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第8話 はつ(たけぇ!)

「ところで、お姉さんはなんと呼べばいい? 一応俺達下の名前で呼び合ってるんだが」

「そっか、じゃあ簡単に自己紹介ね! 名前は千里(ちさと)、職業は無し! 年齢は非公表! 以上!」

「簡単すぎるし、謎すぎる」

「私より年上ですか?」

「おお、無職仲間!」


 そういえば、気になってたことが一つ。


「賢二さんはずっと無職なんですか?」

「いや、つい先日、長年の上司のパワハラに耐えかねて辞表を叩きつけてきたところでしてな」


 む、これはざまぁの種のニオイ!


「幸い、退職金と色々ぶちまけたおかげで慰謝料も入って来まして。少し休憩も兼ねてインスタでも始めてみるかなと思った次第」

「辛いことを聞いてしまったな。悪かった」

「いや、でもそのおかげで今こうして皆さんに会えているわけですから」


 なれた君、君の精神鑑定は素晴らしいものだった! 今は一旦そう思っておこう!


「さて、ではこれからやっとのこと、君達を始まりの街へ連れていける」


 なれた君は心底嬉しそうに祈りのポーズをとった。




 ――『ここはスタルト』とだけ書かれた粗末な立札。その横には『初心者の館、教会の右隣り』と赤と黄色のペンキでわざとらしい位に目立つ看板が立っていた。街の入口は魔物の侵入を防ぐためか、人の頭より少し高い程度の石垣で囲まれ、その上には木の枝を削って作ったのであろう鋭利な棒が並んでいる。


「一昔前のRPGでは定番だったけど、いざ自分が体験すると不思議な気分ね」


 千里さんがポツリとつぶやく。確かに、自分の立ち寄った街がたまたま始まりの街だなんてご都合主義にもほ程があるが、ここはしかしなれた君もいきなり俺達を死地に送り込むわけにはいかない事情を酌んでやりたい。


「あれ? そういえばなれた君は?」


 阿澄がキョロキョロと周りを見渡すが、俺達四人の他は、街の警備兵みたいなおっさんと町人だけのように見える。


「ほんとだ。いない。妖精姿のナビゲーターは必須だというのに!」

「とりあえず『初心者の館』に行ってみましょうか」


 賢二さんが指差した先には、教会、いや正確には教会のものと思われる十字に丸をくっつけたような十字架(?)が立っているのが見えた。


「え、でもアレ、女のマーク(♀)じゃない?」

「女性を神聖視していると言えば不思議じゃないし、全く意味の違うマークかもしれない。とりあえずはあそこを目指そう」


 という訳でなれた君の行方が分からないまま、街の中心部を目指すことにした。


「いや……しかし……これは」

「ほんとにこんなところに……?」


 次第にパーティーの不安は募っていく。なぜなら目指した先に行くにつれてどこか退廃的な雰囲気が増して行き、周りをうろつくのはキレイに着飾った女性と顔の緩んだ男のペアばかりが目につくようになってきたからだ。


「俺達が目指してるの、教会だよな?」

「多分……」

「え、待ってこの感じ私と千里さんも()()()()()だと思われてない?」

「あり得るわね」


 千里さんと阿澄の表情がだんだんと険しくなっていく。


「とりあえずこの角を曲がったあたりだと……」


 果たして、角を曲がった先の建物には先ほど目撃した女のマークが立っていた。

ただし、下に生えているのは下品極まりない鮮やかなネオンと怪しいピンクの装飾で塗りたくられたどう見てもいかがわしい店だった。


『初心者の館!! 初心者大歓迎!! お姉さんがじっくり教えてくれます!!』


「初心者ってそういう……」


 阿澄の顔は曇りを通り越して闇に覆われていた。


「いや、まだわかりませんぞ! 中に入ってみるまでは!」

「ああ! そうだな! とにかく中に入ってみよう! 確認が大事だ! 二人はここで待っていてくれ! 場合によっては一時間ほどかかるかもしれん!」


 あっけにとられる女性陣を背に、ズンズンと歩を進める俺と賢二さん。ココには何かある。俺の野生の勘がそう言っている。


「いらっしゃいませ~」


 受付に立っていたのは黒いタキシードを着た男性従業員だった。


「お客様、当店のご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


 俺と賢二さんは目を合わせ、そして男性従業員に向かってゆっくりと頷いた。


「では、お客様二名様。前金でお一人50,000(ジール)となりま~す」


 男性従業員の張り付いた笑顔を見ながら俺達も凍りついた。


「賢二さん。俺達この世界のお金ってもらったっけ」

「いや、なれた君にはもらってないですね」

「そもそも1zって大体何円ぐらいなんだろう」

「お客様イセカイの方ですか? こちらのセカイでは大体2円が1zぐらいの感覚で利用できると聞いておりますが」

「そうすると単純に倍か」

「……たけぇ!!」


 なおも張り付いた笑顔のままの男性従業員がこちらの顔を覗き込みながら再度確認するように告げてくる。


「50,000zになります」


 ――俺と賢二さんは奥から出てきた屈強な男性従業員に店の外へ放り投げられた。それを見ていた女性陣は便所を掃除した雑巾でも見るような目つきで俺達の事を見てきたので、今後の事を考えて素直に謝罪した。


「スイマセン、先走りました」

「いや、面目ない」

「ともかくここを離れて情報収集をしましょう。なれた君がいないとどうしようもないわ」

「ほんと、千里さんが一緒で良かった」


 男共はこれから始まる冒険での序列が一段下がった!!

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