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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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体育祭実行委員会

 同刻、アネヤコウジ武道学館。生徒会役員室には例によって役員たちが終結していた。

「お前たち、生徒会の役目を俺だけに押し付けるとか良い度胸だな?」

 一八の凄んだ声が部屋中に響いた。対面する椅子に腰掛ける面々は完全に震え上がっている。怒らせない限りは人当たりの良い一八だが、仮に怒らせてしまうと宥めるのは困難だった。


 どうやら会議を逃げだそうとしたところを全員が一八に捕まったようだ。つまるところ会議を始める前に一八の叱責を受けることになっている。

「奥田さんは良いじゃないですか? 玲奈さんとイチャついているんですから……」

「ああん? 誰が玲奈とイチャついてるってんだ? お前の目は節穴か?」

「いやだって、我々も女子高生と会話したいんです! でも、いつも彼女は奥田さんの隣ですし、竹刀が怖くて話しかけられません……」

 逃亡犯を代表して野江が言った。彼曰く女子高生と会話するだけでイチャついていることになるらしい。男子高校生にとって何よりも得がたい甘美なシチュエーションのよう。


「そうですよ奥田さん! 玲奈さんは凄く美人だし可愛らしいと思います! それに七条会長という美人令嬢と会話しているのも奥田さんだけじゃないですか?」

 風紀委員の守口が続けた。彼もまた業務連絡でしかない会話を羨んでいるようだ。


「全くお前らはいけてねぇな。気になるのなら話しかけたらいいだろう? 玲奈なら伝令役だし今日もまたやって来るはずだぞ?」

「いや奥田さんを失神させるような人ですよ? 我々が彼女を怒らせたら殺されますって! 昨日の剣技なんて稲妻が出てましたから!」

 よく生きてますねと野江が言う。二日に亘って大立ち回りをしただけでなく、武道学館が誇る最強をのしてしまった女子高生。とてもじゃないけれど彼らには話しかけられないという。


 そんな折り、ドアがノックされ雷神こと来田一郎の声が聞こえた。

「一八さん、玲奈様がお見えです……」

 今日も今日とて雷神は玲奈の執事である模様。完全に彼は玲奈に心酔している感じだ。


 入れと一八が声をかけるや来田が扉を開く。

「どうぞ玲奈様……」

「ありがとう雷神!」

 ニコリと微笑む玲奈に来田は顔を赤らめている。その様子に役員たちは一様に不満げな声を上げた。

「来田さんズルいっす!」

「そうっすよ! 出迎え役なんて決まってないんすから!」

 守口と野江が揃って文句をいうと、来田は表情を一変させた。既に執事であった面影はなく、二つ名の通りに険しくも厳つい表情である。


「ああん? 貴様らに玲奈様の付き人が務まると思ってんのか!?」

 来田は武道学館のナンバーツーである。一八と同じ柔術部の部員だが、放課後に毎日玲奈を出迎えるあたり真面目に活動しているとはいえない。ただ体格は二つ名の通りであり、真面目に稽古しておれば、全国でも有数の柔術家となっていたことだろう。


 来田に凄まれると下っ端の二人は文句を押し殺すしかない。

「まあ来田も入れ。お前は役員じゃないが人数は多い方がいい」

 一八の命令に来田は了解しましたと素直に返事をする。どうやら来田にとっては強さこそが忠誠を誓う指標であるようだ。

「一八、怪我の具合はどうなんだ? 一応は心配しているのだぞ?」

「ああ、すまないな。流石に属性攻撃は効いたぜ。朝起きたら痛みは完全になくなっていたけどな」

 まずは昨日の話題から。全員が目撃した玲奈の天恵技。入院することなく登校した一八はやはり違うと皆が思っている。常人であれば首がもげていたとしても不思議ではなかった。


