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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第一章 転生者二人の高校生活

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一八と玲奈の戦い。再び……。

 アネヤコウジ武道学館の正門前。玲奈はよしっと気合いを入れていた。夜遅くまで稽古に励んだ甲斐あって、彼女は天地雷鳴を習得している。やりきった表情をして校舎を眺めていた。


「レイナ・ロゼニアは今日で終わりだ。一八に勝って全てを終わらせる。それによりレイナ・ロゼニアは後顧の憂いなく旅立っていくはず。どうか安らかにな……」

 玲奈は前世の自分を他人事のように語る。記憶を引き継いでいたものの、エミリを守れなかった以外に前世への未練は少しもなかったのだ。気になることといえば、それは死に際のこと。それさえなければ玲奈が前世を思い出すこともなくなるだろう。


 決意をし、玲奈は校門を潜っていく。威風堂々と彼女らしく敵陣へと入っていた。

 校庭には既に道着を着込んだ一八の姿。また大勢のギャラリーが彼を取り囲むようにしている。どうやら武道学館生は噂を聞きつけて集まったようだ。突如として現れた剣士玲奈と武道学館最強を誇る一八の対決を見逃してはなるものかと全員が下校よりも観覧を望んだらしい。


「これってどういうこと? どうしてこんな大掛かりなことになってるの!?」

 舞子が動揺している。単に体育館などで戦うだけと思っていた。だが、校庭で待ち構えている一八を見る限りは、ギャラリーに見守られる中で戦うのだと思えてならない。

「舞子殿、怖じ気づく必要はありません。既に私は子豚たちを掌握しています。全てが敵であると仮定するのは早合点でしかないでしょう」

「玲奈ちゃん、大丈夫なの?」

「当然、勝つつもりです。一夜漬けながら、必殺技を習得してきました。全てはあの豚野郎に鉄槌を下すために!」

 言って玲奈は歩を進めた。彼女が歩むたびに沸き返る観客。掌握しているという玲奈の言葉が取って付けた嘘ではないことを舞子たちは知らされている。


「よう、遅かったじゃねぇか。逃げ出したのかと思ったぜ?」

「はん、魔物に怯えるような貴様に臆する私ではない! 貴様こそ覚悟はできたのか?」

 互いに煽るような台詞が飛び交うも双方共が冷静である。少しも勝利を疑っていないかのように二人は落ち着き払っていた。


「予め確認しておく。魔力は使用禁止。貴様が負ければ共同開催は文化祭に決定だ。それで間違いないな?」

「もちろん。負けた方が相手の提案に従う。勝敗は負けを認めるか、行動不能と見做された場合だ。大怪我しねぇように手加減してやるよ」

「ふん、その自信諸共打ち砕いてくれる。私も手を抜くつもりだが、生憎と鉄剣でなぁ。骨の一つや二つは折れてしまうだろうが構わないな?」

 一八が前世と同じだけの強度ならば竹刀などでは太刀打ちできない。最低限折れる心配のない鉄剣が必要であった。


「竹刀じゃ帯刀しないのと同じだ。俺は全力のお前と戦いたい。だから鉄剣に不満はねぇよ。かといって鍛え上げられた俺の身体に模造刀如きが耐えられるかは知らん」

 二人共が勝利を確信している。二人は互いに同じ未来を見ていた。それが同時に叶うことなど天地が逆さまになろうとあり得なかったというのに。


「悪いが審判はこちらで用意させてもらった。とはいえ行動不能を判断するだけだ。負けたからといって、あとでいちゃもんつけんなよ?」

「失神させてやるから問題ない。傍目にも明らかな勝利を見せてやる。それが嫌ならさっさと負けを認めることだ。無様に這いつくばる様を晒したくはないだろう?」

「口だけは達者だな? まあいい。俺は再びお前をぶん投げるだけだ……」

 二人の舌戦に盛り上がる観衆。玲奈の強さは既に知れ渡っており、一八の強さもまた全員が知るところだ。つまりは最強同士の戦い。通常の喧嘩とは違う期待感を全員が覚えていた。


