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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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体育祭のプログラム

 玲奈は今日もまた恵美里に言付けを依頼されている。武道学館の委員一覧を提出した折りに、提案書の回収を求められたのだ。

 カラスマ女子学園をあとにし、いつものようにアネヤコウジ武道学館へと入っていく。

「玲奈さん、お疲れさまです!」

「ああ、真っ直ぐに帰れよ?」

 我が物顔で校庭を歩いている。すれ違う全員に声をかけ彼女は求心力を高めていた。


「んん? 今日は雷神がいないじゃないか?」

 いつもなら校舎の入り口に立つ雷神がいない。少しばかり物足りなさを感じつつも玲奈は役員室を目指した。

「頼もう!」

 声をかけるや扉を開く。中には昨日決まった委員たちと来田の姿があった。


「雷神、ここにいたのか?」

「玲奈様、お迎えできず申し訳ございません……」

 来田の話には構わないと返す。ツカツカと玲奈は一八の横まで歩いて行き、クルリと振り返るや腕を組んで委員たちを睨み付ける。

「で、提案書はできたのだろうな?」

 いつものように凄む玲奈。武力で蹂躙してきた彼女のスタイルは制圧を終えた今も変わっていない。


「玲奈、俺を誰だと思っている? ほらよ、これが提案書だ。俺たちには記入欄が少なすぎたぜ……」

 意外にも全てが埋められていた。どうせ一つも書き込まれていないと玲奈は考えていたというのに。


 受け取った玲奈はしばし目を通す。しかし、瞬時に彼女の表情が強ばり、眉間にしわが寄ったのは語るまでもない。

「貴様ら……。全員死にたいらしいな?」

 言って玲奈は竹刀を構えた。どう考えても却下である。このリストを恵美里に見せようものなら間違いなく卒倒してしまうはず。彼女の精神衛生を考えると、この場でどうにかせねばならなかった。


「待ってください! 玲奈さん、我々の希望は女子との触れ合いなんです! 青春時代を男だけで過ごすなんて殺生ですよ!?」

「うるさい! 徒競走以外は認められん! 何だこのヌルヌル相撲とかいう競技は!?」

 野江が意見するも玲奈を苛立たせるだけ。混合競技は認めても良かったものの、提案書にある大半が下心を感じるものである。持ち帰れば非難を浴びるのは明らかであった。


「マットの上にヌルヌルを敷き詰めて相撲を取るんですよ……」

「誰が説明しろと言ったか!?」

 刹那に玲奈の竹刀が野江の頭部を捕らえた。当然のこと野江は失神し、パイプ椅子ごと後ろにひっくり返ってしまう。


 これには意見しようとした土居も口を噤む。初日に大暴れした様子が脳裏に投影されていた。

「玲奈様、野江の発言を謝罪致します。私としましてはこのような無粋な提案はあるまじきと考えておりますが、生憎と私は委員ではありませんし……。ただ彼らは男なのです。脳裏には四六時中エロが充満しております……」

「来田さん、汚ぇっす!」

 即座に土居が口を挟むも、来田に睨まれては黙り込む。序列は絶対である。野江の二の舞にならぬように土居は意見するのを止めた。


「雷神は流石だな? して貴様は委員ではないようだが何をしている?」

「私はお手伝いを。しかし、エロが過ぎる者たちです。私も一八さんも困り果てていたのですよ……」

「う、うむ、そうだぞ玲奈。俺としては幅跳びや高跳びを推していたのだが、どうにもこいつらはエロが過ぎる。しかし、生徒会長として望みを叶えてあげたいとも考えているんだ……」

「ふむ、確かに部下の意を汲むのは上官の務めだ。しかし、このリストはないだろう?」

 玲奈がプリントをパンと叩いた。一八と来田は明確に格下を切り捨てていたけれど、話し合いに参加していない玲奈が知る由はない。


「玲奈様、私に提案がございます。全てを却下すると暴動が起きかねません。それこそ潤滑な合併を阻害するでしょう。カラスマ女子学園の横暴だと暴れる生徒が現れても不思議ではありません」

