臨時プログラム
玲奈の表情を確認するや、ヒカリは頷いている。彼女は玲奈の意志を感じ取ったかのようである。しかし、当人である玲奈は表情とは異なって、ヒカリに対して首を振った。
「私の一存では決められません。体育祭は学校行事です。個人的な希望でプログラムを変更するわけにはなりません」
毅然と答えている。間違いなくヒカリはプログラムを差し込もうと実行委員のテントまで来たはず。だが、それが自動的に許可されるような案件ではないことなど分かりきっていた。
「君は頭が固いな? この嬢ちゃんは君が受けるのなら構わないと言ってるんだぞ?」
ヒカリが指さす先には恵美里の姿。どうも先に約束を取り付けたようである。
「玲奈さん、今日はお祭りです。午後は時間的余裕もありますし、貴方さえよければ良いお話かと思います。ただでさえ玲奈さんはカラスマ女子学園という足枷があるのですから」
どうやら恵美里は玲奈の受験を心配しているようだ。剣術科のない学園出身とあっては実力を割り引かれてしまうのではないかと。
既にお膳立ては整っている感じである。生徒に一任された体育祭。恵美里が構わないと話すのであれば、玲奈は首を縦に振るしかない。
「了解しました。それでは模擬戦をやりましょう」
「ふはは! そうこないとな。じっくりと岸野玲奈が見たかったのだ。だからアカリを連れてきた。君の腕前を見せてもらおうか!」
ヒカリは笑っている。全ては彼女の策略であり、彼女が望んだままとなった。妹のアカリもまた破天荒な姉に巻き込まれただけのようだ。
「岸野さん、わたしはずっと悔しかった。模擬戦ではあっても十分。全力でお願いするわ」
かといってアカリもやる気満々のよう。三年間に亘り溜まった鬱憤を晴らそうと彼女は考えている。
あまり気乗りはしないけれど、玲奈としてもメリットがあった。受験は剣術科なのだ。実技の合否は審査員による採点制。少なからず高校時代の戦績が印象に影響を与えるだろう。だからこそ見せつける。岸野玲奈が健在であること。今もなお進化し続けていることを。
「こちらこそよろしく頼む」
二人の握手にて急なプログラムの変更が決定した。実行委員としても体育祭を締めくくる良いサプライズであり、詰めかけたマスコミにも好評を博するだろう。
笑いの渦を誘った二人三脚が終わるや、
『ここでプログラムの変更をお知らせ致します。次なるプログラムは魔道剣術の模擬戦となります。対戦者はインハイ三連覇を成し遂げたテラマチ武道共栄高校三年浅村アカリさんとカラスマ女子学園三年岸野玲奈さんです』
放送が流れるや大歓声が巻き起こっていた。
体操着の上に防具を装着し、玲奈は校庭の中央へと歩いて行く。ヒカリが用意していた模造刀を手にして悠然と歩いていた。
グランドの中央へと歩む二人に盛大な拍手が送られている。
全ては期待感だろう。アカリはインターハイ三連覇の高校チャンピオン。片や玲奈は全中無敗の覇者であり、義勇兵として活躍をした剣士。どちらが勝つのかと観客は興味津々であった……。
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