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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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緊急警報

 キョウト市北部エリアにある守護兵団キョウト支部。支部務めの士官は一日の休暇も与えられずに連続勤務中である。つまるところ、ヒカリと優子は支部で寝泊まりしていた。


「おはようございます……」

 ようやくと起きてきた優子をヒカリが睨んでいる。かといって別に問題はない。今のところ魔物探査のレーダーには小さな反応が単体であるだけだ。


「大尉ぃ、コーヒー……」

「お前な、私は母じゃないどころか上官だぞ?」

「いいじゃないですかぁ、共同生活しているんだしぃ……」

 寝起きはまるで役に立たない。ヒカリは不服に感じながらもコーヒーを淹れる。流石に癪なのでマグカップ二杯分の豆をメーカーへと投入していた。


「はぁ、良い匂い……」

「さっさと顔を洗ってこい! トーストを焼いてやる!」

「はぁい、お母さん……」

 まったくとヒカリ。妹がいたから家事は得意であった。浅村家は父親も祖父も守護兵団という家系であるが、いずれも若くして失われている。母は働きに出ていたこともあり、幼少期は炊事洗濯がヒカリの仕事となっていた。


 優子のトーストをオーブンに入れたその瞬間、

『ビーーーーー!』

 どうしてかレーダーがけたたましい音を立てた。つい先ほどまでは何の問題もなかったというのに。

 慌ててヒカリがレーダーを確認。アラートを停止し探査画面に目を凝らした。


「何……だと……?」

 異常な数値を示す魔力体が北東部より接近している。直ぐさまヒカリはデータベースに照会し確認を試みた。


【飛竜種】

【適合率90%】


 この回答には息を呑む。飛竜種は漏れなく災害レベルだった。十年単位で目撃されるかどうかという魔物がキョウト市へと向かっている。


「飛竜とかあり得んだろ……?」

 愕然とするもヒカリは警報を発令する。キョウト市全域に避難警報を出した。

「大尉!?」

 警報を聞いた優子が慌てて戻って来る。即時の警報発令はただならぬ事態。彼女も目を覚まさずにはいられなかった。


「良い目覚ましになっただろ?」

「冗談ではないのでしょ!? 一体何が……」

 言ってモニターを見つめた優子は絶句している。何しろ優子が騎士学校を卒業してからというもの飛竜種は一度も現れていなかったのだ。


「まだ距離はある。前線基地から連絡がないということはタテヤマ連峰から来たわけでもないようだな……」

「そうみたいですね。キョウト市に向かっているわけでもなさそうです」

 進路はキョウト市をかすめるかどうかといったところ。解析結果ではまだ若い個体らしい。巣立ったばかりという可能性が高く、安住の地を求めているのかもしれない。


「空の王者らしく矮小な人間など無視してくれればいいのだがな……」

「飛竜に街が襲われた報告はそれこそ三百年前ですよ? 恐らく進路上にキョウトがあっただけだと思います」

 優子が意見した。人間が攻撃でも仕掛けない限り、基本的に飛竜は襲ってこない。三百年前の記述でも人間が先に手を出したとある。たとえ上空を通過したとしても絶対に人間から手を出してはならなかった。


「優子、一般兵を掻き集めておけ。緊急避難命令も同時に発行だ。私は本部に連絡を入れてくる」

「分かりました……」

 無事にキョウト市を通過したとして南には首都オオサカがある。更に南にはワカヤマという街も存在していた。事前に連絡を入れることで大混乱は避けられることだろう。


 途中で方向を変えてくれたのなら良かったのだが、生憎と飛竜は南下を続けている。

 ふぅっと息を吐いたあとヒカリも動き出す。本部に連絡したあと、避難する市民が取り乱さないように巡回しなければならない。

『緊急避難命令! 北東部より飛竜が接近中。住民は速やかに避難してください。シェルター閉鎖まで約二十分です。繰り返します……』

 オペレーターによる緊急避難命令が流れた。飛竜というかつてない魔物の飛来に市民はパニックとなっていることだろう。


 ヒカリは魔道通信機を手に取り、溜め息と共に連絡を入れる。

「こちらキョウト支部の浅村だ。キョウト市に飛竜が接近している……」

 朝から最悪の展開である。事実を伝えるだけだというのに気が滅入って仕方がない。


 案の定、通話に出たオペレーターが取り乱している。未だかつてそのような報告を受けたことなどなかったのだろう。

「落ち着け。恐らく目的地はキョウトでもオオサカでもない……」

 レーダーを見るに進路は微妙にキョウトやオオサカから外れている。空には障害物がないのだし、わざわざ飛竜が目的地まで迂回するとは思えない。

 またも長い息を吐きヒカリは言葉を続ける。


「目的地は恐らくミノウ山地だ――――」

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