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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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朝食の席にて

 莉子の話は誰にも理解できない。非常事態だとか高原君だとか。しかしながら、彼女が零月にこだわる理由は別に意地だけではないのだと分かった。

「でもさ、良いこともあったよ。落第したおかげで玲奈ちんと同期になれた。あたしは玲奈ちんの試合を見て感動すらしていたから。いつかチームを組みたいと考えていたし」

「んん? 莉子、やはり貴様は馬鹿なのだな? 恐らくその試合とやらは別人だ。何しろ私は高校三年間において一度も大会に出ていないのだからな」

「いや、どうやったらその認識を覆せるの!? 確かに馬鹿だけど去年のことくらい覚えてるよ! 玲奈ちんは確かに戦ってたじゃん!」

 何を言おうが玲奈は首を振る。高校には剣術部がなかったし、一般の大会だって参加していないのだ。


 ところが、玲奈は知らされている。思わぬところで莉子が見ていたことを。

「高校の体育祭――――」

 そういえばあれは試合形式であった。けれど、高剣連が定めるものとはほど遠いもの。竹刀ではなく鉄刀を使用しただけでなく、魔力も使っていたのだから。

「確かにマスコミが来ていたな。試合が放送されていたのか……」

「でしょ? あたしは馬鹿だけど底抜けじゃない! でも本当に感動したのよ。あの踏み込みの速さ。アレは絶対にヒカリよりも速かった。相手の子が可哀相になるくらいに。彼女はもう剣術を諦めたかもしれないねぇ。あれだけ圧倒されちゃったらさ!」

 莉子は思い返すようにしている。女子寮の自室で観戦しただけだが、彼女は玲奈の戦いぶりに感動したらしい。


「言っておくが相手の子は昨日会っているぞ? 金魚並みの記憶力では思い出せないだろうが……」

「お、覚えてるよ! 今のは冗談だし! 確かポニーテールのメガネっ娘だ!」

「それは貴様の後ろにいた子だろうが! 浅村アカリは一番目にステータスチェックを受けた者だ!」

 言われて莉子はポンと手を叩く。だが、本当に気がついたのかは不明である。

「ああ! めっちゃ腐されてた子だ! 全否定ウケる!」

「少しは言葉を濁せ。否定されてたのは貴様もだろうが! それに浅村アカリは浅村ヒカリの妹だぞ?」

 玲奈の話に目を丸くする莉子。まるで予想していなかったのか、彼女は黙り込んで首を振るだけだ。

「嘘……? あれが……ヒカリの妹……?」

 呆然と莉子が漏らすように言う。自身が知るヒカリは天下無双の剣士。だからこそテレビで見た玲奈の相手がヒカリの妹だとは思えなかった。


「ヒカリならきっと止められたはず! 玲奈ちんの胴一本も凄く速かったけど、ヒカリならきっと止めた! 彼女はヒカリの妹なんでしょ!? どうして反応すらできないのよ!?」

