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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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罰走

 一八たち剣術科の初日は必修科目の剣術訓練からであった。それは毎日組まれている授業であり、魔道科も支援科も専攻訓練が最低一つは組まれている。

 全員が整列し点呼が終わるや教官が壇上に立つ。

「私がAクラス剣術教官の西大寺さいだいじだ。今朝方、早速と問題を起こした生徒が剣術科にいると聞いた。これは剣術科の連帯責任である。よって今日は罰として時間一杯までインターバル走をする」

 西大寺は食堂でのいざこざを聞いたらしい。該当人物がAクラスにいないことを知っているようだが、剣術科の問題として罰走を行うという。


 教官の命令は絶対だ。全員が不服に感じていたものの、歯切れ良い返事をするしかない。今以上に西大寺の眉間にしわが寄ろうものなら、インターバル走よりも酷い罰を受けることになるだろう。

「タイムが八分を超えた者は休憩時に腕立てだ。コースは敷地の外周。一班は一番から六番まで。スタート位置につけ」

 問答無用でインターバル走が始まる。タイムも設定されているらしく、遅れた候補生は次走までの間に腕立て伏せを強いられるらしい。


 番号はクラス分け時に名を呼ばれた順である。一八を始め玲奈や莉子、伸吾もスタート位置についた。

「スタート! 二班はスタート位置につけ」

 淡々と進行していく。西大寺は少しも休ませるつもりがないようだ。

 敷地の外周は約三キロ。全力で走らなければ休憩など得られない。罰走というだけあって厳しいラインが引かれていた。

 一八は今朝方走ったところだ。よって八分というタイムが簡単ではないことを知っている。従ってハンディデバイスでタイムを確認しながらペースを作っていく。


 初日の一走目からタイムオーバーなど許されない。一八を先頭として六人は走っていた。

「ん?」

 ところが、いつの間にか六番のゼッケンを付けた候補生が遥か先を走っている。一八は抜かれた覚えなどなかったというのに。

 結局、六番のゼッケンを付けた彼が一着でゴール。タイムは七分四十五秒であり、堂々のトップタイムだ。一八たちもなだれ込むようにゴールをし、一応は全員が八分を切っていた。

 ところが、西大寺の表情は険しい。何やら小言をもらいそうな予感である。

「一班は全員腕立てを始めろ! 五分後にリスタートだ!」

 どうしてか一班は腕立て伏せを命じられてしまう。全員が八分を切っていたというのに。

「西大寺教官、質問を!」

 玲奈が手を挙げた。流石に理不尽だと思えたからだ。異議申し立てとばかりに彼女は問う。

「我々は八分を切ったはずです。ハンディデバイスでタイムを確認していましたし」

 正当な抗議理由である。正直に莉子はかなりバテていた。少しばかり休ませてあげたいと玲奈は代表して文句とも取れる発言をしている。

「ふむ、ならば理由を教えてやる。六番の今里がコースをショートカットしたからだ。腕立て始め!」

 何ということだろう。突如としてトップに躍り出た今里は外周を走っていなかったようだ。彼がズルをした場所はグランドから最も遠いところであったのだが、生憎と教官には監視する術があったらしい。


「二班、全員腕立て! 休憩は許さん!」

 どうやら二班も同じことを考えた生徒がいた模様。一班同様に全員が腕立て伏せを命じられている。

 明確な理由に玲奈は引き下がった。莉子を休ませたかったけれど、残念ながらそれは叶わない。

「今里、お前のせいだぞ!」

 ここで五番を付けた生駒が声を上げた。彼はまだ騎士学校がただの学校ではないことを理解していない。連帯責任が何であるかを分かっていなかった。


「一班、腕立て止め! リスタートだ。貴様らのタイムは七分半とする!」

 再び罰が与えられてしまう。これには声を荒らげた生駒も呆然としている。ただもう声には出さなかった。一八たちに小さくすまんと口にしただけでスタート位置へとついていた。


 息を整える間もなくリスタート。しかもタイムは絶望的だ。正直に三十秒も短縮できるとは思えない。

 しかし、全員が全力疾走している。何かと罰が科せられてしまうのだ。無理だと速度を落とせば状況は益々悪化していくだろう。

 全員の息が荒い。今のところ脱落者はいなかったが、時間の問題であるようにも感じられた。

「みんな、頑張ろう! 僕がペースを作る。次のインターバルでは必ず休憩をもぎ取ろう」

 急に声を出したのは伸吾であった。ここで彼は先頭に立ち、七分半というタイムに合わせてペースを上げた。

「マジか伸吾!?」

「うん、本気だよ。不正をしなければ恐らく次は八分に戻るはず。ここが山場だよ。教官の心象を改善するのなら、ここを乗り越えなくちゃ駄目だ!」

 伸吾の話に全員が頷いている。落第したい生徒など一人もいないのだ。名誉挽回とばかりに頑張るときだと全員が思った。

「頼むぜ伸吾。言いたいことはあるが、ここは全て飲み込んでおこう。必ず全員でクリアしようぜ!」

 怒り心頭の一八であったけれど、伸吾のおかげで冷静になれた。この罰走は試されているのだと思う。ならば一人も欠けることなく走りきるだけだ。


 伸吾を先頭に縦列で走る。先頭が一番キツいのは明らかであったが、彼はペースを維持している。

 ところが、半分をすぎた頃、遂に脱落者が出てしまう。

「あたし、もう無理!」

 莉子が走るのを止めてしまった。疲れ果てていた彼女がこのハイペースについていくのは難しかったようだ。

 後ろを振り返った一八。伸吾は気にすることなく走って行くが、どうしても莉子が気になってしまう。ここで莉子が脱落すれば、恐らく彼女はこの後も脱落し続けるはずだ。重ねられていく罰に体力を失うだけだろう。


「クソッ!」

 突として隊列を乱す一八。この現状はどうにも我慢ならなかった。

「一八!?」

「玲奈、俺に任せろ。必ずゴールするから……」

 一八は玲奈に走れと命じ、莉子のことは心配するなと言った。

「ちょ、カズやん君!?」

「黙ってろ! 舌を噛むぞ!」

 何と一八は同意を得ることなく莉子を担いでいた。そのまま彼は先を行く伸吾たちを追いかけている。

「あたしのことはいいって! どうせ落第生だし!」

「うるせぇ! 勝手に脱落すんな!」

 この行動が教官にどう判断されるかは分からない。コース外に出るだけでなく細かな行動まで把握されているのならば、恐らく一班は再び罰を受けるだろう。しかし、班員に文句は言わせないつもりだ。全ては生駒と今里のせいであり、玲奈たちであれば文句をいうはずもなかったから。

 一八は強い魔力を循環させた。体術魔道はお手のものだ。よって彼には自信があった。莉子を担いだままでもゴールできるはずと。

「ぜってぇ走りきってやる!――――」


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