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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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F組の試験官

 玲奈がスタンドに着席して三十分。彼女はあり得ない光景を目にしている。

 さりとて、それは自身が試験を受けたF組ではない。その隣のE組が異常事態となっていたのだ。

「もう二十人目……」

 明らかに進行が早かった。他がまだ十人未満であったというのに、E組は既に二十人目に突入している。


 それは全て試験官が原因であった。受験生たちの見せ場など気にする様子もなく、浅村ヒカリが圧倒していたのだ。

「マズいな……」

 玲奈は危惧していた。E組には来田がいる。始めから受かるはずもなかったのだが、それでも努力の成果を発揮してもらいたかった。けれど、浅村ヒカリが相手では五秒と立っていられないだろう。


「次! E21来田一郎、かかってこい!」

 ヒカリの大きな声が響いている。残念ながら試験官の交代はないようで、そのまま浅村ヒカリが試験官となるようだ。

 玲奈は祈っている。ここまで全員が初太刀にて剣を飛ばされていたのだ。何としても一撃くらいは耐えてもらいたかった。


 来田が礼をして剣を構えた。その表情は強ばっていたけれど、彼は打たれるよりも前に剣を振り上げている。

 だが、刹那に来田の手から剣が零れ墜ちた。それはカランと地面に転がり、来田は徐に膝をついてしまう。


 振り下ろす間もなく、来田は胴に一撃をもらっていた。防具を身につけていたというのに、身体の芯まで威力が届く。更には殆ど魔力が込められていなかったけれど、来田は悶絶し、その場にうずくまっている。

「担架いそげ! 次、E22……」

 その他大勢と同じ括りである。何の抵抗もできないまま来田の試験は終わった。


 担架により試験場外へと運ばれた来田であるが、程なく立ち上がっていた。未熟ながら防御魔法も習得したのだ。身体へのダメージは深刻なものではないようである。

 礼をしてその場を去る来田を玲奈は見つめていた。落胆しているのが遠目にも分かる。不甲斐ない負け方なのだ。何度も顔を振る来田を玲奈は見ていられなかった。


 呆然と歩いていた来田。しかし、スタンドに玲奈の姿を見つけるや、彼はぎこちない笑顔を向ける。加えて帰宅することなく、彼もまたスタンドへとやって来た。

「玲奈さん、駄目でした……」

 この状況は玲奈が危ぶんだ通りである。努力が必ず実を結ぶなんて話は理想論だ。現実は幾ら努力しようとも成功を手にする者は少ない。ほんの一握りの人間だけが努力を結果に転換できるのだから。


「いや、駄目じゃない……。良くやった……」

 宥めるつもりなのか、玲奈はそんな風に返す。ただし、来田は不満げである。彼にも玲奈の意図が良く分かったからだ。

「何がです? 私は剣を振り下ろすことすらできなかったんですよ? 慰めならば必要ありません」

「いやそうじゃない。恐らく貴様は審査員にも評価されている」

 即座に来田が返すも玲奈は首を振った。口にしたのは嘘などではなく本心であるのだと。


「貴様は一歩だけでも踏み込めただろ? 振り下ろせはしなかったが、事実として浅村大尉の先を取った。結果は単に実力差。他の受験生を見てみろ? 萎縮する者や間合いを計れぬ者。攻めの態勢にすらなっていない。恐らくE組では貴様が一番評価されているだろう」

 来田はゴクリと唾を呑んでいた。玲奈の話は推論でしかなかったが、確かに他の受験生は攻撃の隙すら与えられていない。完膚なきまでに叩きのめされるだけであった。


「まあしかし、期待はするな。筆記試験の成績が群を抜いて良かっただなんて話でもなければ、合格にはならん。貴様は振り上げただけであって、間合いは完全に浅村大尉のものであったからな」

