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オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる  作者: さかもり
第二章 騎士となるために

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ロックウルフ

 一八と莉子がミノウ山地を下りるまで一時間。ようやく二人は任務を終えていた。あとは森を抜けて帰るだけ。ここからの魔物は生駒たちの担当エリアであり、二人にとっては任務外である。


 かといって遭遇した場合は問答無用で斬り掛かっていく。一匹ですら逃すつもりはなかった。

『奥田候補生、応答してくれ』

 帰路に就く一八にどうしてか西大寺から通信があった。二人はもう試験区間を探査し終えたというのに。


「奥田です。要件をお願いします」

『すまないが、そこから東に進んでくれ。五班のペアがワーウルフの群れに囲まれている。救助してやって欲しい』

 どうやら救援の要請らしい。かといってワーウルフは危険度がEランクである。それも群れているのが前提だった。仮にも五班はAクラスだというのに、ワーウルフが現れただけで動けなくなってしまったようだ。


「了解しました。何頭いるんすか? 救援ってことは大規模っすよね?」

『群れは30程度らしい。問題となっているのはワーウルフじゃなく、群れを統べるロックウルフだ。ペアのどちらもダメージを与えられていない』

 ワーウルフは四段階に進化する。最上位種がクリスタルウルフであり、アメジスト、シトリン、ロックとランクが落ちていく。最上位種のクリスタルウルフはAランク指定の魔物であったけれど、ロックウルフはDランクだった。


「総合的にCランク相当になるだろう。お前たちの位置から東へ四キロ。急いでくれ」

 言って通信が切られた。直ちに方向転換する一八。二人が会話にて確認することなどなかったけれど、莉子もまた彼に続く。


「カズやん君、ロックウルフはあたしに任せてくれない?」

 道すがら莉子が言う。既にハーピーの群れを殲滅していた彼女だが、まだ魔力が十分なのか自信満々である。


「じゃあ任せる。俺は雑魚を一掃するぜ」

 一八の一太刀は何頭もを一度に切り裂けた。従って、この担当分けは間違っていないどころか、最適解である。早々に片付けるつもりならば、それ以外には考えられない。


 全速力で森を抜けていく一八たち。しばらく進むと開けた場所へと辿り着いていた。もうそろそろ指定されたエリアだ。一八は目を凝らして前方の様子を確認する。


「いたぞ!」

「あたしは群れを飛び越えるから!」

 やはり聞いていたように30頭はいた。完全に囲まれているような感じだ。

 莉子は取り囲む雑魚を飛び越えて、中心へと降り立っていく。


「俺は背後からだ!」

 一八は一八で不意打ちを仕掛ける。全頭が中心に向かっている状況であれば、一掃しやすいはずと。

 瞬く間に四頭ものワーウルフを斬り裂く。時を移さずワーウルフが襲いかかってくるけれど、一八は刀を振るだけであった。


 みるみるうちにワーウルフは数を減らしている。魔力など込めなくても一八の敵ではない。正確に面を捕らえる一八の刀は抵抗なく振り抜かれ、その全てを一瞬にして両断していた。


 一方で莉子はワーウルフが取り囲む中心地へと来ていた。一八が背後から斬り掛かってくれたおかげか、群れは動揺している。襲いかかってくるよりも、ワーウルフの意識は一八に向かっている。


