決戦当日
決戦当日は好天に恵まれていた。深夜まで特訓をしていた玲奈はやはり眠たそう。しかしながら、授業は真面目に受けて何とか放課後まで漕ぎ着けている。
いざ決戦の時。本日は生徒会の活動が予定されていない。よって玲奈だけでなく恵美里と舞子も同行していた。
「玲奈さん、本当に申し訳ありません。貴方に全てを背負わせてしまって……」
「殿下、気にしないでください。元より一八は生来の敵。私にとって倒さねばならぬ存在です。このような機会を与えて頂き感謝しかありません……」
玲奈もまた戦いを望んでいる。前世から引き摺る想い。忘れたようで記憶にはちゃんとある。あの瞬間に覚えた恐怖は騎士として恥だった。
「かつて私は一八を前に戦慄を覚えました。足が竦むような感覚はそれまで一度もなかったのです。百の軍勢を前にしても、私の足はちゃんと動いていたというのに……」
「玲奈ちゃん……」
玲奈の回想と恵美里と舞子の想像は本質的に異なったが、玲奈がトラウマを思い出しているのは二人にも伝わっている。
「玲奈さん、あの方に勝てるのでしょうか? いや、今となっては貴方の身体の方が大切です。無事でいられないようでしたら、戦う必要なんてありませんからね?」
「そうだよ。あの人ってインハイの優勝者なんでしょ? また抑え込まれてしまったら大変だよ……」
二人は玲奈の身を案じている。かなりの誤解を含んでいたけれど、二人が想像することは概ね真実でもあった。肉体だけではなく精神的にも襲い来るものがあるはず。二人にそのような経験はなかったが、想像するだけでも気分が悪くなった。
「問題ありません。刃はついておりませんが鉄刀を用意しました。一八と同じ世に生きているのは、きっと女神様が私に与えた試練。それを乗り越えることで私はようやく新しい自分を見つけられる。岸野玲奈として生きるためには一八を倒さねばならないのです……」
玲奈の真意は決して伝わらないのだが、二人はその意気込みを汲み取っている。玲奈が逃げるはずはない。今までもずっと剣士であった彼女は堂々と戦いに挑むのだろう。
「生を受けてから十七年。私は一時も休むことなく鍛錬を続けて参りました。人生の最大目標ではありませんけれど、一八との戦いは過程にある中でも私が強く望むことであります。あの男に勝ってこそ私の生は輝きを得られる。燻る想いを全て相殺し、前へと歩み出すためには一八に勝つしかないのです」
玲奈が語るたびに彼女が抱えるトラウマを感じ取れた。もう二人がとやかく口出しなどできない。強い意志表示は肯定してあげるべきなのだと。
恵美里と舞子は心配する気持ちと同等以上の期待をし、先を歩く玲奈の背中を見つめていた……。
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