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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第三章 存亡を懸けて

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同期の歓談

 進軍の日がやって来た。共和国中の魔道トラックが集められたと思うほどに、おびただしい数の台数が停車している。

 川瀬による短い演説があったあと、各々が指定されたトラックの荷台へと乗車していく。


「やれやれ、戦争続きだな?」

 玲奈が言った。先週は二度も経験している。一週間近い休憩があったとはいえ、玲奈と一八は再び山脈越えをしなければならない。


「そういうな。中腹まで魔道車でいけるなら、楽じゃねぇかよ……」

 連合国へと向かった折には最初からエアパレットであった。それを考えるとタテヤマ連邦の中腹まで眠っていられるのだから、前回よりはマシであるはずだ。


「玲奈ちん、そんなにキツかったの?」

 莉子が聞く。少しばかり話は聞いていたけれど、彼女は暇に任せて詳しい話を求めている。


「峠越えは想像よりも精神的にきつい。足場のないところで眠ったり飯を食べたりするんだぞ? 何個唐揚げを落としてしまったことか……」

「ああ、それは玲奈ちんにとって地獄だね……」

 二人は冗談にも似た話を笑う。正直に莉子は緊張しなかった。彼女は奇襲班に編成された瞬間に人生の終わりについて考えたのだ。だからこそ、生き残ったこの今は人生の延長戦であるように感じられている。生き残ったことを女神マナリスに感謝しつつも、既に命は共和国のために捧げ終えていた。


「ところで奥田君、来田って一般兵を知ってる?」

 ここで妙な話になる。来田といえば一八だけでなく、玲奈も知っている名前だ。かといって、それを口にしたのが面識がなさそうな伸吾であるのだから、想像する人物なのかどうかは分からない。


「来田一郎か?」

「そうそう、その来田一郎君だよ。昨日、僕が指導したんだ……」

 フルネームで聞くと疑いはなくなっている。伸吾が指導したのは雷神こと来田一郎であるのだと。


「ほう、あいつ義勇兵に応募したのか?」

「奥田君や岸野さんの活躍に看過されたと話してたよ」

「しかし、来田の家は金銭的な事情があったはずだが……」

 確か一般兵は認めてもらえなかったはず。道場に通うことすら家庭内で問題となっていたと記憶している。


「今は一般兵の待遇も良くなっているからね。それにたぶん、死亡弔慰金が上乗せされたのが大きいと思う。若い一般兵が増えたのは……」

 死亡弔慰金は戦場で失われた場合に遺族へ支給される見舞金である。雀の涙ほどしかなかった死亡弔慰金は改定により大幅に増額されていたのだ。


「なるほどな。それなら納得だ。まあでも師範がよく許したな?」

「一八よ、父上は別に兵団が嫌いなわけじゃないぞ? 父上も義勇兵登録をしたと話していた。もしもキョウト市が危機にあれば、剣を取るのだと」


「マジか? まあ師範がキョウトを守ってくれるのなら安心だな。うちの爺ちゃんも山を下りたかもしれんし」

 割り込んだ玲奈の話に一八が返す。しかし、聞き捨てならない話が含まれており、玲奈は眉を寄せている。


「七二殿は生きてらっしゃったのか?」

 確か五年ほど前に失踪したと玲奈は聞いていた。奥田流魔道柔術道場の最高師範。仙人になるという手紙を残して家を出てしまったのだと。


「それがなミノウ山地にいたんだよ。探査中に偶然出会ったから、家に帰れといっといた」

「玲奈ちん、そのお爺さんてさ、ハーピーに魅了されてんの! 超ウケる!」

 莉子のツッコミに益々玲奈は眉間にしわを寄せていた。

 仙人になるといって蒸発した七二が本当に山ごもりをしていたこと。更にはハーピーに魅了されただなんて意味が分からない。


「七二殿がハーピー如きに負けるとは思えんのだが?」

「それがオッパイに夢中だったの! たぶん家系だね。カズやん君も魅入ってたし!」

「おい、莉子!?」

 莉子の話に玲奈は薄い目を一八に向けた。加えて男は本当にどうしようもないなと漏らしている。


「んでさ、ハーピーは全てあたしの薫風によって殲滅したんだ! だからお爺さんはもう山を下りた可能性が高い!」

「なるほどな。七二殿がキョウトに戻られたのなら安心だ。我々も心置きなく戦えるというもの」

 脱線話となってしまったのだが、玲奈と莉子の話が一段落するや、伸吾は話を戻している。


「それで来田君は奥田君に会いたいと話していたんだ。彼の立場からすると、君は手の届かない人だからね。現場についたら、一度会ってあげて欲しい」

 どうやら伸吾は来田から頼まれたらしい。久しぶりに話がしたいのだと。


「なら探してみっか。玲奈はどうする?」

「わ、私は別に。会ったとして話すことがない……」

 一八と玲奈の会話は三人が知り合いであることを明らかにしている。また玲奈には少しばかり後ろめたさがあることも。


「おや? 玲奈ちん、ひょっとして来田って子にフラれた?」

 ニシシと笑う莉子。どうやら彼女は勘違いしている。玲奈に覚える気まずさが、恋愛的な原因であり、玲奈がフラれるという結末だったのだと。


「莉子、私はフラれていない……」

「そうだそ? 玲奈は来田をこっぴどくフッた酷ぇ女だ!」

「一八、貴様!?」

 莉子は笑みを大きくしている。予想していたより面白い展開に。従って莉子はこの話題を続けていく。


「玲奈ちん、やっぱモテるんだ。いいなぁ! さっすが黒髪の雷姫!」

 茶化す莉子に玲奈の眉根がピクリとする。流石に苛っとしてしまったらしい。


「莉子、死にたいようだな?」

 言って玲奈は莉子の顔面を鷲掴みにし、思い切り力を入れている。


「痛い痛い! やめて! 死ぬぅぅ!」

「一度死んで馬鹿を直してこい!」

 二人の遣り取りを伸吾は笑っている。共和国が初めて天軍の領土へと攻め入るというのに、脳天気な二人には呆れるを通り越して面白いと思う。溜め息ばかりを吐かれるよりも、ずっと良いことだろうと。


 真っ直ぐに進んでいく魔道トラック。平野を抜け、長い坂道へと差し掛かっていた。

 中腹からはトラックから降りねばならない。過酷な連邦越えが始まろうとしていた……。

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