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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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ヒュドラの毒

 本部と通信をした伸吾。小さく溜め息を零すも、静まり返る班員に声をかけた。

「みんな、大丈夫。一班が救援に向かってくれている。それまで何とか宮之阪さんを生かすだけ。一班にはエクスピュアリフィケーションを唱えられる術士がいるから……」

 誰しもが黙り込んでいた。ジッと支援科の治療を眺めているだけだ。


「でも鷹山君、魔力回復薬はあと二本しかないよ?」

 支援科の一人である本郷真菜が言った。どうやら彼女と西村千尋が交代でピュアリフィケーションをかけているらしい。


「使って構わない。僕は間に合うと思っている。だから出し惜しみなんて駄目だ……」

「でも、万が一の場合に小松君のデバイスを使って脱出する選択肢もあるじゃん!?」

 小松とは魔道科の一人である。彼はアイスキャノンというバズーカ砲タイプのデバイスを携帯しているのだ。魔力消費が激しいために乱発できなかったけれど、それを使えば逃げ切ることができるかもしれない。


「いや、僕は切り捨てたくない。全員で助かるか、全員が死ぬかだ。即死でないのなら生かす方向で思考するだけ」

「全滅なんて嫌よ! 舞子さんには悪いけど、もう見込みがないわ! 私たちだけでも助かるべき!」

 本郷真菜は声を張る。一人を切り捨てたならば五人は助かるのだと。

 必死の懇願であったけれど、残念ながら伸吾は首を振る。


「もしも君が毒を受けていたらどう? 犠牲になってくれるの?」

 伸吾が問う。至極当たり前の話を。彼女の覚悟が如何ほどのものかと。

 流石に真菜は口を噤む。自身が同じ立場であったなら、やはり助けて欲しかった。


「それに安心して欲しい。考えていたよりヒュドラは頭が切れるようだからね。洞窟には絶対に毒素を吐いてこないと断言できるよ」

 今のところヒュドラは洞窟の入り口に陣取っているだけだ。しかし、待ち構えるだけで猛毒を吐かない理由は誰にも分からなかった。けれども、伸吾はその理由に気付いたという。


「どうしてなの? いつ吐き出してもおかしくないよ?」

「分からない? ヒュドラは僕たちが洞窟から出ない限り毒素を吐かないよ。なぜなら僕たちは餌だから。洞窟の奥深くで死んでしまえば彼が食べられないからね……」

 言われて全員が気付いた。洞窟に逃げ込んだことまで計算されていたのではと思う。追加的な猛毒を吐かない理由は間違いなく彼が話す通りだ。


「寧ろ今飛び出せば全員が猛毒を浴びる危険性があるよ……」

「伸吾っち、じゃあここは安全ってことだね? まあいざとなれば、あたしがデバイスで猛毒を吹き飛ばす。最終的には小松君と支援科の二人を安全に逃がしてあげる」

 不安そうな真菜に莉子が言った。彼女の柄にはデバイスが仕込んである。中級の風魔法であり、猛毒を近付けない程度には使えるらしい。


「金剛さん、その必要はない。僕はリーダーとして最後は前に立つつもりだ。最悪の展開になった場合は君たち全員を逃がすから安心して欲しい」

 とにかく魔力回復薬が尽きるまでと伸吾が話す。どうしようもなくなる前に決断すると彼は付け加えた。


 今も外からはヒュドラの鳴き声にも似た唸るような声が聞こえている。まるで早く出てこいと急かすかのように。餌になれと命令するように……。


「もう駄目! 真菜、交代して!」

 ここで西村千尋の魔力が切れた。彼女は二本目を口にしている。

 想定よりも早い。かけ続けなければ効果がないピュアリフィケーション。舞子を救うかどうかの決断が近付いていた。


 ところが、治療を続けてと伸吾。彼はまだ信じている。信頼する仲間が登場することを。この状況を打破できる強者の到着を……。


「奥田君……」

 彼ならばと思う。飛竜にさえ立ち向かった彼であれば、この窮地をも好転させられるだろうと。

 険しい顔をしつつも、伸吾はまだ抗うつもりだ……。

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