意外な決着
玲奈のスキルを受けた一八は徐に跪く。玲奈に背を向けていた彼はどうしてか腕の中にケルベロスを抱いていた。
一八はそのまま前のめりに倒れ込んでいく……。
玲奈は状況を察していた。死闘の中、勝負を捨ててまで一八がケルベロスを守ったのだと。態勢を崩していたものの、玲奈と対峙する彼にしかケルベロスは守れなかったことだろう。
騎士とは何かを守る者だ。それこそ命を懸けて守り切る存在だと玲奈は考えている。この結果は誰が騎士であり、騎士でないのかを明確にしていた。
勝利したはずが呆然と立ち尽くす玲奈。校庭に満ちる静寂。しかし、一瞬のあと大歓声が玲奈を称えた。たった一人、大地に立つ彼女に万雷の拍手が送られている。
ただ玲奈に笑顔はなく、苦い表情のままだ。彼女にとって歓声も拍手も皮肉でしかない。玲奈は何も守れなかったのだ。それどころか彼女は子犬を救った英雄を叩きのめしている。玲奈にとって観衆からの賛美は騎士であることを否定していた……。
玲奈は長い溜め息を吐く。一八の腕から顔を覗かせるケルベロスには安堵したものの、ピクリともしない一八には罪悪感しか覚えない。
「玲奈ちゃん!」
立ち呆けている玲奈に駆け寄る影。ギャラリーに紛れていた恵美里と舞子が近寄っていた。
「玲奈さん、凄かったですね! 最後の技は血統スキルでしょうか? おめでとうございます!」
「玲奈ちゃん、あたし涙が出てきちゃった。まさかこんな大きな男の子に勝っちゃうなんて……」
観衆同様に二人も玲奈を称える。玲奈の気も知らず、ただ一方的な賞賛を彼女に浴びせるだけだ。
俯く玲奈は、しばらく口を噤んでいた。しかし、ようやく彼女の重い口が言葉を発する。
「恵美里殿下、この勝負は私の負けです。申し訳ありません……」
結果とは正反対の台詞を玲奈は口にした。
流石に恵美里と舞子はキョトンとしている。敵軍の大将が完全にのびていたというのに、矛盾するその話には小首を傾げるしかない。
「最後の瞬間、ケルベロスが飛び込んできたのです。私はスキルを発動しており、もう剣を振り下ろすしかできませんでした。けれど、一八は躊躇うことなくケルベロスを守ったのです。遠目にはよく分からなかったかもしれませんが、一八は子犬の命を救いました……」
ケルベロスが勝負に乱入し、勝敗にかかわってしまったこと。ようやく二人は知らされていた。
「野蛮なのは私の方でした……。勝利することしか考えていなかったのです。願望のみに忠実な蛮族。私が掲げた正義は実に安っぽいものでした……」
何度も首を振る玲奈。かといって玲奈の戦いぶりは勝利に値するものだと二人は信じて疑わない。けれども、項垂れる玲奈を見てしまっては彼女の言葉を正そうとは思えなかった。
しばし恵美里は考え込んでいる。しかし、結論に達したのか彼女は大きく頷いた。小さく笑みを浮かべながら、玲奈の意を汲んだ言葉を口にしている。
「分かりました。玲奈さん、この賭けはわたくしたちの負けということで滝井副会長に伝えさせていただきます……」
家臣の意思を尊重したかのような台詞である。恵美里は念願だった賭けの勝利を手放していた。
これより先に噴出するだろう不満の数々は容易に想像できたけれど、肩を落とす玲奈に追い打ちをかけるなんて選択はあり得なかったようだ……。
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