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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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最後の言葉

 懸案事項であった体育祭もつつがなく終わり、生徒たちは受験に向けて邁進するだけとなっていた。

 二学期も残すところあと一週間。来年度の生徒会選挙も終わり、いよいよ大詰めを迎えている。


 一八は早朝から武士の指導を受けていた。例の一件以降は連日に亘ってマスコミが張り込んでいたけれど、その熱も喉元を過ぎたのか、道場は日常を取り戻している。

「一八、あと二週間しかないんだぞ! もっと気合いを入れろ!」

 熱心な指導が続いていた。同じ受験生である来田に構うことなく、武士は一八に付きっきりだ。このことからも来田の合否は明らかであり、本人も薄々と感付いている。


 一応は来田も初段を取り、加えて教員に頼み込んで推薦をもらった。しかし、それだけである。関係者は全員が記念受験的な意味合いとしか考えていない。

「雷神、気を抜くな! もっと心を込めて振れ!」

 武士が相手をしないからか、玲奈がその都度指示を出していた。かといって玲奈にも限定的な未来が見えている。


「玲奈さん、ちょっと休みます……」

 どれだけ努力しようとも追いつける気がしない。一八でさえ受かるか分からぬ騎士学校に、自分が合格するなんて来田には考えられなかった。

「雷神、貴様は合格する気があるのか?」

 溜まらず玲奈が聞いた。来田は十分に頑張っていたけれど、それは一般の門下生と比べた場合だ。仮にも騎士学校を受けるというのだから休んでいる暇はない。


「キョウト市主催の大会で五位になったおかげか、どうにか推薦してもらえました。ですが私は合格できるのでしょうか?」

 玲奈の問いには質問返しがある。徒労とも考えてしまう毎日の稽古に溜め息さえ漏れていた。

「なあ雷神、推薦してもらえただけでも凄いことなんだぞ? 貴様は一つしかないチャンスを掴んだ。最後の昇段試験で初段を取り、その後の大会で五位になった。貴様が推薦をもらえるとしたらそのルートしかなかったんだ。合否は考えるな。雷神は十分にやったと思う」

「玲奈さん、私の名は来田です……。雷神などではありません」

 玲奈の宥めるような話に思わぬ返しがあった。玲奈は出会ってからずっと雷神と呼んでいたというのに、今さらになって訂正を促されている。


「私にはあと二週間を頑張りきる報酬が必要。できれば約束してもらいたいのです」

 どうしてか来田の要求が続く。玲奈に何を求めるつもりだろうか。

 来田は玲奈と視線を合わせ、冗談とは思えぬ厳しい表情をした。

「玲奈さん、私が合格したならば、私の話をちゃんと聞いていただきたい」

 来田の話は容易に察せられるものであった。何度も向けられた感情の答え。彼がそれをやる気に繋げたいとしているのは明らかだ。


「それくらいでやめておけ。受験前にフラれたいのか?」

 玲奈が返す。またそれは予想できる中で最も確率が高いものであった。しかし、来田は引き下がらない。

「区切りは必要でしょう? それとも今ここでやる気を挫くつもりですか?」

「ふん、言ったはずだ。私は弱い者には興味がないと。稽古くらいで音を上げる弱者など知らん」

 身も蓋もない話である。来田はやる気の充填を試みたけれど、その姿勢は玲奈の反感を買うだけだ。逆効果でしかなかった。


「やはり私は最後まで完走するしかないのですね?」

「私に聞くな。強い男は力尽くでも女を手に入れる。貴様は弱いんだ……」

 来田は門下生であるし、玲奈としては対処に難しい問題だ。けれど、彼女は一定の未来しか想像できない返答を終えてしまう。


「貴様は弱いんだよ、()()――――」


 来田は言葉を失っている。決して明確な返答ではないけれど、解答に導くのは容易だった。玲奈はこっぴどく振る代わりとして言葉を選んでいる。


 深い溜め息が道場に漏れた。一年近く努力してきた来田の目標はここで潰えている。

 だが、次の瞬間には立ち上がる来田。彼は課せられた素振りを再び始めていた。

「それでいい。一応は伝えておこう。私はあと数年は誰とも付き合わん。それだけは決めているのだ。回り道するにせよ追いかけてみろ。四年後だって私は今のままかもしれない」

 ここで少しばかり燃料を充填してやる。彼が四年後も受験できるようにと。

 二人の様子を一八は横目で見ていた。武士にその都度怒られていたけれど、どうにも二人の会話が気になってしまったから。


 玲奈の受け答えから来田がもらう返事は一つしかないはずだ。しかし、一八は来田のことよりも玲奈を心配してしまう。女神マナリスの話を真に受け、彼女が人生を無駄にしているのではないかと。人族のために人としての営みを放棄している気がして。


 一八は人知れず溜め息を漏らすのだった……。

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