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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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アネヤコウジ武道学館 生徒会役員室にて

 同刻、アネヤコウジ武道学館。生徒会役員室とのプレートが貼り付けられた一室に五人の男子生徒が集まっていた。


「お前ら、生徒会長の俺よりも遅く来るとは良い度胸だな?」

 部屋の一番奥に腰掛けるのは一八である。凄むような彼は遅れて集まった役員たちを睨むようにしていた。


「待ってください! 奥田会長が真面目に出席されるとは思わなかったのです!」

 概ね生徒たちは一八を恐れていた。一年生からずっと全国一位。高校柔術界の頂点に立つ彼は畏怖されている。


「俺はこう見えて決まり事には真面目に取り組むんだよ……。俺を待たせた罪は重いぞ?」

 基本的に役員たちは強制的に決められていた。だからこそやる気がない。誰もが適当にしようと考えていたのだ。


「さ、早速始めましょうか! あとで奥田会長には全員で何か奢りますので!」

 副会長の滝井が宥めるように話す。彼は生徒会唯一の救いである。本来なら彼が生徒会長をすべきであるが、強さこそが正義である武道学館において頭脳派の彼が取り纏めるのは不可能だ。従って教員たちは一八を生徒会長とし滝井を補佐としてつけることにした。


「まったく。どいつもこいつも使えねぇな……。まあいい。今日は理事会から伝達事項がある。生徒会で話し合えとのことだ……」

 言って一八が面倒臭そうに話す。春休み期間中に資料を受け取っていたものの、本日になるまで開封すらせず今に至っている。全員が揃うまでに軽く目を通した一八。内容は生徒会長になったことを後悔するに十分なものであった。


「会長、私も目を通したのですが、これは本当ですか?」

 滝井が聞く。アネヤコウジ武道学館にて滝井は学年トップの学力である。その辺りは一八も当てにしているところだった。


「俺だってさっき見たばかりだ。まあこんな資料を作成するくらいだ。笑えねぇ冗談であるはずがない……」

 一八は嘆息する。通達自体は歓迎すべき内容であったものの、船頭となって主導していくのには不満しかない。


「奥田さん、一体どんな通達なんですか!?」

 役員の一人である野江が興味津々に尋ねた。理事会からの通達だなんて、ただならぬこと。さりとて野江を初めとした役員たちは完全に面白がっている。


 小さく溜め息を吐いたあと一八が語り出す。一般役員たちが大騒ぎするのは目に見えていたし、役員たちが素直に動いてくれるとも思えない。面倒な話は口ぶりを重くするだけであった。

「平たく言えばカラスマ女子との合併だ……」

 隠す必要もない一八は長い息と共に通達内容を告げた。

 ほんの一瞬、静寂に満ちたあと予想通りに役員たちが騒ぎ出す。


「うおお! マジッすか!? カラスマ女子とお近づきになれるんすね!」

「馬鹿か。本格的な合併は来年度からだ。三年生である俺たちはその準備をさせられるだけ。旨みなどないと考えておけ……」

 一八の話に一転して役員たちは不満を口にする。やれ二学期からにしろだとか、やれ中止にすべきだとか。


「黙れ。俺だって天国へ登りかけたところで地獄に突き落とされたんだぞ? やる気なんて起きるはずがねぇ。ようやくモテ人生が始まるとか思ったのによ……」

「奥田会長、ということはやはり今年一年は男子校のままなのでしょうか?」

 滝井の問いには小さく頷きがあった。刹那に悲嘆の叫びが木霊したのは至極当然である。何しろ役員は全員が三年生。在校生のために働くだけだなんて受け入れられることではない。


「まあそうなる。来年度からは武術科となるらしい。通達書にあることだが、今回の件はお前たちが馬鹿すぎるのが原因。長い歴史において一人も騎士学校に合格していないんだぞ? キョウト会は二校を合併し、俺たちの学力を底上げするつもりだ……」

 武道成績においてはキンキ共和国広しといえど武道学館ほど多くの大会で優勝している学校はなかった。けれど、その偉業が霞むほどに学力は低い。それこそ下から数えた方が早いくらいである。


「でも奥田さん、合併したとして学力なんて上がりますか? 受験の段階で俺たちはここしか受からないものばかりですよ?」

「まあそれな……。どうやらキョウト会は俺たち在校生にこれっぽっちも期待しちゃいねぇ。もし仮にカラスマ女子と合併してみろ? 来年度の入学希望者はどうなると思う?」


 一八なりに予想していた。通達は今在籍する生徒たちに期待したものではないのだと。これから先に入学してくるだろう生徒たち。競争が激化すれば自ずとレベルが上がる。今まで合格していたような輩では到底入学できないほどに。


「確かにウチは名前が書けたら合格できるようなレベルですし……」

「そういうことだ。同じ授業を受けたとして、お前たちのレベルが上がるはずもない。クソ馬鹿であるお前たちのせいだぞ?」

「奥田さんも大して……」

「ああっ!?」

 即座に凄まれ野江は震え上がった。柔術部の主将でもある一八のしごきは他の部活に所属しているものにも有名なのだ。ひとたび彼を怒らせてしまえば血反吐を吐くまで乱取りの相手をさせられてしまう。


