炸裂
最後の一手が繰り出されようとしていた。
強がってはいたものの、共に体力の限界を呈している。玲奈と一八は気力を振り絞り、重く感じる身体を無理矢理に動かしていた。
「降参しろ、一八!」
「お前こそ! もう限界なんだろ!?」
接触と同時に奥義を見せ合うことはなかった。戦いの流れはこれまでと変わらず、腕を伸ばす一八を玲奈が剣によっていなしている。
そんなとき一八が体勢を崩す。踏ん張りきれなかった彼の右足はグランドの砂を削り取るかのように滑り、大股を開くような格好となった。
「トドメだ! カズヤァァアアア!!」
この好機を玲奈が見逃すはずもない。残る体力の全てを総動員し、彼女は体勢を整える。加えて力強いステップを即座に踏んで、習得したばかりの大技へと繋げていく。
「天地雷鳴! これで終わりだぁぁあああっ!!」
その刹那、玲奈にも見えた。視界の端に躍動する黒い影。突如として現れたそれが自身に向かって飛び込んでいたことを。
前方へと宙返りしていた玲奈だが彼女は見逃さなかった。けれど、もう天地雷鳴は発動条件を満たしており、玲奈の身体は天恵技という剣技によって支配されている。
「ケルベロス!?」
玲奈めがけて飛び込んできた影はケルベロスだった。身体能力の九割をスキルが支配している今、彼女には僅かに軌道をずらす程度しか技に干渉できない。また聞いていたよりも鉄刀が帯びる火花は強大であり、電撃の攻撃範囲から子犬を逃れさせるほど技に干渉するなんてできなかった。
「うわぁぁああああぁぁあああああっ!!」
玲奈の絶叫だけが校庭に木霊している。勝利の雄叫びというよりは到達すべく未来に恐怖しているかのよう。悲しげにも聞こえる彼女の声が虚しく響いていた。
次の瞬間、ガァァンという鈍い打撃音が轟く。思わず目を逸らした玲奈だが、その手には確かな感触が残っていた。皮肉なことに特訓を始めてから一番の手応えだ。玲奈は浮かない表情をし、力強く振り下ろされた鉄刀に視線を合わせている。
「なっ!?」
そこには子犬などいなかった。背を向けた大男が眼前に立っているだけだ。
瞬時に理解している。これほどまでの体躯をした男を玲奈は他に知らない。それは幼馴染みと呼ぶべき隣人であり、自身と対峙しているはずの彼に他ならなかった。
結果として天地雷鳴は目的を遂げている。
飛び込んできたケルベロスに命中することはなく、どうしてか割り込んだ一八の後頭部を的確に捕らえていた……。
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