国盗りか、分家か
10年後の世界にも大きな影響を与える、シオジたち英雄の関係はどのように作られたのか?
その舞台の裏側には、このような王家の暗躍がありました。
優秀な兄と妹と、二人の有望な王位継承者を抱えることは、いろいろと将来を考えていたのでは?と、想像します。
「どうしたものかな?」王が宰相に尋ねた。
現王シャンパニ17世は、情けの君主として国民の信望も高く、そしてその政治的辣腕は周辺国家においても一目置かれるほど。その傑人が心の底から迷っている姿を臣下に見せることは珍しい。まだ三十代である若き国王であるが、疲れがその美貌をゆがめている。
「何せ、10年ぶりの聖女がらみの噂話ですからね。もみ消すのも悪手。できれば利用させていただきたいところですな」これも年若い宰相は、悪そうな微笑みを浮かべると、聡い主君の気付きを待つ。
「周辺にはあの子にちょうど良い王族男子がたまたま居ない」
王は、たまたまという単語にアクセントをつけていた。
「騎士爵と聖職者の組み合わせは自然だが、王族と騎士の次男では問題だらけだ、ふつうは」
「そうですね。普通は国の乱れにつながりますね」
「まったく聖女の当たり年と喜んでいたのは、何だったのかな?」
王の言葉は受け取るものによっては、嫌みとも叱責とも捉えることができるものだったが、宰相は平然として、
「そこで、臣の甥が役立てればと愚考している次第で」と、答える。
謁見の間は、とうに人払いを済ませんていた。
「賢者予定者だったな。それほどの男か?」
「まだまだ、鍛えなくてはなりませんが、シオーグも厳しく接しては居るようで」
「ふむ、利用するか。内政と軍政の改革の一挙両得とは、聖女のたまものではあるな」
「太子も聡明であられます上は、外に置くのも国家百年の計、どころでない効果が見込めます」
二人の間には共通の言葉が浮かんでいるようであった。
「外征」王がつぶやく。
「逃れ王族の末裔が、逆に攻めるか?可愛い娘に宝剣を授けて」
宰相は、うやうやしく跪いて、王を見上げると、
「もしくは、分家が本家を上回る将来も想定しておくべきかと」と、口角を上げる。
「では任せるゆえに、10年くらいはあの子の成長を楽しめるよう、調整を頼む」
王は親友でもある彼に、すべてを託すことを決意する。
その姿は普段の偉大な王のものに戻っている。しかし、民の支持がない王家は脆い。ましてや逃れ王族は、その経緯ゆえに、民にある種の借りがある。民の心配やら期待やら、つまりは野次馬根性を満足させる必要があった。
「聖女の当たり年での、子供たちの四角関係とは…決してもつれさせてはならぬ」
こうして、国家の最高権威において、最高の演目が公式決定された。
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木場 勝之
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アナザーストーリーも本編と同時進行いたします。作者の趣味嗜好性癖にからむ話題も出てきますので、サブタイトルを見てご興味がなさそうな時はスキップをお奨めします。コロナウィルスによって世の中の変革も進むことが予想されていますが、このような時代であればこそ、見つめなおしてみたいテーマにも言及していきますので、ご意見などを持たれた方はぜひ作者までお知らせください。よろしくお願いいたします。