第4話 し(意、猛。)
「チュートリアル……?」
俺は目の前の豊満ワガママ全開ボディのお姉さんに問いかけた。ゲームやラノベじゃあるまいし、ふざけるのも大概にして欲しい。
「そう、チュートリアル」
「何の?」
「世界の様子について」
待て待て。俺は確かにインスタントワールドの電源は落としたぞ。ここは、現実のはずだ。
「ここは現実だぞ、みたいな顔をしている」
心を読まれた!? と思ったが、誰だってそう思うに決まってる。実際そんな顔もしているはずだ。
「残念。ここはまだ『アルカディア・ボックス』の中だ」
「いやいや、俺は電源を落として現実に帰還したはずだ」
「――という物語を読んでもらった」
は? バグか? 何を言ってるのかさっぱりわからん。と言いたいところだが、ラノベでは使い古された導入なので、俺はすんなり一つの結論に行き着いた。
「お前、小説家になれた君か?」
「ご明察」
色々聞きたいことはあるが、まずこれだ。
「この状況は一体?」
「これは、誠に申し訳ない話で、もう君もうんざりするほどこの手の話は知っていると思うが、僕のシステムの一部がバグっている」
なるほど、次はこれだ。
「目的は?」
「話が早くて助かる。君に冒険をして欲しい。バグを打ち倒す旅だ」
なれた君によると、自身の一部がバグってアルカディア・ボックスの掌握を目指しているらしい。目的は洗脳。確かに世界に1億とも言われるユーザーの脳に直接働きかける事が出来るのだからこれが完了したら恐ろしいことになる。
「システムの管理者にお願いした方がいいんじゃない?」
「その、システムの管理者が所謂世界征服を目指しているんだ。つまりバグは意図的なものと言える」
ああ、いつの世も世界征服に心踊らされる厨二の輩は湧いて出てくるものだ。
「奴らは字語句の軍団を名乗り、行動を開始している。その首領は、魔王ザーマ」
ザーマね。はいはい。
「四天王にチィト、チートではないぞ。チィトだ。それにハレム、コニャックとその使い魔、覇鬼。そしてツイフォン」
なるほど! ざまぁにチートにハーレムと婚約破棄、追放をやっつければいいわけね! こいつは胸が高鳴るぜ!
「なんでまた女神の格好を?」
「異世界への導入は67.2%の確率で女神が採用されている。だから、このようにユーザーの大好きなお色気と可愛さを兼ね備えた姿を取ってみたわけだ」
素晴らしい。さすがは万能AI。ユーザー心理を確実に芯でとらえている。数限りないフィードバックはこのためにあったと言っても過言ではない。
「ちょっと待て。そういえばそもそもなんで俺なんだ?」
「ある意味、この世界の生みの親だから? 後、妄想力。かな」
生みの親は編集者の思いつきなんだが……、まあいいか。
「ところで具体的には何をすればいいんだ?」
「私が見つけたバグをイベントや敵に見立てて貴方の元へ送り込みます。あなたは倒す。話は簡単」
急にキャラ出しの為か、片言になってきやがった。余計な、いや無駄な演出だ。
「敵キャラは敵キャラの姿をしてるがバグって事か。経験値は!? 経験値はあるのか!?」
「お望みならそういう演出にしても構いません」
「チートを倒しに行く物語だけど、こっちのチートは!? 魔法は!? 特技は!?」
「チートじゃなくてチィトですってば。人の名前。そうですね、あなたには職業『偏執者』とスキル『偏執』を付与します。どうですか?」
職業、スキル共に文字当てが少々気になるがまあいいだろう。
「効果は当然……」
「はい、何でもアリです。ただし、重要なことが」
やはり、無制限のチートなんて甘い妄想だったか……?
「バグを倒す旅ですから、基本的に能力の行使は起こった事に対するカウンターです。それと、脳を通じてダメージが入ると体にも影響が表れますのでご注意ください」
「なるほど。こちらから設定や敵の強弱をいじることはさすがにできない、か。悪影響についても理解した」
回復魔法はゆくゆく覚えるにしても、この世界で明確に致命傷を負った場合は最悪、現実世界に戻れなくなるということだろう。というかオーバーダイブでそのまま死、だ。
「意外とノリノリで聞いてもらえたので良かったよ。じゃあ、早速冒険の始まり、かな?」
「断る!」
俺は満面の笑みで答えた。聞くからにすげえ面倒臭そう。死にたくもないし。
「俺はこの物語を傍観者で楽しみたい!」
「いやいやいや。いやいやいやいや……」
AIのくせに明らかに動揺が見てとれる。人類をまだまだ理解しきれていなかったな。
「俺だって死にたくないし!」
「ぶっちゃけ君ほど暇で無駄に妄想力がある人なかなか居ないんだよ!」
失礼な。暇じゃねーわ。積んでるゲームと積んでる小説と未消化のアニメがあるわ! 後、無駄に妄想力があるってなんだ! AI如きが人間様の妄想……いや、想像と創造を定量化するなど、笑止!
「わかった。ここでさらに魅力的な提案その2といこうじゃないか」
「お、プレゼンとは恐れ入ったね。聞かせてくれるかい?」
そこで語られたのは驚愕の事実だった……。
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作中の数字は適当メチャクチャアドリブ数字です。作者の体感ですらありません。ご容赦ください。