 来田が話したことは実際にあり得るようにも思う。武道学館生全員が同じような輩であれば女子との絡みを望むはずだ。


「リストは訂正致します。ですが、生徒たちのことを思えば、ダンスと二人三脚、騎馬戦くらいは残したい。でもそれでは玲奈様がお困りになられる。そこでリストにはヌルヌル相撲やアクロバティック組み体操が入っていたことを告げられてはいかがでしょう? あまりに酷い提案を提示することで、二人三脚や騎馬戦が普通の競技に思えるかと存じますが……」

 饒舌に語る来田に全員が頷きを見せていた。本当の天才がここにいると全員が感心している。更には最低限守りたい競技を残す術はそれしかないように思った。


「まあそうか。確かに子供っぽくはあるが、二人三脚は交流という側面もクリアしている。だが、密着しすぎるのは問題だぞ? 知っての通り学園は良家のご令嬢ばかりだ。クソゴミの掃きだめである武道学館の野郎共が手を出すなどもっての他だからな」

「密着だなんて滅相もございません! ただ純粋に交流を深めたいのです」

 うーむと悩むような声を出す玲奈。少しくらいは希望を残してやるのも手であるかもしれない。武道学館生がヤル気を出すには餌も必要であった。

「私の一存では決められんが、一応は許可しよう。だが、全員が二人三脚に参加などできんぞ? 割と時間を食いそうだからな。開催しても三レースくらいだろう」

「もちろんでございます。ご心配でしたら玲奈様自ら参加されたらどうでしょう? 貴方様が睨みを利かせておれば下手な真似はできないはず」

 ここで実行委員の全員が理解した。部外者であるのに来田が協力的なわけ。全ては玲奈とお近づきになるためだと。


「もちろんそうさせてもらう。粗相をしでかした者は問答無用で地獄送りだ……」

「それで結構かと。私も言い出しっぺでありますので、警備も兼ねて参加いたします。できれば一緒に行動すべきかと考えますが?」

 誰も文句を言えなかった。完全なスタンドプレイであったけれど、来田の頑張りにはメリットがある。自分たちも二人三脚に参加する可能性があるのだから。


「して騎馬戦はいかがでしょう? 盛り上がること間違いないかと思いますが……」

 来田が尚も攻める。とりあえず二人三脚の許可を得たものの、参加できる人数を出来る限り増やそうとして。全武道学館生が交流を望むはずであり、二人三脚だけでは不満が噴出するはずなのだ。


「雷神、お前は知らないのか? カラスマ女子に武道科はないのだぞ? 私とて魔道科に入っているのだ。彼女たちが騎馬戦などできるはずがない……」

「いえ、別に学園の女子に騎馬をしてもらうつもりはありません。騎馬武者をしてもらえればと存じます……」

 来田が答えると玲奈の眉毛がピクリとする。どうも悪しき思惑に彼女は気付いてしまったらしい。

「雷神、私はその手の薄い本で鍛えられているから、割と男共のスケベ心にも寛大な方だ。しかしな、女を騎馬武者とするのには賛成できん。どうせ視姦するつもりだろう? ただでさえお前たちは評判が悪いのだ。今以上に拒否反応を示されたくないのならば騎馬戦は諦めろ。どうしてもやりたいというのなら、武道学館生だけでやるがいい。あとダンスも却下だ。人数が多いと取り締まりが大変だからな」

