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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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試験の裏側

 時を遡ること一ヶ月。玲奈と一八が二日間に亘る試験を終えたあとのこと。

 騎士学校に隣接するキンキ共和国オオサカ本部の一室にて騎士学校関係者並びに試験官を務めた尉官たちが集まっていた。


「試験官を務められました方々には厚くお礼申し上げます。それでは夕食を取りながら、恒例の推薦審査会を開催いたします」

 学長である九頭葉くずは曹長の挨拶にて懇親会の意味合いも持つ推薦者選定会が始まろうとしていた。


 テーブルにはオオサカ市が誇る老舗旅館の豪華な料理が並んでいる。また酒も用意されており、任務というよりは寧ろ歓談に近いものであるようだ。

「まずは剣術科のAブロックからお願いいたします」

 乾杯のあと九頭葉が言った。各々が食事をする間に一人ずつ尋ねる形式である。

 推薦は実技を担当した試験官が担当ブロックの優秀者を挙げるというものであった。名を呼ばれた受験生は大きなアドバンテージを得ることになる。かといって、これは形骸化しているも同然であった。名を呼ばれるような受験生は基本的に座学も優秀であって、指名によって番狂わせが起きることなどなかったのだ。


 淡々と過ぎていく。AブロックからDブロックまで。名前が挙がった受験生は例によって例のごとく筆記面も優秀な剣士ばかりのよう。

「それではEブロックの浅村大尉、お願いいたします」

 ここでヒカリの番になった。彼女の担当したEブロックは全六ブロックの中でも最短で試験が終わっている。他の半分にも満たない時間で終了となっていた。


 箸を置いたヒカリ。少しも考えることなく推薦者の名を告げる。


「私は奥田一八だ――――」


 ここで初めて場がざわめいた。それもそのはず彼女が推薦したのはFブロックの受験生であったからだ。

「あ、浅村大尉、本当に彼で構わないのでしょうか?」

「問題でもあるのか? 私は担当した中から優秀な剣士の名を挙げただけだが?」

「いやしかし、浅村大尉の担当はEブロックですが……」

 慣例とは異なる指名に九頭葉が困惑している。担当ブロックではない受験生の指名など過去には一度もなかったのだ。


「奥田一八は私が試験官を担当した。だから推薦したまでだ……」

 ヒカリは毅然と答えている。無理矢理に割り込んだことは気にすることなく堂々と推薦を終えていた。

「ですが、奥田一八は緊急搬送されて入院したと聞いています。剣士として復帰できるかどうかも……」

「あの男はあれくらい平気だ。九頭葉曹長、まるで心配無用だよ。エンペラーと戦ったあとの奥田一八を貴殿に見せてやりたいくらいだ。体力も魔力も精神力すらも尽き果てた状態。意識を保つのも困難な状況で貴様は剣が振れるか? それも災厄級を相手にしてだ。仲間は一人もいない。孤立無援の中で逃げだそうとせず、一心不乱に剣を振れるか?」

 ヒカリの話には無言で首を振る九頭葉。体力と魔力を失った時点で剣士は詰む。攻撃の手段を完全に失ってしまうからだ。精神力さえも尽きる状況なんて、経験者はごく少数であろう。


「確かに奥田一八は剣術において優秀です。しかし、彼の母校は正直に評判が悪い。一般兵に多く卒業者がいますけれど、問題を起こす者が大多数です。彼にもあまり期待はできないかと……」

「九頭葉曹長、それでは何のための推薦審査会だ?」

 ヒカリが聞く。座談会でしかないのなら意味はないといった風に。

「貴様らが素行や学力を必要以上に重要視するから、前線では多くが失われるのだ。多少の問題は目を瞑るための審査会だろう? だからこそ私は奥田一八を指名する。彼を落としてはならない」

 強く芯の通った推薦であった。体裁など関係なく優れた剣士を彼女は指名している。

「この先に何があるかは分からない。彼が厄介な問題を起こすこともあるかもしれない。しかし、そんなものは相殺して余りあるだろう」

 饒舌に語るヒカリ。彼女は明確な推薦理由を持っていた。


「奥田一八には大勢を救う力がある――――」

 この話には誰も反論できない。幾ら筆記試験が高得点であったとして、人の命は救えないのだから。

「現場が欲しているのは頭でっかちな奴じゃない。寧ろ頭は空っぽでいい。本能だけで剣を振れる者だ……」

 結局、Eブロックから推薦者は生まれなかった。誰も反駁を唱えられずにヒカリの意見が採用されている。


 かつてない審査会であったが、参加者たちは初めからヒカリが決めていたとしか思えない。試験官に割って入った瞬間から、彼を推薦しようと決めていたのだと……。

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