「大丈夫? あたしたちは救援要請を受けてきた!」

「まだ大丈夫だ。どうしてもロックウルフにダメージを与えられなくて……」

 ペアは男女の二人組みであった。二人共が細身の剣。アタッカー不在の現状を莉子は察知できている。


「ロックウルフは任せて。それよりワーウルフくらいは戦えるのよね?」

「ワーウルフなら問題ない。って来たぞ!?」

 確認中であったものの、ロックウルフは空気を読むことなく襲いかかってきた。しかし、別に不意打ちということでもない。莉子は動揺することなく、片手で刀を抜く。


 刀を水平に構えた。どうやら莉子はロックウルフの攻撃に合わせるだけのよう。けれども、その刀身には目に見えて風属性が発現している。


「頼むよ、薫風――――」

 閃光一閃、莉子が刀を振った。目にも留まらぬ速さで振り抜かれたそれは静寂を維持したまま切っ先を変えている。

 襲いかかったロックウルフは口元を境にして、頭部と四肢が引き裂かれてしまう。飛びかかった勢いのまま、上下に分かれて後方へとそれぞれが落下していた。


「後ろからワーウルフが来るよ!」

 ロックウルフを斬り裂いた莉子だが、直ぐさま指示を出す。戦いが終わるまで彼女の集中は続いていく。

 自身もまたワーウルフを斬っていった。もの凄い勢いでなぎ倒す一八に負けてはならないと。ロックウルフを討伐したくらいでは満足できないといった風に……。


 一八たちが参戦して僅か五分。大規模なワーウルフの群れは姿を消し、膨大な数の死体が地面には転がっている。

 一八が刀を鞘に収めると、莉子もまたそれに続く。ただ助けられた二人は呆然とし、二人を眺めているだけであった。


「莉子、街に戻るぞ?」

「そうだね。もう安全そうだし……」

 追加的な任務は完遂となっている。ならば帰路を急ぐだけだ。安全が確保されたのであれば、もうここに用はない。


「あ、待ってくれ! 救援すまなかった……」

 エアパレットを取り出す二人にペアの男が声をかける。流石に感謝くらいは言っておくべきだと。仲間であり当然の話であったけれど、礼儀として頭を下げていた。


「飯塚、気にすんなよ。そこの跳ねっ返りは気にしていないようだぞ?」

 男はAクラス27番手の飯塚というらしい。また一八は彼のパートナーについてもよく知っているようだ。


「感謝はしてるわよ。わたしたちじゃ太刀打ちできなかったんだし……」

 皮肉めいた一八の話に彼女が返した。

 ペアのもう一人は浅村アカリである。彼女とは座学にて頻繁に顔を合わせている仲だ。少しくらいの嫌味を口にしたとして問題はない。


「まあでも、魔力調節上手くなっただろ? 今も魔力切れしていないのなら……」

「あんたに言われても嬉しくないわ。わたしよりずっと上手く調節できるのだし」

 努力の甲斐あってアカリはAクラスへと滑り込んでいる。愛刀も軽いものに変更し、魔力の消費を極限まで抑えていた。しかしながら、それが原因で攻撃力不足が露呈し、結果としてロックウルフが現れただけで何もできなくなっている。


「お前たちの班はもう少し考えて編成したらどうだ? ロックウルフは別に強敵じゃない。いつも救援が来るとは限らんしな?」

 雑談ついでに一八が言った。Dランクの魔物が現れるだけで戦えなくなるのなら、この先が思いやられてしまう。


「奥田、これでも編成は考えたんだ。しかし、五班は全員がスピードタイプ。お前たちみたいに魔力も十分じゃない。俺たちはAクラスにいるけれど、まともに戦える戦力じゃないんだ。たぶん四班も似たようなものじゃないかな……」

 飯塚が一八に返す。彼曰くまともに戦える戦力は三班までだという。そこからは明確に能力差があって、Bクラスと何ら変わらないのだと。


「四班以下はずっと入れ替えがあるのよ。Bクラスを行ったり来たり。同じ騎士ではあっても、貴方たちとはまるで能力が違う。わたしたちはAクラスに残ることだけでも精一杯なのだから……」

 溜め息混じりにアカリが続けた。この度の試験に合格すれば混成試験に挑むことになる。しかし、彼女は期待するよりも不安げな表情を浮かべている。


 一八は何も口にできなかった。それは彼もまた理解していたから。日々の努力は知っているけれど、体格的なことであったり魔力的な問題であったりと、下位の候補生たちには少なからず不安要素があるのだと。


「あたしは去年魔力切れをして試験に落ちたけど、飯塚君や浅村さんみたいにウジウジしてなかったけどな……」

 ここで莉子が二人に言った。不安ばかりを口にする彼らに追い打ちをかけるように。


「もっと足掻きなよ? 一度死んだと思えば何だってできるはず。あたしは試験に落ちた日に弔いを決めたよ。あたしはパートナーを失ったことで、あの魔物を必ず倒そうと思った。たとえ返り討ちに遭おうとも、絶対に仕留めてやるって……」

