災厄
十日ほどが過ぎたある日のこと。早朝から共和国守護兵団キョウト支部の詰所に緊急通信が入っていた。
オペレーターが受けた通信はマイバラ基地からであるらしい。通信元のマイバラ基地は険しい山脈の麓にあり、天軍の侵攻を食い止める前線基地の一つである。
「浅村大尉、マイバラ基地が増援を要請しています!」
「なんだと? 天軍の再侵攻でも始まったのか?」
魔道通信には有効距離があり、北にある主な前線基地は基本的にキョウト支部へと連絡を取る。加えてオオサカ本部の指示を仰ぐのもキョウト支部の仕事であった。
「いえ、魔物が大発生したようです。マイバラ基地は何とか持ち堪えているものの、視察を終えて基地を離れた七条中将の小隊が消息不明とのことです」
聞けばタイミング悪く前線基地の視察があったらしい。戦力の補充状況や戦意高揚を目的としたものであるが、帰路に就いたところで予期せぬ魔物の大軍が出現してしまったようだ。
「どれくらいの規模だ? 小隊の編成を詳しく説明してくれ」
浅村ヒカリは落ち着いていた。というのも魔物の大発生は珍しくない。天軍が鳴りをひそめている現状であれば、マイバラ基地だけでも対処可能だと考えている。
オペレーターが小隊の編成を告げるとヒカリは頷きを見せている。しかしながら、続けられた魔物の規模は彼女の想像を遥かに超えていた。
「ホクリク方面から押し寄せた魔物は統率を見せることなく方々に散っています。原因となっているのはオークの大軍です。その総数は災厄級を超えているとの予測がでております」
魔物の襲来には危険度レベルが設定されている。災厄級とは簡単に大都市を壊滅できるレベルであった。
「しかし、数はともかくオークの軍勢だろう? マイバラだけで対処できんのか?」
「オークの大軍は地平線を埋め尽くす規模です。残念ながらマイバラ基地は防衛だけで捜索まで手が回らないとのこと。更には七条中将の小隊は消耗戦に適した編成ではありません。個々の実力は最高レベルにありますが、火力重視の装備となっておるため乱戦には不向きです」
嘆息するヒカリ。正直に人員を割く余裕はなかった。オークに追い立てられた魔物がキョウトまで流れてくる可能性が非常に高かったからだ。
「またオークの軍勢にはオークキングと見られる上位種が紛れ込んでいるとの報告です」
追加的な説明にヒカリは絶句する。今ならば災厄級と設定された意味を理解できた。
オークキング単体でも災厄級なのだ。一部のドラゴンなど災禍級の魔物よりレベルは低かったが、オークキングは大軍を指揮する。実質的に災禍級レベルと同義になり、それこそが災厄級以上と位置づけられた理由であった。
「本部に救援要請。七条小隊の捜索には中隊規模を編成する。一般兵は直ぐさまオオツに向かって進行せよ! ただしキョウトに向かう魔物は必ず殲滅するように!」
ヒカリは決断する。多くの部隊がキョウト周辺の魔物退治に出払っているのだ。残る兵を総動員したところで中隊規模でしかない。また支部を完全に空にするわけにもいかず、彼女はオオサカ本部に救援を依頼している。
「優子、出撃するぞ!」
「は、はい!」
遂にはオペレーターを務めた部下を引き連れ、自ら戦闘準備に入る。オークの大軍に加えオークキングという災厄。百年単位でしか訪れないような危機に対処しなければならない。
急遽編成された浅村中隊がキョウト支部を発っていく……。
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