「大変です! 奥田会長!」

 一触即発の雰囲気に満ちていた生徒会役員室。しかし、唐突に扉が開かれ充満していた緊張は一度に解かれている。


「どうした、土居? 藪から棒に……」

 部屋に飛び込んできた男は武術的な素養も学力もない使いっ走りの土居である。彼もまた生徒会役員であったものの、会議で飲むジュースを買いに行けと命令されていた。

 息を切らせて駆け込んだ土居は床へと倒れ込むようにしている。


「とんでもなく凶暴な奴が校内に侵入してきました! 何とかしてください、奥田さん!」

「まあ落ち着け……。侵入したのは魔物か?」

 取り乱した感じの土居を落ち着かせ、一八は事の詳細を聞く。街中に魔物が現れるなんてことは非常に稀であったのだが、飛来型の魔物であれば年に何度かある。だからこそ自分が対処すべき問題かどうかを聞く必要があった。


「魔物ではありません。暴れてるのは三人……いえ一人です……。女なのですが竹刀を持っていて、既に五十人以上が返り討ちに遭っております……」

 一八は瞬時に理解していた。侵入者と聞いて嫌な予感は間違いなくあったけれど、その報告を聞いた彼にはもう疑いなどなくなっている。


「そいつはお前らが敵う相手じゃねぇ。ここに連れてこい。いいか、土居? 間違っても視線を合わすな。何も喋るな。隙を見せたら殺されると思え……」

 ひゃいっと震え上がりながら返事をする土居。彼自身も女の強さを目撃しており、殺されるとの話はあながち誇張でもないように思えている。


 一八は深い溜め息をついていた。使いっ走りの土居が部屋を出てから五分あまりが経過していたのに、会議を進めるどころか集中を欠いている。確実に面倒事である予定が組み込まれてしまっては頭が回らない。

 焦れったさを覚えながら待つこと数分。ようやく扉がノックされたことで一八は苛々から解放されていた。

「ああ、開いている……」

 ガチャリと扉が開き、真っ先に姿を見せたのは予想通りの人物だった。勝ち誇ったように堂々と腕を組み、したり顔をして一八を見ている。


「よう、玲奈……」

「ああ一八、久しぶりだな! 今朝ぶりというか!」

 侵入してきた女とは、やはり玲奈であった。竹刀を肩に置き仁王立ちの玲奈を見ては溜め息しかでない。


「何のようだ、玲奈? カチコミとかいい加減にしろよ?」

「何のようもクソもあるか! 普通に校門から入ったら絡まれたのだ! 全員返り討ちにしてやったがな!」

 フハハハと玲奈の高笑いが役員室に響く。これには居合わせた全員が戸惑いを隠せない。

 また玲奈の話は一八が聞いていたものと少し違っている。武道学館の生徒から手を出したという報告は聞いていないのだ。瞬時に一八は鋭い目をして土居を睨み付けた。


「奥田さん、確かにウチの生徒から手を出しましたが、こいつは殺気を滾らせて俺らを睨んでいたんですよ! 血の気の多いやつらは全員……」

「ああ、もういい! 全て理解した!」

 机をバシンと叩いて土居の言い訳を遮る。どうしたものかと頭を悩ませていると、玲奈の背後から別の女性が顔を出した。


「貴方様が奥田生徒会長でしょうか? わたくしカラスマ女子学園の生徒会長をしております七条恵美里と申します……」

 とても割り込める雰囲気ではなかっただろうに、事もなげに恵美里は自己紹介を済ませている。

 思わぬ来訪者に一八は少し緊張していた。公立の中学を卒業してからというもの、玲奈以外の女子と顔を合わせて話をする機会が一度もなかったのだ。モテモテになりたいという前世の願望とは裏腹に。


「お……奥田です。ウチの生徒が失礼しました。よく言って聞かせますので、どうか穏便な対応を願います」

「ああ、ご心配なく。どちらかと言えば、玲奈さんの件をご容赦願えますでしょうか? 彼女も悪気はありませんので……」

 何だか脈がありそうと一八は思った。それは慣れぬ女性との会話による完全な誤解であったものの、合致した意見は何やらときめきを予感させてしまう。


「恵美里殿下、私は悪くないですって!」

 玲奈の何気ない一言によって一八は脳内お花畑から帰還する。それは聞き覚えのある呼び名だ。ふと心の内に眠る記憶が掘り返されていた。


「――恵美里殿下?」

 記憶と微妙に重なる名前だ。また、よく見ると恵美里は知っている者に酷似していた。

 だが、今世ではない。その記憶は前世のもの。激しい風雨にもかかわらず一八は獲物として狙いを定めていたはず。加えて中学時代から急に玲奈が殿下と口にし始めたこと。お嬢様学校でどんな出会いがあったのかと一八は気になっていたのだ。


 眉根を寄せ考え巡らせる。玲奈が殿下と呼び慕う彼女。加えて覚えのある容姿に解答は必然と絞られていく。


「おい、玲奈……」

 まさかと思い確認を取る。ボソボソとしばし二人して密談をかわす。その結果……。

「うむ、貴様にしては頭を働かせたな! まず間違いなくその通りだと考えている!」

 告げられた話に一八は嘆息する。確かに魂はチキュウ世界へ行くことが決まっていると聞いた。だからこそ疑いが持てない。


 彼女は人族を率いた姫君の生まれ変わり。自身が攻め込んだせいで失われた者だ。

 罪悪感から踏み込めそうにもない。どれほど話が合おうと幾ら美人であろうとも、彼女を見るたび前世を思い出してしまいそうな気がする。


 つまるところ一八の短すぎる恋は終わった――――。

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