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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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ロードワーク

 授業初日を終えた一八。自室に戻るとベッドへ横たわる伸吾の姿が見えた。

「おい伸吾、ロードワークに行くぞ」

 夕食までの時間を有効利用しようと思う。汗を流してスッキリするだけでなく、お腹を限界まで空かせておく。食堂は食べ放題であったから一八は身体を動かしたかった。

「奥田君、僕はもう駄目だ。一人で行って欲しい……」

 伸吾は完全にグロッキーであった。聞けば初日はほぼ訓練系の授業であったらしく、一限目から疲れ果てた彼は立ち上がるのもままならないという。


「しゃーねーな。飯の時間になったら起こしてやるよ」

「ありがとう。よろしくね……」

 一八はジャージに着替え、一人でロードワークに出ていく。校門を出てしばらくすると、

「一八!」

 聞き慣れた声が一八を呼び止める。ジョギング程度のスピードであったから、彼女は追いかけて来たのだろう。

「玲奈……、って莉子もいるのかよ」

「カズやん君、玲奈ちんが酷いのぉ。あたしはくたくたなのに無理矢理にロードワークさせられてんだから!」

 意外にも莉子はロードワークを断らなかったらしい。玲奈とて彼女の疲労を知っていたから疲れたといえば見逃してくれたはず。


「お前は意外と努力家なんだな?」

「なぁに、それ? あたしはベッドとお友達になりたかっただけだけどなぁ……」

 恐らくは照れ隠しだと思う。加えて負けず嫌いな面もあるのだと。本当に動けないのなら断っていただろうし、一限目の醜態を彼女は悔いているはずだ。


「体力は全ての基礎だろ? 莉子、お前はどんなに疲れていても朝晩必ず走っておけ」

「一八のくせにいいことをいうではないか? 莉子、夜は筋トレをするからな!」

「ふぇぇ! 死んじゃうよ!」

 どうしてか放っておけない。一八としては落第生を気にする余裕はなかったというのに。

 落第生は莉子を除いた全員がBクラスとなっていた。聞けば落第した最後の期間も莉子はAクラスであったらしく、Aクラスから昇格できなかった候補生は未だに彼女しかいないらしい。


 黙々と走っている。沈みゆく夕日が目に眩しい。けれど、妙に心地よかった。太陽に向かって走っているようで。遥か先のゴールに近付いている感じがして……。

 首都オオサカ市はキョウトよりも随分と活気に満ちていた。ただ道行く人は全員がロードワークに気付くと道を空けてくれる。

 どうやら騎士学校生は市民から敬意を払われているらしい。オオサカの魔物被害を一手に引き受けている彼らは市民から尊敬されていたのだ。


「ねぇカズやん君、今日はありがと。あこそで休憩できたからこそ、あたしは最後まで走れた。また諦めてしまうところだったよ……」

 不意に莉子が口を開いた。それは感謝であると同時に謝罪でもある。一八がいなければ莉子はインターバルを最後まで走りきれなかったという。脱落をし、教官の評点を悪くしていたはずだ。

「お前は軽すぎる。奈落太刀の重さと変わらん。だからなんてことねぇよ。せめて持ち上がらんくらいに身体を作れ」

「それってデブなんじゃ……。でも流石に斜陽よりはかなり重いと思うけどなぁ」

 莉子の体重は四十キロ程度。よって刀より軽いはずがない。一八の話はただ彼女が心苦しく思わないようにとの配慮である。


「るせぇ……。とにかく礼はいらん。結果が良かったら問題なしだ」

「そうだぞ莉子。一八は女体に触れられただけで得をしたと思っているはずだからな!」

「ええ? カズやん君って、どエッチ?」

「どエッチいうな!」

 最後は笑い話となる。それは一八が望んだままだ。貸し借りなんて仲間内にあってはならない。仲間であるからこそ自発的に行動しただけなのだ。


「じゃあさ、カズやん君はどうして斜陽を振るの? もっと軽い刀もあるっしょ? 軽い刀の方がスピードはでるし、正確性も増すと思うけど」

 どうしてか奈落太刀の話になっていた。傾きつつある太陽から連想したのか、一八が持つ奈落太刀の片割れについて聞く。


「お前と違って俺は奈落太刀を振るのに苦労してねぇんだ。片手でも楽に振れる。毎日魔力なしで一万回振り込んできたからな……」

「一万回!? それも魔力伝達なし!?」

 流石に声を大きくしてしまう。莉子は両手で振ったとしても魔力を流さずには使えない。適当に振るだけならばまだしも、刃の面や方向を正確に振らないことには威力を損なうことになるのだ。


「莉子は魔力なしで奈落太刀を振れねぇってのか?」

「振れるわけないじゃん! 女の子だよ!?」

「いや、俺は振り切れる女を知っているがな……」

 チラリと一八は玲奈に視線を送る。ただし、玲奈と比べるのは悪い気もした。彼女は幼少期からずっと天軍の侵攻を意識しており、それに対して万全ともいう準備をしてきたのだから。


「それにお前がライバル心も燃やすあいつだって恐らく扱えるだろう。何しろ、あの女は俺を軽々と投げ飛ばすんだからな」

「え? カズやん君ってヒカリと柔術の試合をしたことあんの?」

 一八の話に莉子は驚いた顔をする。二人に面識があることくらいは分かっていたけれど、まさか剣術ではなく柔術の試合をしただなんて予想外すぎた。


「あの女は稽古といって俺を何度も投げやがった。俺が騎士学校に入ったのは全てあの女を投げ飛ばすため。苦ぇ地面を舐めさせてやるんだよ……」

「はぁぁっ、カズやん君って見た目通り馬鹿なんだね?」

「お前に言われたくねぇわ! 振れもしねぇ刀を使うなんて馬鹿がすることだ。それに俺はもう馬鹿を卒業したんだよ……」

 ふんっと鼻を鳴らす一八。確かに去年までであれば馬鹿でしかなかった。しかし、今は将来についても考えているし、地道な積み重ねが力になることだって分かっている。


 しばし無言の莉子であったが、荒い息を吐きながら言葉を絞り出す。

「筋トレやるよ……」

 小さな声で返されている。一八がいう奈落太刀を振れる女。それが玲奈でありヒカリであると分かったから。

 彼女たちも決して体格に優れているわけではない。だからこそ努力することで同じようになれるはずだと。


 莉子の決意に玲奈が頷く。彼女も筋力アップについては有効性を理解していたから。

「ならば莉子、クソマズいが筋力アップに最適なプロテインを教えてやろう。クッソマズいがかなりいいぞ!」

「玲奈ちん、それってどれだけマズいのよぉ?」

 またも笑い話で締めくくる。けれど、莉子は頑張ってみようと思う。昨年とは異なり今年は仲間にも恵まれたのだ。彼らがいてくれるだけで気力が振り絞れそう。厳しいトレーニングであっても投げ出さずにいられると思った……。

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