「落ち着け。姉妹とは言え全てが同じではないのだ。容姿だって同一というわけではないだろう? 剣技ならば尚更だ。魔力だって同じというわけではない……」

 玲奈の説明に莉子は再度頭を振っている。ヒカリの妹が落ちこぼれているだなんて考えたくもなかったらしい。


「彼女Bクラスだよね? Aクラスの女子はあたしたちだけだし……」

「まあそういうことだ。もし会うようなことがあっても、浅村大尉の話は絶対にするなよ? 一応はインハイ三連覇を達成した剣士。プライドもあるだろうからな……」

「それなら玲奈ちんのせいじゃん? あの子に妙なプライドを持たせてしまったのは……」

 莉子が返す。どうしてか莉子は玲奈に責任があるという。

「玲奈ちんがインハイに出ていたら彼女は誤解しないじゃん?」

 玲奈は反駁の言葉を探している。けれど、どれだけ思考したとして解答を導けないままだ。

 確かに一理あった。玲奈がインターハイに参加していたならば三連覇は阻止できたと思う。しかし、玲奈にも事情があったのだ。


「それは結果論だ。私は高校の三年間、ずっと魔力強化に取り組んできた。おかげで魔力の伸びしろは十分に残している。どこかの誰かと違ってな!」

「ぐぅ……。玲奈ちんの凄さは既に認めてるよぉ。魔力強化に取り組めるほど剣術を極めていたこと。普通の剣士じゃそこまで手が回らないんだもん……」

「分かればいい。貴様は並の剣士なのだから、身の丈に合った刀を選ぶべきだ」

 今度は直接的に言う。零月を扱うには体格も魔力も足りないのだと。

「玲奈ちん、少しあたしに時間をちょうだいさ。必ず認めさせてあげるから……」

 しかし、莉子は拒否するように返している。信念は曲げるつもりがないらしい。

「まったく。一度、剣を置こうとした者が意地を張るな。まあ貴様がどうしても奈落太刀と使うというのなら私にも考えがある」

「へぇ? 玲奈ちん、あたしを説得できるんだ? どうやるつもり?」

 意外な話だったのか莉子は小首を傾げている。切羽詰まっているというのに莉子は使用武器を変更していない。教官がどれほどキツく言いきかせても無駄であったはず。

「ま、そのときだ。莉子がまた魔力切れを起こしかけたのなら問答無用で私はその手段にでるからな……」

 詳しい説明はなかった。けれど、玲奈を見る限りは自信がありそうである。ふぅんと莉子は分かったように返事をし、ここでこの話題はようやくと終わった。


 少しばかりの沈黙のあと、恵美里が話題を変える。

「しかし、一八さんが次席で玲奈さんが首席とか岸野流は凄いですね?」

 ここ数年、岸野魔道剣術道場は騎士学校の合格者を出していない。けれど、本年度は二人を輩出し、尚且つ首席と次席。注目を浴びないわけがなかった。

「いやいや、恵美里も一席ではないか? 舞子もこのみんもAクラスの上位であるし、カラスマ女子学園のメンバーは優秀すぎる」

「しかし、あたしは未だに玲奈ちゃんの呼び捨てに慣れないなぁ!」

「私もです! 私はあだ名ですけれど……」

 騎士学校に入ってから恵美里だけでなく舞子と小乃美にも敬称をつけるのを止めた。最初は驚いていた二人であるが、同期であることだし新生活でもある。玲奈の変化を好意的に受け止めていた。


「玲奈ちゃんは市外活動を履修した? できたら同じ班になりたいんだけど」

 ここで舞子が聞いた。市外活動とは街壁の外に出ての実習である。全員必修の広域実習とは異なり、オオサカ市に近い街道の魔物駆除が目的という内容だった。

「もちろん履修したぞ。班に関してはどうなるのだろうな?」

「玲奈ちん、市外活動の班は生徒が自由に決められるよ。あたしも玲奈ちんと一緒がいいな。落第生だし確実にボッチになる」

 ここに集う者は全員がAクラスであり、剣術科に至っては一席から四席までが揃っている。純粋な実技評価であったから、どのような組み合わせになろうとも魔術科にとっては有り難い話だ。


「じゃあさ、一八君と伸吾君が組むの?」

 舞子が追加的に聞く。ここにいる剣術科は四人。玲奈と莉子が組むというのなら、男子のペアは自然とその二人になるはず。

「舞子さん、俺は市外活動を取ってねぇんす……」

 意外な話になっていく。一八は実技でアピールするものだと全員が思っていた。だからこそ実地科目は全て履修しているものと考えていたのに。

「奥田君は必修以外の実地科目をほとんど履修していないんだよ。ほぼ座学だね」

 一八に代わって伸吾が答えている。覗き見たままを口にしていた。

「市外活動の裏に基礎魔道って科目があったんだよ。俺は魔道を学ぼうと思う」

 一八が履修理由を話すと女子たちは一斉に声を上げる。よりによって基礎魔道だなんてと。

「カズやん君、候補生にもなって今さら基礎魔道? ウケる!」

「誰がカズやん君だ……。俺は少しも魔道について学んでいないからな。この一年で人並みに操れるようになりたいだけだ」

 茶化すような莉子に一八は真面目に返している。とはいえ基礎魔道。あらゆる科目の中で一番人気のない選択科目であった。一八のように力押しで入学に漕ぎ着ける生徒は非常に少ない。だが、そういった生徒のために基礎魔道がある。全ての分野において基礎から学べる科目が用意されていた。


「一八さんの意識の高さ。わたくしは尊敬致します。全てを魔道科に任せるなんて騎士様もいらっしゃいますけれど、基礎的なことができるできないは必要かと存じます」

「私も恵美里と同意見だ。一八にしては良い判断だと思う。今さら貴様が街道に行ったとして敵う魔物などいないしな」

 恵美里が同意するや玲奈も一八の選択を評価している。長所を伸ばしていくのも手であるが、弱点を強化するというのもまた成長に違いないと。


「サンキュー。実技もやんなきゃなんねぇんだが、学科はどれも必要な気がしてな。まるで時間が足りねぇよ」

 騎士とは士官として配備される者の総称。王国の名残であるそれは今も昔も強者の称号であった。

 騎士学校に合格するだけでは候補生のままだ。騎士となれて始めて一八の努力は報われる。落第しないためにも弱点である学科の底上げが急務であった。


「では伸吾、悪いが貴様は私の友人たちと組んで欲しい。彼女たちは実地などで失われてはいけない。腕が立つ者が一緒であれば安心だ」

 概ね班は六人編成である。前衛士二人に後衛士四人。支援科は一人の場合もよくあるのだが、守護兵団が定める規定では六人であった。

「まあ構わないよ。かといって僕は別に強者でもないけどね。岸野さんのように技術もなければ、奥田君のように圧倒するパワーもないから」

 またもはぐらかすような伸吾。類い希な適性を持つ彼だが、自身の能力を否定するような話をした。


「伸吾よ、自分を卑下するな。教官の目は誤魔化せんよ。今回のランク付けは明らかに戦闘力順。どうしようもない馬鹿である一八と莉子が上位であるのがその理由だ!」

「玲奈ちんは本当に酷いよね?」

 ここで笑い声が巻き起こる。玲奈としてはオチをつけたわけでもなかったが、魔道科の三人には冗談にしか聞こえない。


「ま、必修科目の広域実習は同じクラスから選ばれるんだろ? ここにいる全員がAクラスであり続ければ、そのうち班を組むことだってあるさ」

 意外にも一八は科目の内容を把握しているようだ。欄外にあるような文言まで彼は調べていたらしい。

 それは全て人生経験に基づいていた。やるべきことをやっておかないと絶対に後悔する。身を以て知らされていた一八は履修表ですら真面目に考えていたのだ。


「では授業へと行こうか。皆の衆!」

 玲奈の号令により全員が立ち上がった。七人全員がやる気に満ちている。ずっと目指していた騎士学校の授業初日。張り切らないはずはない。候補生から騎士へとなれるように彼らは研鑽し続けるはずだ……。

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