表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/28

第9話 きゅう(理)

 いかがわしい初心者の館から離れること30分程。いかがわしい雰囲気の一帯を後にした俺達は、ひとまず作戦会議をするためにいかがわしくない宿屋を借りることにした。


 ところが、再度俺達は()()()()に直面することになるのである。


「いやぁ、参ったな」


 俺がため息混じりに吐き捨てた台詞に一同も頭を抱えながら同意した。


「まさか最初の街に無一文で放り出されるのがここまでハードモードとはね」


 宿屋の前で立ち尽くす男女四人。ついには店の前の段差に腰掛け、今後の方針を決める事にした。一つ気になるとすれば、千里さんの座り方がコンビニ前に集合した輩のそれそのものだという事だが。


「そもそもなれた君はどこに行ったんだ?」

「ここに着いた時にはもう居なかったよね?」


 阿澄が辺りをキョロキョロ見回すが当然のごとく新しい発見は無い。


「提案があるんですけど」


 俺は声の主を目で追いかけた。賢二さんは眼鏡を押し上げながら体育座りで手を上げている。


「なんですか? 賢二さん」

「我々に圧倒的に不足しているモノが二つ!」

「はい」


 俺は少し身を乗り出したが、女子二人は微動だにしない。


「“情報”と“資金”であります! 特に資金の確保は急務! 文字通り死活問題です。故に早急にこれらを掻き集めねば!」

「この世界では、そうなりますね。まあ、いざとなればダイブアウトという手もありますが」

「なれた君がいない今、セーブが行われているのかどうか怪しいところだけどね」


 千里さんはジーンズのボトムという事もあって股が完全に開いている。元ヤンか何かか? この人。


「てか、なれた君がいない今、続ける意味があるのかって感じ」

「あれ? そういえばここに呼ばれてからシステム画面開いた覚え無いな」


 俺はおもむろにシステム画面を開くように頭の中で念じてみたが、いつものように目の前にそれが現れる事は無かった。


「おいおい……。まずいぞ」

「私のシステム画面開かないんだけど!」

「あ、僕もですね」

「……私もダメ」


 10時間で強制終了になるはずとは言え、万が一システムに異常が発生していた場合、それすらも超えてダイブする羽目になるかもしれない。


「8時間経って警告が来なかったらヤバイな。今大体説明だなんだで1時間ぐらい経過してるとして……」

「RPGの(てい)で物語が進んでいくわけですから読了まで……ええと……?」


 賢二さんも立ち上がってその場をウロウロし始めた。考え事をする時の癖だろうか。阿澄と千里さんがこちらを不安そうに見つめている。


「俺が聞いた話では最低でもラスボスと四天王は明示されていた。経験から言って最低でも80~100時間、いやそれ以上も覚悟しておいた方がいい。そもそも俺達の目的はバグ取りな訳でイベントをスキップできるとは思えない」


 異世界ファンタジーやゲーム世界閉じ込め系を読んできた(体験してきた)俺のざっくりとした体感ではあるが。


「初期実装の頃、オーバーダイブしたことがあるけどはっきり言ってダイブアウトした後は史上最悪の気分だったわね」

「ちなみにその時は何時間程?」


「五日」


 こともなげに答える千里さんとは対照的に俺達はドン引きしていた。ヤバイ、この人超えちゃいけないライン踏んづけてる。


「……五日間は一応生存確認されてるわけね」


 やっとのことで阿澄が言葉を絞り出す。


「いや、頭に飛び込んでくる情報量次第ではその目安も前後する。主人公かモブか、五感をどの程度使うかによって寿命が早まる可能性もある」


 そう、俺がボクサーが主人公の物語にダイブした時は3時間後でも眩暈がしたぐらいだ。


「その時ダイブしてたのは……確か……アダルトカテゴリーの……」


「×××が○○○を【NG】【NG】【NG】する話でくぁwせdrftgyふじこlp」


 あー……、ダメダメ。もう既に情報量がエグイ。


「な、なるほど。体感型で五日間程度が限界という事でよさそうですね」


 賢二さんの眼鏡が曇る。阿澄の顔も曇る。俺は雲を見上げる。


「ともかく、クリアに向けて動きつつもなれた君を探さないと大変なことになる」

「情報収集班と資金調達班に分けて行動した方が良さそうね」

「けど、スマホも無い世界でバラバラになって大丈夫なの?」


 言われてみれば確かに。時計も無いし集合場所も決めづらい。離れ離れになって一方に何か緊急事態が発生したら大変だ。


「これは、偏執者()の出番という訳だな」


 スキル、又は魔法を偏執(クリエイト)して通信手段を手に入れるか。ていうか、スキルはまだ生きてるんだろうな? なれた君がいないと発動しないなんてことになったら完全に詰むぞ。


「ちゃららら~ん♪ちゃっちゃっちゃ~♪」


 全員の冷ややかな視線が突き刺さるが俺は気にせずスキルを発動する。


「『意図念話(いとねんわ)~』」


「(聞こえますか……あなたの心に……話しかけています……)」

「えっ、何これ気持ち悪っ!」

「(全員にスキルを付与したから相手を思い浮かべて話しかければとりあえず四人の中では会話が可能だ!)」

「(これはなんとも便利なスキルですな!)」

「(じゃ、早速動きましょ! 時間が惜しいわ!)」

「(みんな、馴染むの早っ)」


 通信手段を得た俺達は二手に分かれて行動することに決めた。


 パーティーはスキル『意図念話(いとねんわ)』を獲得した!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