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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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試験のあと

 一八が意識を戻したのは暗くなってからだった……。

 腹部に激痛を覚え、彼は目を覚ましてしまったらしい。どうやら痛み止めが切れたようである。

「痛ぇ……」

 ふと思い出す。試験の途中であったこと。浅村ヒカリと一戦交えていたこと。そして最後に腹を切り裂かれたことを。

 最後の記憶から自身が緊急入院したのは明らかであった。


「気が付いたか、一八……」

 一人きりかと思えば薄暗い病室に玲奈がいた。

 両親はまだ来ていないようだ。試験からずっと彼女が付き添ってくれたらしい。


「玲奈、試験はどうなった……?」

 恐る恐る聞く。筆記試験では点数を期待できない。一八は実技試験で圧倒する必要があったのだ。

「あん? 聞くまでもないだろう?」

 玲奈の話に一八は嘆息する。浅村ヒカリに負けたのだ。決定的ともいえる致命傷を受けた自分が評価に値するとは思えない。


「貴様が落ちるのなら合格者などいない――――」

 玲奈が続けた話は何だか予想と異なる。玲奈は期待感を持たせるような内容を口にしたのだ。

「俺は……負けたんだぜ?」

 言い訳できない完璧な一本をもらった。魔力は限界に近かったけれど、防御魔法をしっかりと使えてさえいたら、入院なんてことにはならなかったはずだ。

「貴様は馬鹿か?」

 慰めの言葉どころか一八は罵られてしまう。一八は何も間違ったことを口にしていないというのに。


「浅村ヒカリ大尉と対戦して十秒持ち堪えた受験生はいない。貴様は三十分と戦っていたのだ。属性攻撃を繰り出させるほど、彼女を追い込んでいた。最後の一撃は彼女の代名詞である『雪花斬』。エンペラーの胴体を斬り裂いたスキルだ。よもや対人戦で見られるとは思いもしなかったぞ……」

 玲奈は理由を語る。幼き日に見た浅村ヒカリの試合はいずれも一瞬でケリがついていた。玲奈自身、浅村ヒカリの全力を初めて見たような気がしている。

「たとえ筆記が0点であっても貴様は合格するだろう……」

 玲奈が続けたのは一八の試験結果について。玲奈の予想では一八が不合格になる未来などないという。


「マジか……?」

「恐らく大尉がしゃしゃり出た時点で合格だろう。試験官には推薦権があるし、一八は浅村大尉に気に入られたと考えるべき」

 ここでようやく一八はふぅっと息を吐く。全ては玲奈の憶測だが、胸のつかえが下りている。師匠である武士に良い報告ができるのではないかと。


「やったぜ……」

 意図せず涙が流れた。このような感情を一八は知らない。初めて全国大会で優勝したときにも涙は出なかったし、幼少期に負けた時にも涙などでなかったというのに。

「ちくしょう……。止まらねぇ……」

 玲奈は一八の涙に成長を見ていた。しかし、それは剣術どうこうという話ではない。人間的な成長を確かに覚えている。


「玲奈、俺は別に腹が痛いんじゃねぇぞ?」

 瞼を擦りながら一八が言った。涙の理由は判然としなかったから、痛みによるものではないと伝えている。

「一八、その涙を忘れるなよ? それは人が何かを成したときにのみ流れるものだ……」

 玲奈が涙のわけを口にする。分かりかねている一八が理解できるようにと。


「人は費やした努力が報われた時、涙を流れすものだ。それが途方もないものであればあるほど溢れ出してしまう……」

 その言葉を聞いた瞬間、止めどなく涙が溢れた。泣くつもりなどなかったというのに、感情を揺さぶるその話に一八の涙は流れ続ける。


 そんなとき病室の扉がノックされた。どうやら一八の両親が病院に到着したらしい。

「さて、私はこれで失礼する。殿下が待ってくれているのでな。あとは三六殿と清美殿に任せるとしよう」

 手を挙げて部屋を去る玲奈。あっさりとしたところは昔も今も変わらない。割と感動的な会話であったはずが、引き摺ることなく背を向けてしまう。


「おい玲奈……」

 涙を拭う一八は彼女を呼び止める。家は隣同士であるから、別に急ぐ話もなかったというのに。

「天軍を全滅させっぞ……」

 それは一八の新しい目標であった。せっかく人生が好転しているのだ。天界で聞いた話が事実であれば、猶予はさほどもない。戦う立場が手に入るのであれば、一八はそれに抗おうと思う。


 ピタリと立ち止まった玲奈は一八を振り返る。心なしその表情は笑っているかのようであった。

「当然だろう? 貴様には期待している……」

 再び手を挙げて歩き出す玲奈。元より彼女はそのつもりである。転生から二十年以内に共和国が窮地に陥ることは玲奈も聞かされていたことなのだから。


 三六と清美が入室してくると三人は軽い挨拶をしている。一八はそれを眺めるだけ。自分との会話には見せないような所作の数々。明らかに猫かぶっているのだが、一見すると良いところのお嬢様であるかのよう。とても町道場の一人娘には見えなかった。


 一八は思わず笑ってしまう。しかしながら、傷口が痛んだ。かといって悪くはない感じである。人生のリスタートを明確に印象付けられたのだ。この痛みを忘れぬ限り、一八は新たな目標に邁進していけるだろう。

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