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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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乱戦

 キョウト市北街壁の門番に義勇兵登録書を提示するや、守衛が兵団用のエアパレットを貸与してくれた。それは馬に変わるもので、一人乗りの魔道具。魔力は消費してしまうけれど、走るよりもずっと速く、魔道車よりも小回りが利く。カスタム品であり僻地戦闘の必需品である。


 即座に門が開かれた。今や義勇兵である二人は守衛に見送られながら街門を潜る。エアパレットにて飛び出していった。

 キョウト市の遥か北にはタテヤマ連峰がある。その向こう側に陣取っているのが天主率いる天軍。今現在の敵ではなかったけれど、北へ向かうということは彼らと接触する恐れもあるということである。


「玲奈、とりあえずついてきたが、どうするつもりだ? 中将ってのは消息不明なんだろ?」

 一八が聞く。当てもなく彷徨うつもりなのかと。どこにいるのか不明であれば、闇雲に動くしかできないのだ。

「まあ街道を遡るしかない。中将の部隊はマイバラを出てキョウトに向かっていたのだ。まず目指すべきは砦のあるオオツ、リットウ、モリヤマ辺りだろう」

 ルート的には限られていた。途中に巨大な湖があったため、街道はほぼ一本道だ。よってマイバラまでのルートを遡って行けば出会えると玲奈は考えている。


「なるほどな。なら問題は一つだ。追い立てられた魔物はどうする?」

 一八の問いが続く。その話は具体的な内容ではなかったが、玲奈は推し量っている。

 オークの本隊が背後に迫っており、その進軍から逃げ惑う魔物がいること。まず最初に接触するのはそれであるのだと。

「基本的に足を止めるつもりはない。オオサカからの救援はそれほど時間などかからないだろう。だから我々はエアパレットに乗ったまま、邪魔になる魔物だけを討っていく。小隊との合流を優先しよう」

 一刻の猶予もないのだ。小隊が消息を絶つ理由。単に通信兵が動けないだけであれば良いのだが、楽観的な思考は難しい。小隊が交戦状態にあり、通信もままならぬ危機であるか、或いは全滅まで考えられる。


「それより一八、以前のような醜態は晒すなよ?」

 ここで玲奈が釘を刺すように言った。以前とは間違いなく一八の目標が定まった日。ガーゴイルが現れただけで臆してしまったことだろう。

「あれから俺は死ぬ気で剣術に取り組んでるんだぜ? もう何度死んだか分からねぇよ」

「それなら良いのだがな。足を引っ張られては困ると思って聞いただけだ」

 終いには二人して笑い声を上げる。死地へと向かっているのは二人も重々承知していた。けれど、逃げようとは思えない。なぜなら魔物との戦いは騎士として避けられないから。騎士を目指す二人に逃げるという選択は残っていなかった。


「来たぞ!」

 一時間ほど進むと街道の先に土煙が見えた。思ったよりキョウト市に近い。それが逃げ惑う魔物の群れであるのに疑いはなかった。

「行くぞ、玲奈! 俺が大まかに斬る。お前は討ち漏らしを狙ってくれ!」

 一八が前に出ていく。以前とは大違いである。背中に括り付けた大太刀を事もなげに抜刀し、バランスを崩すことなく構える様は、一八が一端の剣士となった証しかもしれない。


「仲間であると心強いな……」

 玲奈の眼前にある大きな背中。かつて正面から対峙した折りに恐怖したそれが、今や玲奈を守る壁となっている。視界を奪うほどの背中に玲奈は不思議と安堵していた。

「おらああぁっ!」

 一八が奈落太刀を水平に振った。八尺もある大太刀を片手で振るその姿は圧巻である。いち早く逃げたと思われるワーウルフは一瞬にして斬り裂かれてしまう。


 返す太刀で一八はまたも魔物を斬っていく。少しずつ磨きをかけたその一振りは速く強いだけでなく正確に振り抜かれていた。

「おい一八! 私の出番がないではないか?」

「るせぇ! せいぜい魔力を温存してやがれ!」

 正直に見違えていた。魔力伝達を覚える前の一戦を玲奈は思い出している。

 あの頃とは比べものにならない剣圧は背後の玲奈にも感じられるもの。確かに以前から力はあったけれど、空気を斬り裂くような鋭さは持ち合わせていなかったはずなのに。


「父上はとんでもない剣士を生み出してしまったな。ああいや、それは違うか……」

 武士の思惑が何であれ出来上がったのは一八という剣士。大太刀を片手で正確に振り回す剣士などそうはいないはずだ。

「まだ一八は育成途中か……」

 末恐ろしくも感じる。体格という何事にも代えがたい資質を備えるだけでなく、戦闘感も素人にはないものだ。ゆくゆくは歴史に名を刻むことになるのではないかと思えてならない。


