけど、機嫌を損ねたら、もう仲良くしてくれないんじゃないかと思って‥‥‥」
「そういう生き方はやめなさい。私は好きで桜さんと一緒に居たのよ?」
「そうなの?」
「そうよ? だから、今からでも掃部くんと寄りを戻して幸せになりなさい」
「え!?」
「おい、結局それが目的だろ」
「掃部くんは嫌なの? 貴方は桜さんを心から憎んだかもしれないけれど、桜さんも悪気は無かったのよ? 苦しみながら取った行動なのよ?」
「だったら俺と陽大が苦しんだのはしょうがないって言いたいのか?」
「それは違う! 私は悪いことをした! なのに今になって、また一輝くんとやり直したいとか思ってる‥‥‥自分勝手でごめんね‥‥‥」
「陽大にも謝れよ」
「うん‥‥‥」
「俺は許すからさ、マジで陽大だけには土下座してでも謝れ」
「本当‥‥‥? 許してくれるの?」
「うん」
「なら! 文化祭で私とデートしてください!」
「どうしてそうなるんだ!?」
「それから答えを出して! それでダメなら諦めるから」
「‥‥‥」
「それくらい良いんじゃない? 最終的に決めるのは掃部くんなのですから、掃部くんにマイナスはないでしょ?」
「当日まで考えさせてくれ」
「うん! 待つ!」
どうしたらいいのかね‥‥‥。
***
少し離れた距離で三人の会話を聞いていた紫乃は、三人に聞こえない小さな声で和夏菜に聞いた。
「朝宮さんは何故ここに?」
「話が気になっただけです」
「そうですか。掃部さん、取られちゃいますよ」
「私には関係ないです。なにも問題ないですよ」
「問題だと感じた時は情報屋として私を使ってくださいね」
「そんな日は来ません」
「そうですか。それ以外でも、気になることがあれば是非」
「なにか知りたいことがあれば聞きに行きます」
「お待ちしてます」
紫乃は校内に戻って行き、朝宮は静かに三人を見つめた。
***
「それにしても、掃部くんはすっかり優秀だった面影がなくなってしまったわね」
「お前、本当に罪悪感消すつもりあんの?」
「あるわよ。でも本当のことよ? あんなに人気があって勉強もできたのに、崩れるのは一瞬ね」
「私的には人気なくて助かるよ!」
さらっと今は人気ない現実を叩きつけられたんだが‥‥‥。
「と、当時も人気あった自覚はないんだけど」
「爽やかで優しくて勉強もできる。女子生徒からは結構人気あったわよね?」
「あったあった! 噂してる子結構いたし! 今の爽真くんポジションだったよ?」
「爽真か、複雑なんだけど「 」
「高校生になって少しはマシになったのかしら」
「いや、まったく勉強してない」
「ダメね」
「優秀だからって好きになられても困る」
「わ、私は違うよ? 私は一輝くんの優しいところを見て、そ、その、好きになったから!」
「お、おおっ、俺にとって優しさはコンプレックスだ。とにかく、二人の話は終わったのか?」
「そうね。私は桜さんに自分の気持ちを大切にしてほしいの。それだけよ」
「わ、分かった」
「それと私は、貴方が憧れるような人じゃないわ」
「そんなことないよ! 二美ちゃんかっこいいし!」
「久しぶりに掃部くんと会って、冷たく装いながらもドキドキしてしまった‥‥‥普通の女の子よ」
「えっ、お前マジかよ」
「文化祭までの期間、頻繁に静鐘高校に顔を出すから、その間、私は掃部くんの心を手に入れてみせるわ」
「私とライバルってこと!?」
「そう。正々堂々やりましょうね」
「‥‥‥わ、分かった!」
「ちょ、ちょっと待て! 黒川は結局俺のことが好きなのか!?」
「落ちぶれたのなら私が元に戻してあげれば問題ないわ。そうは言っても、好きな人のことは甘やかしてしまいそうだけれどね」
なにその感じ‥‥‥ちょっとキュンとしちゃうじゃねーか。
てか俺、入学して以来のモテ期なんじゃ!?