「玲奈様、昨日の一撃には感服致しました。この来田、玲奈様のスキルが如何に優れておるのかを理解しておりますので。一度ご教授頂けましたら幸いでございます」

 来田のスタンドプレイに役員たちがまたも不満の声を上げた。しかし、先ほどと変わらず来田が凄むだけで瞬時に黙り込んでいる。


「来田、剣術の話はあとにしろ。それで玲奈、今日はどういった話だ?」

 雑談を打ちきり一八が問う。玲奈がただ遊びに来るはずはない。学園の用事で赴いているのは明らかである。

「うむ。今日も私は学園の意見書を持参しているのだ。一応は体育祭で了承を得ている。まず最初の議題は体育祭の実行委員を四名決めることだ」

 玲奈は指示書にある通り、アネヤコウジ武道学館の実行委員を決めろという。それは生徒会役員に限っていなかったけれど、面倒だった玲奈はこの場で決めるようにと急かした。


「実行委員? 何だソレは?」

「体育祭を円滑に運営するための人員だ。そんなことも分からんのか? 私は忙しいのだ。さっさと実行委員となる四名を決めろ」

 この場には来田を含めた七名がいる。そのうち半数以上が余計な役割を負うことになるようだ。当然のこと全員が嫌そうな顔をしたのは語るまでもない。


「ということらしい。俺は生徒会長で忙しいから、お前たちの六人から選ぶ。殴り合うなどしてさっさと決めろ……」

 ここで一八が強権を発動。自身は生徒会長だからと雑務から逃れようとしている。また一八を追従するように来田が発言する。

「玲奈様、私は部外者であります。よってこの五名の雑魚から選択することになりますが……」

「来田さん、ホントにズルいっす!」

 堪らず土居が声を上げるも結果は同じである。来田が睨むだけで土居は黙るしかなくなっていた。


「雷神、実は役員に限っていない。せっかくだ。貴様も候補者として入れ」

 玲奈がそんな風にいうと、来田は面倒がっていたのが嘘のように畏まりましたと話す。彼にとって縦の関係は絶対である様子。上と認めた者の命令には背けないようだ。

 これにより来田を含めた六名での話し合いとなる。しかし、序列は明らかのよう。

 候補者の力関係は来田がトップであり、次に守口と牧野の中堅どころ。以下は野江と続き、武力に劣る副会長の滝井と土居が脅されるような形となっていた。


 実に荒っぽい決め方ではあったが、玲奈は静観している。別に誰でも良かったのだ。始めから殴り合いで決めるとばかり考えていたから、寧ろ玲奈は意外に思っている。

「いや、俺は馬鹿でクズですから絶対に迷惑をかけますって!」

 何とか逃れようとする土居。既に滝井は諦めているようだが、彼を除く下っ端の三人は押し付け合うようにしている。


 しばし不毛な口論が続く。待つだけの玲奈は割と苛立っていた。勝手に指名してやろうかと考えた矢先、ピタリと言い争いが終わる。ようやく委員となる四名が決定したらしい。

「愚図共、決まったか? 実行委員に選ばれた四名は手を挙げて名前をフルネームで答えろ」

 玲奈が聞く。彼女としても面倒ごとであって、待たされた苛立ちが彼女の口調を少しばかりキツくしている。


 玲奈の命令に手を挙げたのは三人だ。やはり序列で決まった模様。気弱そうな三名の男子が手を挙げていた。

 どうしてか一人足りない。玲奈が口にしたのは四人であったというのに。

「ほう……。貴様ら……、まったく良い度胸だな? 一度死んでみるか? 私の竹刀に血を捧げるつもりか? 私は四人と言ったはずだが……?」

 空気が振動するほどに迫力のある玲奈の口ぶり。加えて竹刀をパンと一叩きする彼女を見ると、震え上がらずにはいられない。


「さ、最後の一人は奥田さんっす……」

「何だと!? おい土居、お前裏切るつもりか!?」

 瞬間的に声を荒らげたのは一八である。話し合いの輪から外れていた彼は、まさか自分が選ばれるとは考えていなかったらしい。

「黙れ、一八! 貴様で決定だ。これ以上、無駄な時間を浪費するなど我慢ならん。それに貴様は生徒会長だ。一八が参加した方が何かと都合が良いだろう」

 玲奈に指名されては一八も頷くしかない。昨日は完敗であったというのに、玲奈は負けを認めてくれたのだ。譲られた勝利は全ては玲奈のおかげである。


 かといって一八は問題の本質を見極めていた。決してこの場で決める必要はないのだと。要は玲奈が煩わしく感じなければいい。事後報告的に自分以外の四名を伝えたなら、彼女はそれで構わないはずなのだ。

 玲奈が苛立つ理由は単に夕方のアニメを見たいだけであると経験から知っている。つまり今は彼女が怒り出さないよう帰宅を促すだけ。彼女が帰ったあとに改めて実行委員を決めようと思う。


「おい玲奈、お前はもう帰れ。あとは武道学館で話し合う。それで委員の変更は利くんだろうな?」

「早い段階ならな。とりあえずこの面々で報告するつもりだが、変更があるなら明朝までに教えてくれ。私は五時から新作アニメを見なくてはならんのだ。登校前に知らせてくれればいい……」

 やはり予想通りだ。玲奈は私的な用事で早く帰りたかっただけである。


「私は武道学館内の人事がどのようなものかは知らん。予め伝えておくが、この先に死人がでたとしても我がカラスマ女子学園とは無関係である。それは完全にアネヤコウジ武道学館内での問題であり、如何なる理由があろうとも我が学園は関与しない。貴様らが勝手に殺し合うだけ。その時には隣接する学校に通う者として哀悼の意を表しよう。あと仕事内容を纏めた資料はここにおいておく。実行委員に選ばれた者は体育祭で開催する競技を考えておけよ? それでは皆の衆、さらばだ!」

 玲奈は仮決定した四名の署名をもらい生徒会役員室を出て行く。

 頭数だけは揃えた。玲奈としては副会長である滝井が入っているだけでも十分だと考えている。彼以外は誰を選ぼうと大差はなかったのだから……。

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