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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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高原君

 一八と莉子は探索に入っていた。現れる魔物はラージスパイダーやホーンワラビーというEランク危険度の魔物ばかりである。量はそこそこいたけれど、一八が全て斬り倒していた。


「カズやん君、あたしにも倒させてくれなきゃ実績が……」

「うるせぇ。まだ序盤だろ? 終盤になれば参加させてやる」

 広域実習は一日かけて行われる。オオサカの魔物被害を軽減する目的もあるこの科目は、中途半端に行われるものではない。


「しっかし、本当に魔力を乗せてないの?」

 見事な太刀筋に莉子が目を丸くしている。斜陽は零月よりも一尺長いのだ。簡単に振り回す一八を見ては驚くしかなかった。


「雑魚に魔力を使うのはもったいねぇ。俺は去年のオーク戦で嫌というほど理解した。魔力は温存してなんぼ。余らせて帰るくらいがちょうどいい」

 乱戦になれば魔力を使う必要もあるだろう。しかし、狙い通りに刀を振れるのなら、魔力など込めなくても一刀両断にできる。奈落太刀は業物であるし、一般に出回っている刀とは一線を画すものだ。


「ワーウルフか……」

 ミノウ山地の麓まで来ると魔物の種類が変わった。しかし、問題はなかった。危険度が上がろうとも一八だって成長を遂げている。群れるワーウルフといえども、相手にはならなかった。

「ふーん、なかなか戦闘感がイイね? 斬っていく順位付けがイケてる。とても十八歳とは思えないな」

「そりゃあどうも。こちとら戦いに関しては年齢以上の経験を積んでんだ。他のやつと比べられても困る」

 オークキングに進化する前を含めると、一八は前世で百年以上も生きていた。その毎日が戦いである。数多の魔物を倒してきたし、オーク同士でも戦いが絶えない。戦闘経験だけは誰にも負けないといえる。


「あ、カズやん君、ちょっと待ってくれる?」

 急な坂道の手前。少しばかり森が開けた場所で莉子が言った。

 疲れたはずはない。エリアに入ってからは徒歩であったけれど、魔力を使うどころか剣すら振っていない彼女が疲労感を覚えるはずもなかった。


「どうした?」

 一八が問うと莉子はハンディデバイスを操作。彼女がボックスから取り出したのは百合の花束であった。


 莉子はそっと地面にそれを置くや、片膝をついてそのまま祈り始めている。

「マナリス様、どうか高原君が安らかに……」

 一八は静かに祈りが済むまで待つ。聞くまでもないことだ。昨年度の死者である高原候補生がこの場所で尽きたこと。無関係な場所で花を供えるはずもなかった。


「ごめん、ちいっと雰囲気悪くしたね?」

「ああいや、構わん。ただ祈る相手が間違っているな? 高原ってのはマナリスよりも素晴らしい女神の元へと還っていったはずだ……」

 魂の行き先を知る一八。次に向かう世界はマナリスの手を離れる。それはマナリスから直々に聞いた話であった。


「カズやん君はマナリス教徒じゃないの?」

「いや、一応は信徒だ。何しろ俺は女神の加護を持っているし……」

「あ、そういやカズやん君も女神の加護を持ってるんだったね! 超アガるやつじゃん! あたしも加護が欲しかったなぁ!」

 女神の加護を持つ一八と玲奈。魔力に問題がない玲奈や圧倒的な強さを誇る一八が莉子には羨ましく感じられた。それが加護による恩恵ではないかと思えて仕方がない。


「じゃあさ、どうしてマナリス様に祈っちゃ駄目なの?」

 再び歩き始めた二人だが、莉子は話を続ける。敬虔な信者であれば、事あるごとに祈りを捧げるはずと。

「さあな。そんな気がしただけだ……」

 説明できるはずがない一八は濁して答えている。この世界に生きる限りはマナリスに祈るべきだ。しかし、死後は別の女神が担当するだなんて話を信じてもらえるはずがない。


「急いで行くぞ。午前中に折り返しまで到着するからな」

 一八が足を速めている。この度の実習は必ず無事に戻らねばならなかった。莉子がトラウマを払拭するためには、魔力切れなど起こさずに任務を完遂するしかない。


 ミノウ山地の中腹。そこが二人の目的地である……。

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