うん、普通に困るわ。
あぁ、もうなんか、感情がぐちゃぐちゃだ。
俺は誰とも付き合いたくないし、信じたくもない。
でも、こんな可愛い子と美人さんに好かれること自体は、正直悪い気はしない。
中途半端のクズは俺か。
「私もいっぱい甘やかすから!」
「そっ、そっか」
とにかく話はめんどくさい結果になってしまったのは確実。
一度話を変えよう。
「本間はどこ行ったんだ?」
「多分空気を読んで、会議室で何か手伝っていると思うわよ?」
「なら、そろそろ戻るか」
「そうね」
一度会議室に戻ろうと廊下を歩いていると、既に話題になっているのか、朝宮クラスの美人黒川の登場に、男子生徒も女子生徒も、みんな教室から顔を出して見てくる。
マーメイドの中に迷い込んだナマコの気分だぜ。
そして会議室前に着くと、エリナと絵梨奈が意気投合していた。
「あっ、桜! どこ行ってたの?」
「ちょっとね!」
「エリナ、お友達ができたの?」
「はい。綺麗な金髪の染め方を聞かれていましたが、私の場合地毛なので」
「そう」
それから、日向は絵梨奈と一緒に帰って行き、黒川と本間は会議に参加して、今まで出なかった案などをポンポン出してみんなを驚かせ、今日の会議はかなり話が進んだ。
※
「ぬぁー!」
「なんですか? 変な声出して。出ちゃいました?」
「なにがだよ!」
今日も精神的に疲れまくって、帰って来ても何もやる気が起きなく、さっきからずっと水槽の前に椅子を持ってきて脱力している。
「それにしても掃部さんって、優しくて人気者で勉強できる人だったんですね!」
「うるさい」
「それが今では、私がいないと勉強もできないダメ人間! 今日からオムツも変えてあげまちゅね!」
「そもそも履いてねぇよ!」
「それも怪しいですけど、とにかく、どんよりした関係じゃなくなったんじゃないですか?」
「日向とか?」
「はい!」
「まぁ、そうかもな」
「もしも掃部さんに彼女ができたら、私はここを出て行きますから! 安心してくださいね!」
「そりゃいいことだな。部屋片付けてから出て行けよ?」
「そんなこと言って! 私を誰だと思ってるんですか!」
「掃除できないダメ人間」
「私達、ダメ人間同士ですね!」
「嬉しくねーよ!」
「さて! 今日はいい物が届いたんですよ! ちょっと待っててください!」
どうせまたろくなものじゃない。
そう思っていると、朝宮は二階から大きな赤い塊を持ってきた。
「なんだそれ」
「人をダメにするソファーです!」
「お前が一番買っちゃちゃダメだろ!」
「あと、女をダメにするバイブです!」
「なに買ってんの!? そんな物持つな!」
「普通に肩のマッサージ機ですよ?」
「分かるよ!? 分かるけど、もう一般常識としてそれはアレなグッズ認定されてるから!」
「まぁまぁ、あんあん」
「おい」
「まだ使ってないので、ちょっと肩に当ててみましょうか!」
朝宮は電動マッサージ機を椅子に座る俺の肩に当てて、マッサージを始めた。
「どうですか?」
「あぁ〜、めっちゃいい」
「気持ちいいですか?」
「かなり」
「ほれほれ、ここが良いんじゃろ」
「最悪だわ! マジで変な用途で買ってないだろうな」
「これは未成年が唯一買える神のグッズです!」
「俺が寝静まった後に頼む‥‥‥」
「私は一人でしたことありません!! そもそもやり方をしりません!! なんか怖いですし!」
「嘘つくな!!」
「え? 本当ですけど」
「あ、そうなのね。なんかごめん」
「次は私に当ててください!」
「いいけど、朝宮専用の椅子に座れ」
「はい!」
一度リビングへ行き、次は俺が朝宮の肩をマッサージすることになったが、これを女に当てるのは、なかなかの経験だな‥‥‥。
「いくぞ」
「あぁ♡」
「変な声出すなよ!」
「そこそこぉ♡」
「声とろけさせんな!」
「もうちょっと右です」
「ここか?」
「あぁ‥‥‥掃部さん下手くそですね」
「やめて!? なんか傷つく!」
肩のマッサージをしているだけなのに、何故か童貞心が傷つけられた‥‥‥。