 玲奈が触れなかった理由は認めていないからだった。確かに騎馬武者に限るとするならば、下心が丸見えである。

 玲奈に指摘され来田はすみませんと頭を下げる。彼としては二人三脚に参加できるだけで良い。しかも今のところ玲奈とペアになる可能性が高いのだ。


「却下とした空きには適当な競技を入れさせてもらう。貴様たちそれで構わないな?」

 ここで玲奈は強権を発動。面倒臭くなり、勝手に提案書を埋めるという。これによりほぼ全てが却下となり、アネヤコウジ武道学館としての案は徒競走と二人三脚だけになった。


「玲奈、俺はそれでいい。お前たちもそれで構わないな? 俺はこれから岸野魔道剣術道場で剣術訓練をしなければならんのだ。異論は認めない。二人三脚だけでも十分だろう」

 一八が話を纏めようとする。彼とて騎馬戦は割と楽しみであったが、言い争う時間が何よりも惜しい。二人三脚だけで満足してもらい解散とするのがベストだと思う。


 ところが、一八が考えるようには進まなかった。どうしてか部外者である来田が口を挟んでいる。

「一八さん、岸野魔道剣術道場とは玲奈様のご自宅ではないのでしょうか?」

 来田の物言いは話し合いを打ち切ったことではなく、打ち切る理由にあった。

 武道学館において玲奈は基本的に名字を知られていない。それは一八がそう呼んでいたからであり、岸野という名はまだ知られていないことであった。


「んん? まあそうだが。どうかしたのか?」

「どうしたもこうしたもありません! ずっと玲奈様と稽古されているのでしょうか!?」

 突っかかる来田に一八はようやくやらかしに気付いた。どう考えても来田は玲奈に気がある。つまりは自身をやっかんでいるのだと。幼馴染みであることは既に話したと思うが、来田は役員ではないし知らないのかもしれない。


「昨日は一緒だったが、基本的に俺は師範に指導してもらっている。隣人ではあるが、月謝を払ってるしな……」

 面倒なことに発展しないよう濁して伝えている。だが、来田は首を振った。どうにも彼は玲奈に心酔しきっているような感じだ。

「玲奈様、月謝はお幾らでしょう!」

 遂には自身も入門するかのような話になる。一八のようにアルバイトをしているとでもいうのだろうか。


「月に五千円だな。月謝を払うというのなら稽古してもらえるだろう。しかし、貴様は剣士ではないはずだが? 何のメリットがあるというのだ?」

「一八さんだって剣術は素人でしょう? なら私にだってできるかもしれない! もしもセンスがあって騎士になれたとしたら……」

 来田は朧気な未来を想像していた。エリート学校に通う玲奈は間違いなく騎士学校を受験するだろうし、合格するとも思っている。であれば自分はどうしたいのか。何の起伏もない人生を送るより、心に従い動くべきだと。


「雷神、いっちゃあ何だが騎士学校は誰でも受験できるわけではない。学校の推薦状が必要となる。また各学校には受験基準となる資料が配られている。どう足掻いても合格できぬような者は推薦してもらえん。学校の沽券に関わるからな」

「しかし、一八さんだって素人なのでしょう? だったら私だって可能性があるのではないでしょうか?」

 来田は食い下がっている。同じく剣術経験のない一八が目指しているのだ。自身にも可能性があるように思えてならない。

「曲がりなりにも一八は生徒会長だぞ? それに武道の実績も十分だ。馬鹿なのは仕方ないとして、一八にはそれを補うものがある。受験くらいはさせてもらえるレベルで……」

 非情な通告であったが、来田はまたも首を振った。ただでさえ玲奈と一八は隣人であるという。その上に稽古まで一緒にしているだなんて来田には受け入れられない。


「しかし玲奈様……」

 何とか口を動かすも反論は出てこなかった。自分には何もない。分かっていたことであるけれど、明確に指摘されるほど自身が空っぽなのだと知らされてしまう。

「まあ玲奈、来田が受験したいと言うんだ。好きにさせてやれ。やる気を挫くのがお前の仕事じゃないだろ? それに他にもど素人がいた方が張り合いもある……」

 ここで一八の助け船があった。張り合おうとしていた相手。来田としては複雑な心境であったものの、始める前から諦めたくないのも本心だ。よって彼は一八に感謝している。


 一方で流石に玲奈も言いすぎたと反省しているようだ。誰にだって可能性はある。それが一縷の望みであろうとも目指すのは個人の自由なのだと。

「なら月謝を持ってこい。今日は体験入門としてやろう」

 これにて来田の剣術体験が決まった。他の三名は呆気にとられるだけ。騎士学校を受験するだなんて冗談でも口にできないことだ。国家の重要施設であり、そこにはエリートしか入学できなかったのだから。


 静寂に満ちた役員室を玲奈たちが出ていくまで、残されたものは一様に口を噤んだままであった。

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