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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第三章 存亡を懸けて

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キョウト支部への移動

 浅村小隊に選抜された六名の騎士。ヒカリに続いて一八と莉子、恵美里と舞子の後ろには支援士の早久良と静華が続いた。

 どうやらキョウトまで魔道車で移動するらしく、六人は荷台へと乗るように指示を受けている。


 全員が乗り込むや、ヒカリが魔道車を発進させた。乗り心地は悪かったけれど、ヒカリが運転席にいるという現状は雑談をするのに適してもいる。

「はぁ、どうしてあたしが選ばれたんだろ?」

 舞子が嘆息している。それはそのはず彼女は魔道科の三席なのだ。奇襲部隊に選ばれるなんて考えもしていない。


「舞子さん、恐らくは火力の問題ではないかと……」

 恵美里が答えた。考えられる要因は少ない。学科成績にて小乃美に次席を譲った舞子だが、実技では彼女を上回っていたのだ。従ってこの人選は純粋に魔力量を基準としているのだと思われる。


「火力かぁ、まあそうかも……」

「それに、わたくしたちは奇襲といっても比較的安全でしょう。内部に奇襲を仕掛ける剣士の四人と比較してですけれど……」

 確かにと舞子。剣士や魔法術式の解除に奔走する兵と比べれば安全だといえた。何しろ指定された座標に高出力魔法を撃ち込むだけなのだ。奇襲を強いられる剣士たちはずっと危険な目に遭うだろう。


「一八君は緊張してないの?」

 ここで舞子は一八に聞いた。黙り込む一八がどういった心情でいるのかと。

 問いかけられ目を開く一八。少し考えるようにしたあと、

「オークキングを斬るだけでしょ?」

 彼はそう答えている。


 注目していた者たちは呆けていたけれど、一瞬のあと全員が拍手を返していた。

 オークキングは災厄レベルであり、まして複数の目撃情報がある。だからこそ全員が彼の勇気を称えていた。


「みんな、騙されちゃダメっしょ! カズやん君はなぁぁんにも考えてないだけだから!」

 一八だけが持て囃されているのが気にくわないのか、莉子が突っかかるように言った。


「おい莉子、てめぇもオークキングと戦うんだぞ? 何で玲奈じゃなくお前なんだ?」

「ひっどい! そりゃ、あたしは非力だけど、愛刀を持ち替えたあたしは十分に戦えるよ!」

 莉子の話には全員が笑顔を見せるのだが、一八の疑問はもっともだと考えていた。現状の玲奈であれば、オークキングとも互角に渡り合えるのではないかと全員が考えていたからだ。


「えっと、莉子さんは恐らくサポートなのではないでしょうか?」

 ここで恵美里が助け船を出した。彼女なりに考えた結論を口にしていく。


「アタッカーとして浅村少佐と一八さん。そのサポートです。浅村少佐のサポートは飯山中尉だと思いますし、同じスピードタイプの莉子さんが選ばれたのだと……」

「恵美里さん、飯山中尉って誰です?」

 話の腰を折ったのは一八である。彼はまるで分かっていない様子。守護兵団のキョウト支部にはあと一人しか騎士はいなかったというのに。


「飯山優子中尉ですよ。わたくしたちが少尉待遇となったことで、ここ数年に配備された騎士は軒並み階級が引き上げられているのです」

「ああ、優子さんっすか! あの人もスピードタイプなんすね?」

「ええ、その通りです。彼女は二年前の首席卒業者なのですよ?」

 思わぬ説明にマジっすかと一八は返している。虫も殺さぬような顔をして首席だなんて思いもしなかった。


「じゃあさ、あたしはカズやん君のフォローをすればいいの?」

「だと思いますよ? 奇襲とはいえ、雑兵であるオークの相手も必要ですからね。莉子さんが道を切り開く役目だと考えます」

「だってさ、カズやん君! 君の戦果はあたしにかかってるんだって!」

「るせぇよ。莉子の世話になんぞならん!」

 ここで再び全員が笑い声を上げた。完全な貧乏くじだと考えていたというのに、出発前からは考えられないほど、心にゆとりが持てている。


「一八君のおかげで、吹っ切れたよ! あたしたちはまだマシみたいね」

 舞子がそういうと、

「ホントそうよ! まあ私は奥田君ならオークキングもちょちょいと切り刻んでくれると信じているから!」

 早久良が続けた。混成試験で同じ班だった彼女は一八の実力を目の当たりにしている。配置には驚いたけれど、元より支援班は後方待機。不安はあったけれど、前衛となる四人には不満などなかった。


「しっかしカズやん君、落ち着きすぎじゃない?」

「そうか? 俺はたぶんオークキングなら、もう苦戦しねぇと思ってる……」

 荷台にいる全員が戸惑う話が返ってきた。確かに高校生の時点でオークエンペラーと互角に渡り合ったのは知っている。また飛竜やヒュドラを討伐したのも記憶に新しい。


「本気? そりゃ君なら十分戦えるだろうけど……」

 飛竜が相手でも逃げだそうとしなかった一八だ。莉子はそれを知っていたというのに、疑問を覚えているらしい。


「とにかく、やるっきゃねぇんだ……。それより莉子、てめぇは大丈夫なのか?」

 一八の問いに莉子は少し驚いたような顔をする。確かに怖くは感じていたけれど、トラックにて運ばれる現状は逃げ出すなんて不可能なのだ。


「どういうこと? もう戦うしかないんだよね?」

 莉子の質問返しに一八は首を振った。そうではないのだと。戦うといった当たり前の返答など彼は望んでいない。


「違ぇよ。俺はお前の真意が聞きてぇだけだ……」

 一八が危惧すること。それはたった一つしかなかった。


「勝手に死のうとすんなよ?」


 莉子は愕然とさせられてしまう。確かに飛竜との一戦では囮になって一八を逃がそうとした。一八はこんな今もあの行動が気になっていたらしい。


 莉子は莉子で反省している。あの行動はパートナーを生かすためであったけれど、同時に信頼していなかったことでもあるのだと。


「あたしはもうあんな真似はしないよ。君が存分に戦えるようにフォローするだけだね」

「それならいい。ぜってぇ、最後まで諦めんな。意識があるうちは刀を振れ。今回ばかりは俺も守りきれん。任務を遂行するだけじゃなく、必ず生き延びろ」

 一八は命令のように話す。この度の任務は単体の飛竜ではない。複数のオークキングなのだ。よって莉子を気にしながら戦うなんて不可能であった。


「分かった……。あたしは死にたくない。もう十分にそれは理解できた。オークにカズやん君の邪魔はさせないし、あたし自身も生き残るから……」

 言って莉子は笑顔を見せた。その表情に一八は安堵している。飛竜との一戦にあったような無謀な行動はもうしないだろうと。


 程なくトラックは目的地であったキョウト支部へと到着。既に一般兵も勢揃いしている感じだ。キョウト支部に残っていた優子が指揮を執り、作戦の説明をしている。


 新人たちの鼓動が速まっていく。戦闘というより戦争を連想させる光景に。

 全員の気が引き締まっていた。もう学生ではないのだと知って……。

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