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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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実地訓練

 翌朝のこと。伸吾はようやく疲れも取れたようで、朝から一八とロードワークをしていた。

 本日は必修科目である広域実習がある。それは候補生たちが経験を積むためのものであるが、一方で地域活動の一環でもあった。

 AクラスとBクラスは危険度に応じてエリアを分けられている。最初のクラス分けで学力が加味されなかった理由はこの実地科目のせいであり、実力者をより危険な場所へと向かわせるためだ。


 朝食を取って直ぐ、Aクラスの訓練生たちはオオサカ市の北街門へと集まっていた。

「Aクラスの担当は北側のミノウ山地周辺だ。班割りは昨日と同じ。担当エリアについてはハンディデバイスに送信している」

 西大寺教官が言った。昨日は少しも剣を振らせなかった彼だが、実地訓練は予定通り行うらしい。

「組分けに関しては班に一任する。必ず二人組以上となるように。ただし、時間内に指定エリアを探査すること。回り切れたどうかはチェックしているからな」

 流石に魔物退治となれば、西大寺もズルをしないよう先に警告をしている。見落としなどあってはならない。オオサカの平穏を騎士学校は請け負っているのだから。


「危険度C以上と判明した場合は速やかに連絡すること。勝手な行動は班どころか隊にも迷惑がかかる。どうしても交戦が避けられない場合は防衛に徹して援軍を待て」

 西大寺の話に緊張が走った。だが、実をいうと彼の忠告は万が一を想定しているため、この度の訓練には関係がない。初回ということもあり担当エリアは街に近い場所が殆どであったのだから。


「直ぐ西側では魔道科が訓練中らしい。エリアの境目では魔法の発動アラートに気を付けておけ。黒焦げになってもしらんぞ」

 どうやら魔道科も初の実戦訓練を行っているようだ。エリアの端では魔法の発動を控えるよう教えられているはずだが、やむを得ない場合があり、必ずしも安全ではない。

 西大寺が話すように半径三十メートル内において魔法が発動する場合はハンディデバイスに警告アラートがある。それは魔道デバイスの機能であり、術式に魔力が注ぎ込まれるや危険を知らせる波長を出す。ハンディデバイスがそれを検知すると瞬く間にアラート音が鳴る仕組みであった。


「それでは各班探索始め! 何かあれば速やかに私まで連絡すること!」

 言って西大寺が手を叩くと全員が了解と返し、班ごとに分かれていく。

 オオサカ北街門。キョウト市へと繋がる主要街道がある場所だ。往来の頻度が高いここはAクラスの担当となっていた。


 一八たち一班は街門を出た直ぐ側で作戦を練っている。

「どうやら俺たちはクラス替えがあるまで同じ一班らしいな」

「そうだね。まあコロコロと編成が変わるよりいいんじゃない?」

 一八の話に伸吾が頷いている。思えば昨日のインターバル走は班の結束を促していたのかもしれない。

「しかし一八よ、私たちの担当エリアは広すぎないか? 午後五時までに全域を回りきるのは難しいぞ」

 玲奈がデバイスを確認しながら言った。どうやら班割りが実力順であったのはエリアにより難易度が異なったからのよう。一班は最も街門から距離があったし、範囲も他班の二倍近くもある。

「俺たちは期待されてるってことか。現地までの移動だけでもかなりかかるぞ」

「じゃあさ、やはり教官が話していたように、班を細かく分けようよ。手分けして探索しないと間に合わないんだし」

 伸吾が意見を口にする。個々に動くのは明らかに間違いであり、全員で行動すると時間が足りそうにない。西大寺は確か二人組以上となるように話していた。それはつまりツーマンセルないしスリーマンセルで班を分けるということだろう。


「俺は奥田と組みたい」

 ここで生駒拓巳いこまたくみが手を挙げた。彼は昨年度のインターハイ優勝者だ。全体五番手という生駒だが、どうしてか一八を指名している。

「俺も奥田がいいわ」

 続いて今里晋太郎。彼は生駒のライバルであり、一年の折りにはインターハイで優勝した経験もある。今里もまた一八とのペアを希望した。


「奥田君、大人気だね? ただ僕はツーマンセルにすべきだと思ってる。三組に分かれて探索しなければ絶対にカバーしきれないからね」

「だそうだぞ? 俺は別に誰とペアでも構わないが……」

 二人の希望が同時に叶うことはなさそうだ。じゃんけんでもして決めるのが手っ取り早いかと一八は思う。


「いや、生駒と今里は諦めてくれ。一八とペアを組むのは莉子が適任だ」

 ここで玲奈が口を挟む。なぜか彼女は莉子が適任だと話している。

「玲奈ちん、どーして? そりゃ、カズやん君がペアなら安心だけどさ」

 莉子は生駒と今里が一八を指名した理由を口にした。

 初めての実地訓練なのだ。オークエンペラーと一騎討ちをしたという一八の実力は全員が知るところであり、彼がパートナーであれば万が一にも全滅は避けられるとの判断であろう。


