実行委員テント内にて
二人三脚を終えた一八はニヤけ顔のままテントへ戻ってきた。と同時に放送が流れ、彼はここで初めてプログラムの変更を知る。
「七条会長、マジっすか?」
「ああ奥田会長、お疲れさまです。模擬戦でしたら勝手ながら許可させていただきました。そこの浅村大尉が提案してくださいましたので……」
それは構いませんがと一八。とはいえ恵美里の奥で仁王立ちしているヒカリに睨みを利かす。
「おいババァ、どうなっても俺は知らんぞ?」
「奥田一八、君はどうして美しいお姉さんといえんのだ? 照れ隠しか?」
「るせぇよ。女子免疫はたった今つけてきたところだ。てか、そんなこたぁどうでもいいんだよ。お前が玲奈を焚き付けたんだろう? たぶんこの対戦は色々と問題になるぞ?」
一八は案じている。予定になかった模擬戦。因縁めいた二人の戦いを。
「確かに、もしも岸野玲奈が怪我を負ったならば、私は処罰されるかもしれない。けれど、彼女はオークの軍勢を相手に戦った猛者だぞ? 相手がアカリであろうが、必ずや上手く立ち回るだろう。君の杞憂だよ……」
「ちげぇよ。俺が心配してんのはそんなことじゃねぇ……」
一八は首を振った。如何にもヒカリが間違っているといった風に。
「玲奈が圧倒しちまう――――」
予想していなかったのか、ヒカリは驚いた顔をする。実戦でも戦える技量を持つのは彼女も知る通り。けれど、インハイ三連覇を成し遂げた妹が簡単に負けるとは思えなかった。
「仮にもアカリはインハイチャンプだぞ?」
「インハイに玲奈がいたのかよ? あいつのテクニックは半端ねぇぞ? それに最近は筋力も増強してる。同年代の女子に玲奈の太刀が受けきれるとは思えん。何より手加減できるような器用さを持ってねぇんだ……」
どう考えてもアカリに勝ち目はないと思う。社会人クラスが相手でも圧勝してしまうのだ。幾らチャンピオンであっても大会には高校生しかいない。加えて性別によって分けられているのだから、そのレベルは推し量れている。
「怪我はさせねぇと思うが、妹の心が折れても知らねぇからな。それにアカリってやつが瞬殺されてみろ。三連覇という偉業に価値などなくなる。インターハイそのものだって低レベルだと思われてしまう。勝手に試合させて負けようものなら連盟が黙ってねぇと思うがな?」
高校スポーツ界はそれぞれに牛耳る団体があり、所属する高校は軒並み指示に従わねばならない。
一八とて元インハイ王者だ。市民大会に出る程度でも連盟に届けを出さねばならなかった。
「ふん、それは面白いな? ならば見せてもらおう。この三年間で岸野玲奈がどれ程の剣士になったのかを!」
まるで意に介する様子はない。罰則があろうとなかろうとヒカリは二人を戦わせたいようだ。
「実に楽しみだ。アカリのやつは必死で頑張っていた。シルバーコレクターと揶揄されながらも実績を積み重ねたのだ。最終的に三連覇。少しばかり問題を抱えているけれど、単発の試合ならばアカリは強者に違いない。岸野玲奈の成長を計るには良い相手だろ?」
「てめぇの妹だろうが。少しくらいは心配してやれ……」
一八は嘆息する。どうにも反りが合わない。明らかなポジティブ思考は過去を引き摺っていた自身と正反対だ。そんなヒカリには妹が失意に暮れる未来など考えられないのだと思う。
いよいよ三年ぶりの対戦が始まる。アカリとしては長すぎた再戦が幕を上げようとしていた……。
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