表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

海の民 第0章

 なぜか大人たちが優しい。

 俺は生来の疑い深さで、それを察知した。

 あの厳しい父でさえ、最近は遊びに行けとしきりに言うようになった。

 あの帽子を脱がないことを神に誓ったから、神殿でも脱げないからと行かなくなった厳格な父がだ。


(でもどうして、帽子を脱がないことを誓ったのかな?)


 あの頃の俺は知らなかったんだ。

 わが一族に掛けられた恐ろしい呪いの存在を。


 そんなわけで10歳になったばかりの俺は、同年代の友人の元を訪ねることにした。

 馬鹿と話すのは疲れるが、これも心の鍛錬だ。


「シオジー、知ってるか」

 あ、馬鹿がいた。

「女って、ほめると懐くらしいぜ」

 馬鹿はやっぱり馬鹿だな。

 こいつは一目ぼれした身分違いの恋を成就するために、勇者を目指しているはず。なのに、努力の方向性を間違っている。

 それに懐くとは何だ。動物でも飼っているつもりか?

「あたし褒められたことない」

 口を尖らしたままのサクラが、ジダンの裾をつかむ。

 ほめなくても懐かれているこの状況、二人には疑問が湧かないのだろうか?

「サクラは、ほめなくてもいい子だから」

「えっ?サクラは良い子?」

 急にテレテレと元気になったな。だが残念だが、ジダンの言っている意味は違いますよ。

「もちろん。サクラは、ほめなくても良いよね」

「うん。ありがとう」

いつも通りで何よりだ。

「ゴホン。ヒメ様には、竜のアギトでも得てから言えよ」

 俺はなぜか意地悪したくなって、相手の名を明らかにしてしまう。

「な、なんのことかな?ヒメさまって、俺が言っているのは、いや違う一般論、そう一般的な話だよ」

 ずいぶん滑舌が良くなったな。わかりやすい。

「ヒメちゃんが、どうしたって?」どす黒い闇が渦巻きだした。ように見えた。


「うん、この展開は新しいな」

どこかで、誰かがつぶやいているのが聞こえた。


 

 だが、なぜか密度が濃いな。

 祭りの準備でもあったのか?


 いきなり、サクラが表情を整えて、髪も撫でつけ出した。

「どうしたサクラ?熱でもあるんじゃないか?顔が赤いぞ」

「べっ、別に普段通りのワタシですわ」

 鈍いな勇者は。

「それにシオジも賢者を目指している割に馬鹿よ」


 へっ?

 馬鹿?

 この俺が?


 いや待て、そこは問題でない。

 なぜこいつらまで、「賢者」の称号と俺の夢を知って居るのか?


「賢者って、なかなかだな」

 近くの大人がつぶやいた。


 そう俺は賢者を目指しているのだ。

 勇者を目指している馬鹿とは違う。

 ジダンとは違うのだ。ジダンとは。

 サクラを振り向かせるのは、最終的に俺一人で良いのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