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SIDAS  作者: サチ
【天上で煌めく星座たち】
6/7

5.空へと

『6番、“cielo”、銀』


淡々とした口調でアナウンスが流れる。

こういう結果を、覚悟していなかったわけではなかった。でもこの数か月間、夢みたいな世界で過ごしてきた俺にとって、受け止めるにはあまりにも重たい現実だったのだ。

虚無に身体の中を支配された透に構わず、粛々と結果発表は続いてゆく。

『では最後に、金を獲得したユニットの中からCブロックの代表を発表します。2番“Hater Breakers”!』

「やったーあ!あは、やっぱり僕たちがブロック代表でしたね!」

「ああ、だが一喜一憂してる場合じゃないぞ。俺たちにはまだ、トーナメント戦も、ステージコンクールでの戦いも残っているんだからな。決して気を抜くな」

cieloのあの初舞台を見ていた金髪の少年と長身の青年が自分たちの勝利への一歩を喜んでいる。その後もどんどんと代表が発表され、人々の熱気が冷めやらぬまま、閉会式は幕を閉じた。


「兄者…、申し訳、ありません…でした」

透は表情を1つも動かさないで、力無く2人に謝罪した。

必ず勝利を献上すると誓ったのに。誰かの役に立つようなことを成し遂げることができれば、俺はもうくだらない有象無象じゃなくなる、特別な何者かになれる、そう思ってたのに。現実はご丁寧にはっきりと示してくれた。自分には、物語の主役どころか脇役にすらなる権利なんてハナから与えらえてないということを。今まで見ていたものは、すべて一時の夢だったということを。

そう考えていた透の両肩に、重苦しい空気を押しつぶすように2つの手がポン、と置かれた。

「また次、がんばろーね!」

纏がいつも通りの笑顔で言う。その状況に透は混乱する。

「へっ!?()()!?とは!!?」

()()()()だろ。もう1回てことだ」

どういうことだろう。もう自分にはチャンスはないと思っていたのに、どうして。

「あの、お待ちください2人とも!もう1回とはなんですか?僕たちcieloは、この予選で負けてしまったら解散するのでは!?」

「「は?」」

透の言葉に、英利も纏も口をあんぐりと開けて茫然としている。

「お前何言ってんだ…俺たちを勝たせるために全力を尽くすって言っただろうが。んで、このザマだ。いいか透、お前から “勝利”を貰うまでは、俺たちの命令に従ってもらうからな」

透は目を見開いた。確かに自分は、まだ彼らとの誓いを果たせてないのだ。

「それとも、それを途中で投げ出させてくださいって言いたいわけか?そりゃ無理なお願いだぜ」

「俺たちは、君の尊厳の在り方を左右する権利を貰ったんだからね。こんなメシウマなもの、簡単に手放すなんてもったいないよ」

2人は、まだうまく状況を呑み込めていない透を真っ直ぐ見つめる。

「いや…しかし、僕はあなた方の輝かしい栄光に無様に泥を塗ったんですよ!?それに、僕がその栄光にあやかりたいと近寄ってきた人間だということもあなた方は分かっているはずでしょう!?それなのになぜ———」

「お前会話下手か?さっきの話聞いてなかったのかよ」

うろたえる透に、英利は眉根を寄せてうざったそうな顔をした。

「絶対服従、つっただろうが。お前を手放すのも、手元に置いておくのも、俺たち次第だ。分かったか」

ぶっきらぼうに英利がそう言う。

透の右頬を、冷たい何かがつたった。

「透、英利のやつ、あれで一生懸命励ましてるつもりだからさ!素直じゃないだけでね」

「纏、てめえ余計なこと言ってんじゃねえよ!」

纏と英利の賑やかな会話を見て、透は自然と笑みがこぼれる。



現在。

『それでは、金を獲得したユニットの中から、Eブロックの代表を発表します。……3番“cielo”』

その言葉を聞いた透は、1年前のあの時とは大きく見違えるような表情をしていた。誇らしく、堂々と前を見つめる。

『なお、代表に選ばれたユニットのリーダーである生徒は、ただいまからトロフィーの授与がありますので、至急舞台袖へと来てください』

アナウンスが終わると、透は英利と纏の方を向く。

「兄者」

「ああ」

「いってらっしゃい」

その言葉を胸に、透はその場を後にした。



「うわー!これが代表のトロフィーかぁ~。金受賞した時の盾はもらったことあるけど、やっぱトロフィーとなると段違いに立派だね~」

「意外と重いもんだな」

英利と纏はトロフィーを見ながら好き放題話す。透は、改まった表情で2人を見た。

「兄者…いいえ。英利さん、纏さん。僕は、あなた方に勝利を捧げることができました」

出会った時のような穏やかそうな顔を、透は見せる。しかし、その表情は余所行きの取り繕ったようなものではなかった。

心から、自分たちの勝利を喜ぶ噓偽りのない微笑みだ。

「捧げることが()()()()()、だって?まさかあの時みたいに、これで終わったなんて言うつもりじゃねえよな?」

英利は、愉快に挑発するような口ぶりで透に言う。その横で、纏はくすくすとしており、笑いを隠せない様子だった。

「ええ、もちろんですよ」

透は、自信に満ち溢れているような顔で言った。


「僕があなた方に捧げるのは“完全勝利”です!共に参りましょう、1番高い場所で輝く星になるために!」



【天上で煌めく星座になるために】 Fin


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