 もしかしてと淡い期待感を抱いた来田だが、即座に否定されてしまう。良くやったと評価されたとしても、それはE組内での話だ。試験官に勝ってしまった玲奈とは異なる。


「E組から受かろうと思えば、最低でも自分の間合いで振り切ること。筆記試験が人並み以上であるのなら、それさえできれば合格するだろう」

 玲奈は合格基準を口にした。もちろん来田はそのラインに達していない。

 頭を下げる来田。どうやら玲奈と共に観戦するつもりはないようだ。


「待て雷神……」

 去って行く来田を玲奈は呼び止める。来田としてはもう話すことなどなかったけれど、玲奈にはまだ伝えることがあったのだ。

「色々とすまなかった。謝罪させて欲しい。私は貴様がやる気を失わぬようにと嘘を言っていたのだ。良かれと思いついた嘘だが、どうやらそれは間違っていたらしい」

 言い訳染みた話である。一八と恵美里に言われて知らされていた。彼女の嘘は傷つけるだけ。何のプラスにもならないのだと。


「もうそれくらいにしてください。ちゃんと分かっていますよ。踊らされた私が悪いのですから……」

 玲奈としてはケジメをつけたかった。嘘をついて彼を煽ったのだ。その責任は最後の言葉を告げない限り果たせないと思う。


「雷神、私は……」

「玲奈さん、聞いてください!」

 玲奈の言葉を遮るように来田が言った。早く楽になりたかった玲奈だが、来田はそれを許さない。

「私は働きつつ稽古を続けます。勉強だって頑張るつもりです。受験資格がなくなる二十二歳までに合格したい」

 意外にも来田は剣術を続けるつもりらしい。またそれは間違いなく玲奈を諦めないという話であった。


「いやしかし、雷神……」

「玲奈さんには関係のないことです! 私は私の意志で以て努力するだけ。理想を追い求めるだけなのです。それとも玲奈さんは私が個人的な目標を立てるのすら駄目だと仰るのですか?」

 どうしても来田は最後の言葉を聞きたくなかった。一年頑張ったのだ。ここで諦めてしまっては全てが無駄となる。だからこそ引き下がれない。努力を続けることでのみ可能性の糸を紡ぐことができるのだと。


 一方的に聞かされるだけの玲奈。かといってもう口を挟む気にはなれない。彼が自分の意志で頑張ろうとしているのだ。玲奈の気持ちは察しているだろうし、それを諦めさせるなんて彼女にはできなかった。


「そうか……。なら努力しろ。四年あるとはいえ簡単なことではないぞ?」

 終止符を打つ台詞を回避した来田は笑顔を作って去って行く。何もできなかった試験を踏まえて彼は今後も努力していくだろう。

 剣士としての極み。来田はこれまで以上に騎士学校への入学を強く望んでいた……。


 しばらくは来田を見送るようにしていた玲奈だが、なぜか試験場が騒々しいと気付く。

 振り向くや、どうしてかF組の試験場に浅村ヒカリがいた。何が起きたのかまるで分からない。予想できるのは既にE組の試験が終わったということ。E組の試験場には既に誰もいなくなっていたのだから。


「一八……?」

 浅村ヒカリに近寄る大きな背中。八尺もある奈落太刀を抜く男はまさしく一八であった。

「そんな馬鹿な……」

 一騒動起きているのは間違いない。また状況からある程度は察知できた。

 次が一八の番であること。加えて自身が担当する組が終わり、浅村ヒカリが何らかの口出しを始めたこと。この状況には嫌な予感しか思い浮かばない。


「まさか……」

 F組試験官の大原と小泉が浅村ヒカリと言い争う理由。よくよく考えると一つの解答にしか結びつかない。


「一八の相手は……」

 どう考えてもヒカリがしゃしゃり出たのだと思う。過去に稽古をつけたこともある彼女が一八の成長を確かめようとしていても不思議ではなかった。


 玲奈は起こり得る事態を予測している。

 試験官としては一番階級が高いヒカリ。彼女が命令したならば、試験官など簡単に交代してしまうだろうと。また同時に一八が合格する目は限りなくゼロに近付いたということを……。

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