「玲奈、漏れた!」

「構うな! 突き進め!」

 少々暴れたりない玲奈だが、戦いは始まったばかり。いつまでも一八が無双できるはずもないのだ。今は一八に任せて急ぐべきであった。

 考えていたよりも魔物は少ない。キョウト方面へ逃げた魔物は二人でも対処可能であった。しかし、それは気のせいでも見込み違いでもない。なぜなら二人の視界には魔物と戦う一団が映っていたからだ。


「玲奈、追いついたようだぞ!」

「思ったより進んでないな? 部隊長は何をしているのだ……」

 近付くにつれ理解できた。自分たちは彼らの討ち漏らしを狩っていたにすぎないことを。

「加勢するか?」

「いいや、突き抜けていけ。我らの目的はキョウト市の守護ではない」

 義勇兵でしかない二人に任務はなかった。通常は加勢するものであるが、玲奈の判断は小隊といち早く合流することのよう。

 一般兵に混じり剣を振る。突き抜けろとの言葉通りに一八は少しスピードを落としただけで、魔物を斬り裂いていく。玲奈もまた彼が討ち漏らした魔物を的確に斬っていった。


「クソ、前が完全に詰まってるぞ!?」

「仕方がない。跳び越えろ! 魔力を出し惜しみするな!」

「マジか!?」

 汎用品のエアボードとは違いエアパレットは念じるほど魔力を消費し速く進む。またそれはエアパレットに書き込まれた術式の効果であり、特別な詠唱など必要としない。けれども、魔物の軍勢を跳び越えるイメージがどの程度であるのか一八には分からなかった。


「ちくしょう! もうなるようになれだっ!」

 一八はイメージしている。乱戦の上を跳び越える様を。どこまでも突き抜けていく自分自身の姿を脳裏に投影していた。

 瞬間的にエアパレットに刻まれた魔法陣が輝きを放つ。中位の風魔法が発動した証拠である。

 エアパレットが目映く輝き出すと同時に、一八の身体は宙へと投げ出されるように推進力を得ていた。

「うおおおっ!?」

 バランスを取り一八は一団を跳び越えていく。続く玲奈もまた同じように宙を舞った。

 どうにも燃費が悪いと思う。体重のせいか身体から魔力が奪われていくような感覚。長くは飛んでいられないことを一八は知らされている。


「玲奈、あの隙間に降りるぞ! 魔力が尽きちまう!」

「仕方ないな。降り際には気を付けろよ?」

 視線の先に空間があった。一八は狙い澄ませて降りていく。玲奈に忠告された通り、着地地点の魔物は一掃するつもり。奈落太刀を振りかぶりながら、重力に引かれるように落ちていった。


「おぉらああぁぁっっ!」

 着地するや否に振り回す。リーチのある奈落太刀ならではだ。一八の一振りは飛び込んできた魔物を一網打尽にしてしまう。

「玲奈、突破するぞ!」

「ここからは力尽くだな!?」

 そうこなくてはと玲奈。テレビでも見たこともないくらい魔物が溢れかえっていたというのに、二人は勇ましかった。エアパレットを収納することなく剣を振り前進を続ける。

「キリがねぇなぁ!」

「ぶつくさ言うな! 馬鹿力で切り開けよ、一八!」

 無茶言いやがると口にしつつも、一八は力一杯に大太刀を振るう。鬼気迫るその剣圧は次第に魔物を引き離すようになっていた。


「一八、突き抜けるぞ!」

「おうよ! 褒めてくれて良いぞ!」

 二人は生み出された隙間を縫うように飛んでいく。とりあえずは第一陣というべき群れを突き抜けたらしい。ようやく視界の中に蠢く魔物の姿が消えていた。

「突っ走れ、一八!」

 玲奈に言われるがまま一八はスピードを上げた。通り過ぎた魔物が追ってこないように。後ろを取られるなんて無様な格好とならぬようにと。

 しかしながら、前方にはまた土煙が見えていた。まだ距離はあるものの、それが魔物である可能性は否定できない。


「ちっ、また魔物かよ……」

「オオツ砦の辺りだな。ひょっとすると話にあったオークの群れかもしれん」

 玲奈の一言に一八は嘆息していた。

 視界の先にオークがいるかもしれない。始めから分かっていたことであるが、もし仮に人族への転生を希望しなければ、そこにいるのは自分だったかもしれないのだ。


「なんつかオークに未練はねぇけどよ……」

「あん? 今更ながらに元同族殺しを躊躇っているのか? 散々豚骨ラーメンを食っただろう?」

 一八の独り言に玲奈が返す。しかし、的外れだ。一八は躊躇っているのではない。欲望のままにしか動けぬ彼らを哀れんでいたのだ。


「俺様が楽に逝かせてやんよ……。さっさと次の世界へ行きやがれっ!」

 どうにも腹立たしく思えてしまう。同じことを前世でしていたなんて。何の躊躇いもなく他者を傷つけ、当たり前のように奪う彼らを。

 引導を渡してやると一八。オークに生まれた現実を恨めと剣を構えた。

 立場的正義など考えず一網打尽にしてやろうと……。

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