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第3話 さん(初)

「フフフ、今日から貴様も我の(しもべ)だ。エルフの姫、ファルル・セルフィ―ヌよ」

「誰があなたなんかに……ああっ!!」

「無理をしない方が良い。この隷属の首輪は反逆の意思を敏感に感じ取る」


  隷属の首輪から伸びる鎖をやや荒く引っ張り、ファルルと呼ばれた女性を引き寄せる。


「反抗の意志が強ければ強いほど性欲が強く刺激されるのだぁっ!」

「な、なにを……っ、くううぅぅっ!」


 ファルルは苦悶の表情を浮かべながらもやがて顔は紅潮し、息遣いは荒くなっていく。また一人魔王パーティーに仲間が加わったのだ……。


 ……なんだこの設定。台詞を叫んでいるのは俺なのに心のどこかでいちいちツッコミが入る。それに……ダメだ。陵辱モノは俺には向いてない。爽やかな青春エロに戻ろう。こういうのは傍観者ダイブの方が良かったかもな。反省反省。


 えっ? ダイブしてエロい事して()()はどうするのかって? 詳細は避けるが、色々便利な拡張キットがある、とだけ教えておこう。良い子は18歳を過ぎてから確認してみてくれ。


 さて、時間を忘れて楽しめるというのは我ながら特権のように感じるが、このシステム、使用制限がある。ゲームは一日三時間までなどとふざけた条例を引き合いに出すまでもないが、この虚構世界へのダイブ、やたらと脳に負担をかける。当たり前だ。感じていないことを感じているように感覚を刺激するのだから。公式には8時間以上の連続使用を推奨していないが、3日4日帰ってこない馬鹿が後を絶たない。中には一週間連続でダイブしてそのまま異世界へ旅立った(死んだ)ツワモノも存在する。


 最も、システム側の対応も早く、8時間で警告、10時間で強制終了するようにアップデートされたが、先述のツワモノは違法改造キットでお楽しみだった様だ。


 いつだって極論めいた規制はこういう振り切ったバカを平均に含めるところから始まる。ス〇ィーブ・ジョ〇ズやビ〇・ゲ〇ツを平均年収に加えるようなもんだ。大抵の一般市民は安心安全に利用しているというのに。


 ……さて、もうこの物語は飽きたし、現実世界に戻ろう。終了、っと。


 ふぅ、腹も減った事だし、コンビニ行こう。今日は麺類の気分だ。俺はヘッドギアを脱ぎ、腰回りのもにょもにょを無造作に投げると一人暮らしには少し広い、賃貸マンションの一室から外に出た。


 外に出るのは実に三日ぶりだ。そして、太陽光も以下同文。余りの眩しさによろよろと立ちくらみを起こすが、気を取り直して、出発。ところが、久しぶりの日光浴のウキウキを打ち消すような光景が目に飛び込んできた。中世の王様みたいな格好をしたおじさんだ。


 実は、システムが普及してからこういう光景は有り難くないことに珍しいものではなくなった。現実と二次元の区別がより薄くなったというか、ま、早い話がさっきの()()()()()()だ。大体が、話しかけなきゃ只のコスプレおじさんなので、ああいう手合いは無視するのに限る。


 俺はコンビニへの道を急いだがおじさんはそうではなかったらしい。


「のう、そこの若者よ」


 突然声をかけられて肩をビクリと震わせてしまった。ああ、めんどくさいことになった。早くこの場から立ち去りたい。え? 俺? とばかりにゆっくりと振り返る。


「そうそう、お主。ちょっとこちらへ」

「あの、急いでるんで失礼します」

「貴様、私をフォテル・ゼンラ・マグワール3世と知っての振る舞いか?」


 知らねーし、なんだそのフザケたネーミングは。


「あの、お気づきでないかもしれませんが、外、出ちゃってますよ?」

「貴様……、ふざけおって! 切り捨ててくれる!!」


 展開が早すぎてついていけないがこれはマズイ。ピンチだ。警察を呼ぶべき案件だ。あの腰に差している剣が切れないにしても当たると相当痛いはずだ。もし仮に、考えたくもないが、万が一剣に切れ味が宿っていた場合、壊れたおじさんの巻き添えを食って午後のニュースや明日の新聞に取り上げられる事態になるかもしれない。


「ちょっと待った! 落ち着いて! おじさん!」


 声をかけたがどうにも届かないらしい。ゆっくりと腰の剣に手を伸ばしていくおっさん。ああ、こんなことで殺人なんか起きたらそれこそインスタントワールドの規制待ったなしだ。いや、俺が死んだあとの世界なんかどうでもいいが。


「そこを動くなよ!」


 あれ、俺さっきまで平和に暮らしてたはずなのにな。急に世界がモノクロのスローモーションに見える。おっさんはどうも、鋭い剣を俺に突き刺すつもりらしい。駄目だ。切れ味はどうか知らんが、先が尖ってるわ。もっと長生きしたかっ…………


「――ん?」


 スローモーションになってるのは走馬灯の一種かと思ったが、現実におっさんの動きが鈍くなっている。むしろどんどん動きが遅くなって、やがて完全に静止した。まるでリモコンの一時停止でも押したみたいに。


「はい、といった感じでチュートリアルでした。なんとなく理解できたかな?」

「は?」


 ――次に俺の目の前に現れたのは、女神のコスプレをした、美女だった。

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