「剣士として情けない話だが、莉子は昨年度の実地試験で魔力切れを起こしている。それを考慮すれば、一人でも戦える者が彼女とペアを組むべき。一八は一太刀でオークを二頭ないし三頭も斬り捨てられるのだ。個々ではなく班全体の評価を考えると、組分けで間違えるわけにはならん」

 玲奈の説明は全員が納得できるものであった。これは班単位の訓練である。評価は個別ではなく班としての成果であるのは明らかだ。


「なるほど、僕は岸野さんの意見に賛成だ。生駒君たちもそれでいいかな?」

「あ、ああ……」

 話し合いを仕切っているのは明確に伸吾である。柔らかい口調ながら押し付けるように決めていく。

「エリア1は高ランクの魔物が最も多く出現する。元々、魔物の出現率が高いエリアで昨年はCランクも何度か現れたみたいだ。続いてエリア2。魔物自体の遭遇率は高いけれど、エリア1ほどではないし、平均して低ランクだね。ただし、ここはBランクが一度だけ出現している。またここでは候補生が一人亡くなっているようだ。あと街道に近いエリア3は魔物の出現率が群を抜いて低く、出現する魔物のランクも殆どがFで高くてもEという統計。今年も同じか分からないけれど、ここ五年を見てもCランクは出現していないね」

 伸吾はデータベースにて調べた情報を語る。本当に慣れた感があった。訓練生はこれが初めての実地訓練であったというのに。


「お、俺はエリア3でいいか?」

「俺もエリア3がいい……」

 死亡者の情報に臆したのか生駒と今里は真っ先にエリア3を希望する。彼らは同年代で最高の剣士であったけれど、魔物との戦闘経験がない彼らは臆面もなく低難度のエリアを望んでいた。

「うん、僕の意見も同じだ。生駒君と今里君はエリア3をよろしくね。これでペアが決まったわけだけど、岸野さんはそれでいいかな?」

「私は問題ない。では伸吾、貴様はどちらのエリアがいい?」

 玲奈が問いを返した。残るエリアは1と2のみ。難易度的にはエリア1はかなり手強そうな感じだ。


「希望というか作戦的には僕と岸野さんがエリア1を担当すべき。もしも魔力切れした際にエリア1から金剛さんを担いで戻るのは大変だからね」

 堂々と伸吾が返答を終えた。エリア2という選択が残っていたというのに、彼はやはり全体を見ている。万が一を想定する彼は危険度が段違いであるエリアを選んでいた。

 一方で莉子は相槌すら打つことなく俯いていたままである。全ては昨年度にあった魔力切れのせいであったから。彼女の失態は作戦に大きく影響を与えていた。


「みんなごめん……」

 とても小さな謝罪の声が届く。莉子は申し訳ない気持ちで一杯だった。魔力切れは零月が振り切れないためであり、彼女の意地が全員に迷惑をかけているのだ。

「莉子、今は構わん。しかし、その内に決断しなければならんと私は考えている。貴様の意志は尊重してやるが、パートナーの負担も考えるべきだ。魔力切れを起こすたびに担いで戻らねばならないなんて誰も組みたがらないだろうしな」

 実際の出撃には魔力回復のポーションを携帯する。しかし、高濃度魔素を魔石から抽出したものである魔力ポーションは非常に高価であり、出撃のたびに消費するようなものではない。


「まあお手並み拝見といこうか。莉子だけでなく伸吾という無名な剣士についても……」

 玲奈がニヤリとした視線を伸吾に向けた。ここにいるのは世代でも有数の剣士たちだ。一八はまだしも剣術大会で名を聞いたことのない剣士が他に二人も含まれている。だが、一班であることは評価を受けた証し。二人がどれだけ戦えるのか玲奈は楽しみにも感じていた。


「お手柔らかに。じゃあ、探索を始めようか。定時連絡は絶対にすること。あと緊急時にも必ずだよ!」

 言って伸吾は手を叩いて探索を急かす。自然とリーダー役を買って出ていた。

 六人は早速とペアを組み指定のエリアへと向かっていく。訓練の一環でしかなかったけれど、過度に緊張感を覚えながら……。

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