 莉子は試験でパートナーを失った。だからこそ五体満足である二人が憂鬱そうにしているなんて我慢ならない。


「今のままなら助けなきゃよかったよ。君たちはロックウルフに殺されているべきだった。仲良くワーウルフの餌になるのが相応しい……」

「おい莉子!?」

 歯に衣着せない莉子の話に思わず一八が割って入る。彼らだって頑張っているのだ。ふて腐れていようが仲間に違いなかった。

 しかし、莉子は一八の制止も聞かず、最後の言葉を投げてしまう。


「君たちに価値はないよ……」


 一八は視線を外している。彼らとて騎士学校に入学を果たした剣士なのだ。それに価値がないなんて、気付いたとしても口にできる話ではなかった。


「俺たちは騎士として駄目か……?」

 意外にも飯塚が言葉を返している。それは薄々感付いていたことだろう。ハッキリと口にされることで踏ん切りが付くこともあるはずだ。


「誤解しないで? 騎士に限って価値がないのではないから……」

 飯塚の疑問に、どうしてか莉子は否定をする。彼女はたった今、彼らに価値がないと言った当人であったというのに。


「人として価値がない――――」


 これには三人共が唖然としてしまう。騎士以前の問題だと莉子が明言してしまったから。

 完全否定であったけれど、誰も反論できなかった。他人と比べるばかりで成長を諦めたような二人には適切な言葉であるのかもしれない。


「カズやん君、行こう。時間を無駄にした……」

「お、おう……。お前ら気を付けろよ。ここは山地じゃないが、今程度の魔物が頻繁に湧く。倒せないのなら囲まれる前に逃げろ」

 去り際に一八はアドバイスをした。流石に放っておけないと。


「ほっときゃいいよ。この五ヶ月で何をしてきたのか知らないけど、どうせ騎士学校に縋り付く努力しかしてないのだから……」

「莉子、それくらいにしてやれ!」

 最後まで莉子は腹を立てているようだった。彼らが努力していたのは認めても、その方向性が間違っていると言わんばかりに。


「カズやん君、はっきり言わなきゃ分からない人もいるんだよ? だから、あたしは教えてあげるの。騎士がすべきこと。それは決して自分自身が生き残るための努力じゃない。ましてAクラスに残るための努力とかあり得ない……」

 莉子が続ける。どうにも我慢ならなかったのか、彼女が抱く理想を口にしていた。


「騎士とは全てを守る者の称号。常に強さを追い求め、その責任と重圧に耐えられる自信を得た者だけが騎士を名乗るべき。はっきりいって君たちは負け犬だよ。教官に尻尾を振るだけの駄犬だわ……」

 浴びせられる言葉は教官よりも厳しいものだった。まるで戦力外を通告しているような内容である。


「ダメージが入らないから助けを求める? ホント笑っちゃう! あんたたち飛竜に襲われたことある!? カズやん君はたった一人で戦ったんだよ!? 幾ら斬り付けても弾かれて、効いた素振りすらしない強大な魔物。ロックウルフ千匹に襲われる方がずっとマシな相手よ! それなのにカズやん君は救援を呼ぶことも、逃げようとすらしなかったわ。君たちは黒焦げになってまで剣を振った経験があるっての!? 精神力だけで剣を振り続けられる!? できないのなら、簡単に才能だ能力だなんて口にしないで!」

 声を荒らげる莉子。どうやら彼女は二人が才能だと決めつけていることに怒り心頭であるらしい。決して一八が能力だけで飛竜を討伐したわけではないのだと。


「簡単に諦めるんじゃないっての!――――」


 最後の台詞は二人にとって耳が痛い話であったことだろう。ロックウルフが現れるや救援要請していたのだ。防御に徹した剣がロックウルフに届くはずもなかった。


 先んじて莉子がこの場を去る。一八は過度に二人を気にしていたけれど、ペアは一緒に行動しなければならない。よって何も声をかけることなくこの場をあとにした。


 残された飯塚とアカリ。しばし考えさせられてしまう。まだ任務の途中ではあったけれど、騎士という存在を今一度考える切っ掛けを与えられている。


 静けさを取り戻した森はそんな思考を始めるのに相応しいシチュエーションであったことだろう……。

応援よろしくお願い致しますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 凡人相手にキレすぎな気がしますけど 一八くんに信仰心を抱いてしまった反動なんですかね
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