「早く着替えてこい。校舎へ入ったところに鍵のかかる部屋がある……」

 一八は着替えを促した。剣術家である玲奈だが、彼女はまだ制服のままだ。模造刀こそ手にしていたものの、着替えが必要なのは一目瞭然である。

「防具など必要ない。私はこのまま戦うつもりだ。一撃必殺の奥義を叩き込み、早々に終わらせてやるからな」

 武士の教え通り防具は装備しない。天地雷鳴の使用は防具を装備した状態ではままならないのだから。


「いやしかしな……。その……」

「何だ? 言いたいことがあるのならハッキリと口にしろ! 男らしくないぞ!」

 急に覇気が無くなる一八を玲奈は一喝した。これから戦うというのに戦意が失われたかのような彼を睨み付けている。


 不満げな表情の玲奈に舞子が近寄り耳打ちをした。

「玲奈ちゃん、スカートのことじゃ……」

 舞子に言われて気付く。そういえば玲奈は制服を着たままだった。しかし、玲奈が対策を怠ったわけではない。

「ああ、すまない! 実はスカートの下にはスパッツをはいているのだ。期待されていたのなら申し訳ないが、対策させてもらった……」

 玲奈の説明に肩を落としたのはギャラリーの面々だ。とりわけ残念がっていたのは一八の隣にいる使いっ走りの土居であった。


「玲奈さん、それはないっすよ! 我々は全員が期待していたのですから……」

「それはすまなかった。確かにラッキースケベを期待する場面のようだ。事前に伝えていなかったことを素直に詫びよう。更にはここではっきりと伝えさせてもらう。今後、誰に対しても貴様らが過度な期待をせぬようにな……」

 玲奈はニコリと笑みを浮かべ観衆に告げる。全員に聞こえるように声を張って。


「愚鈍な貴様らが拝んで良いパンツなど存在せん! 貴様らにその機会は未来永劫ないと思え!」

 昂然たる口ぶりで断言した。真理であるかのようで、その実はただの偏見でしかない。

 しかし、大半のアネヤコウジ武道学館生が頭を抱えた。玲奈に指摘されるまで、それとなく全員が自分に期待していたのだ。もしかしてという不安を頭の片隅に追いやってまで。


「玲奈、高度な精神汚染だな? 全員を意気消沈させるとか……」

「はん、貴様の下僕たちはやけに柔い精神力だな! 家にいるゴキブリの方がよっぽど屈強だぞ?」

 しばらく舌戦が続いたものの、いよいよ二人は校庭の中央へと歩み寄った。

 円を描くように集まったギャラリーたちの中央。玲奈と一八、そして審判を担当する生徒会副会長の滝井だけがそこにいる。


 奇しくもこのシチュエーションは前世と同じだった。レイナ・ロゼニアとオークキングの一戦もまたオークたちが取り囲んでいたのだ。

「やはり因果か、或いは宿命か……」

 現世でも一八との一戦は避けられぬ事象だと玲奈は改めて思う。隣家に転生した意味。この一戦は少なからず因縁めいていたし、女神マナリスの思惑を覚えずにはいられない。


「玲奈さん、一応は試合とのことで審判を私が務めさせて頂きます。何度かお会いしておりますが、どうぞよろしくお願い致します……」

「貴様だけは礼儀正しいな? 一八の部下にしておくのはもったいないくらいだ」

「ありがとうございます。精一杯務めさせていただきますので……」

 簡単な自己紹介をしたあと、滝井がルールについて説明する。


「決まり事は少ないです。魔力の使用は禁止。どちらかが負けを認めるか、客観的に見て明らかに勝負がついた場合は試合を止めさせていただきます。怪我の類いは仕方ないにしても、大怪我をされたりすると流石に問題がありますので……」

 怪我は構わないとするのはアネヤコウジ武道学館ならではだろう。まるで日常の一コマのように軽く伝えている。


「一八が死なぬ程度に止めてもらえれば結構だ!」

「なんだと? 受け身もないようなチャンバラに俺が負けるかよ!」

「優雅さの欠片もない取っ組み合いなんぞ、恐るるに足らんわ!」

 マイクパフォーマンスであるかの如く互いの武道を悪く言う。だが、審判である滝井が手を挙げて試合開始の準備が整ったことを知らせると一様に黙り込んだ。


 いよいよ始まろうとしている。前世から続く戦いの決着。この決戦は両者共が願ったことであり、避けられぬ勝負であったことだろう……。

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